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24日のTBSラジオ「日本全国8時です」の内容~米大統領就任 過去の歴史から現状をひも解く~

24日の「森本毅郎・スタンバイ」の「日本全国8時です」の放送内容をお届けします。

テーマ:トランプ大統領就任~就任時の不安を過去の歴史からひも解く~

58th Presidential Inauguration
58th Presidential Inauguration / The National Guard

トランプ米大統領が就任し、いろいろと物議を醸しだしているが、今日は過去の歴史から米大統領の就任時の不安についてひも解いてみたい。

【就任当初は不安がられていたレーガン大統領】
1981年に就任したレーガン大統領は就任わずか2カ月で襲撃されたことがあった。トランプ新大統領が就任したものの、支持率は40%台と歴代最低で幸先が非常に不安であり、国内のみならず世界各地でデモが起こっている。

レーガン大統領の事件は精神に障害のあるジョン・ヒンクリーによるもので、このニュースが入った時はかなり衝撃的だった。森本さんはニュースをNHKで読み、非常に衝撃を受け、私はワシントンに駐在していた時だった。

銃弾は心臓をかすめ、肺の奥深くで弾丸が止まるという重傷だった。そのため緊急手術を要する状態に。そんな状態にもかかわらずレーガン大統領の意識はしっかりし、ユーモアに富んでいた。さらに、レーガン大統領(共和党)は医師たちに向かって 「君たちは皆、共和党員だろうね」とジョークを飛ばしたところ、 執刀医で民主党員もいたのだが 「今日一日は皆、共和党員です」と ユーモアで返した。このエピソードはかなり印象的で、この出来事によりレーガン大統領の人気は一気に沸騰した。

【ユーモアで一躍人気者に】
レーガン大統領はこういった危機に瀕しているのに関わらずうまくユーモアで乗り越え、それ以後「タフな時にユーモアを忘れないと」皆に愛された大統領となった。それまでは二流の俳優上がりと揶揄され、「本当に世界をリードできるのか」ということを案ぜられていた。

さらに、俳優だったこともあり演説やジョークが非常にうまかった。プロンプターを使い、左、正面、右と聴衆に語りかける話し方は当時珍しく、評価された。また、狙撃後もCIAやシークレットサービスが止めるのも聞かず、 市民の中にどんどん入り込んで握手したりするので周囲がヒヤヒヤしていた。レーガン大統領は「大統領が市民とともにいなくては 信用されないだろう」と命の危険を顧みず民衆の中にどんどん溶け込んでいった。このことも人気が高かった理由の1つだろう。  

レーガン大統領を意識するトランプ新大統領】
今回の就任式をみてどうかというと、トランプ新大統領はレーガン大統領を意識しているように感じる。レーガン政権時代にトランプ氏はレーガン夫妻に会いに行っている。しかも、トランプ新大統領の発言は非常にレーガン大統領に似ている。 共通点としては、「強いアメリカ」。トランプ氏は選挙戦からレーガン氏が使っていた言葉「再び偉大なアメリカを作る」を打ち出している。

※上記は就任式を終えた後のトランプ新大統領のツイッター、参考まで放送後ではありますが2月4日にも再び「再び偉大なアメリカを作る」ことをツイートしている。

政策を比較してみると
レーガン大統領、レーガノミクス
1. 大型減税(法人税所得税率の引き下げ)  
2. 社会保障費の削減と軍事費の拡大
3. 規制緩和による投資の拡大
4. 金融政策によるインフレ率の低下を大きな柱

(トランプ新大統領の表明)
1. 大型減税
2. オバマケア撤廃による社会保障費削減
3. インフラ支出の拡大
4. 規制緩和  
5. 軍事費の増大

上記を見ると非常に類似している。しかしながら、共通項があるものの、本当にレーガン大統領のように実施できるのか否かはまだ見えない。 

 

An old picture with Nancy and Ronald Reagan.

Donald J. Trumpさん(@realdonaldtrump)が投稿した写真 -

トランプ氏が写真共有サイト「instagram」の自身のアカウントに投稿したレーガン大統領とナンシー夫人と共に撮影した画像


【合意による形成を】
トランプ新大統領は、最近の状況を見ると貿易赤字の解消などに取り組もうとしている。一番の特色は自身の「ツイッター」にて口先介入を行ない、個別の企業などを追い込み自分の意図を通そうとしている手法が目立つ。

レーガン大統領の場合は、日本も円安から円高に変わるわけだが、これはプラザホテルで行われた「プラザ合意」によって協調介入という方法でドル高是正を行なっている。このことから、レーガン大統領とトランプ新大統領の手法は全く違うといえる。

しかしながら、レーガン大統領の政策は財政赤字などを招き、必ずしも成功とはいえなかった。「双子の赤字」と言われたり、貿易摩擦も起こったため、それをどうするのかという問題があった。問題解決においては、今回のトランプ新大統領のようにツイッターによって一言でひっくり返すというようなやり方ではなく、関係者を集め合意をしたうえで物事を変えていくやり方をするべきだと思う。

【似て非なる強いアメリカ・・・】
トランプ新大統領の「アメリカ第一」は、レーガン大統領の「強いアメリカ」とは似て非なるものだ。 それは、トランプ新大統領の「アメリカ第一」は「アメリカの国益が第一」という意味だ。それに対して、レーガン大統領の「強いアメリカ」というのは、「強いアメリカにすることで世界の安定に役立つ。」という発想だ。ここに、哲学の違いが大きくあるように思う。

レーガン大統領は「アメリカは世界の警察官である」ということを前面に出していた。「自由主義」、「共産主義」や「人種差別」への反対となど、世界に目を向けた基本的な哲学があった。

それに対して、トランプ新大統領は「アメリカの国益が大事」で、「世界の警察官」はやめると表明している。国益を大事にするために、「フォード」「トヨタ」「メキシコ」などに口先介入している。これをツイッターを使い140文字という短文で表現するため、その背景にどんな哲学があるのか全く理解できないのだ。世界をどうやって引っ張っていこうとしているのかということも全く見えない。

【正念場を迎える日本外交】
「世界の警察官をやめる」というのは、各国に対する「自分たちで国を守ってほしい」という要求の表れだ。これは、日本にとっても影響は大きく、トランプ新大統領は日本に対して防衛費の増額も要求している。さらに、「日本の自動車産業貿易赤字を増大させている」と個別の会社に対して要求している。そういう意味からもアメリカは「どういった哲学や方針で世界に臨もうとしているのか」ということが皆目見当つかず、ただ単に「自分たちの利益を追求している」ようにしか感じられないため、世界が混乱している。しかも、先に述べたとおりツイッターという短文で表現することで、哲学が全く分からないことが混乱の主たる要因となっている。

今後、気になるのは米中関係だ。トランプ新大統領が当選後から就任まで米中双方で激しい応酬が続いている。以前もお話したがトランプ新大統領の「二つの中国問題」は中国の根幹を揺るがす発言。さらに、トランプ大統領の中国がアメリカの潜水艦を盗んだことに対する発言や、中国が南シナ海に基地を作ったことに対して「誰の許しを得てやっているのか」と発言したことにより、中国は台湾付近に空母を周回させたり、南シナ海に爆撃機を飛ばすなど、偶発的な事故が発生することも危惧される。

現在、衝発的なことが多く、見通しがつかないことは今後どのような影響がでてくるのか非常に心配も多い。日本がその部分をどう解決していくことができるのか、日本の外交の正念場でもある。

昨日TBSラジオ『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』 ゲスト:渡部悦和様(元陸上自衛隊東部方面総監でハーバード大学シニアフェロー)

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スタッフです。昨日のTBSラジオ『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』(21:30-22:00)は、ゲストに陸上自衛隊東部方面総監でハーバード大学シニアフェロー渡部悦和様をお迎えした音源が番組サイトに掲載されました。

東京大学を卒業後、自ら自衛隊に入った経緯、幹部候補生学校での訓練についてや、35歳頃激動のドイツに留学、冷戦下のプラハ東西ドイツ軍から学んだことなど、現在の各国トップなどについてお伺いいたしました。本番組はトランプ大統領の就任前に収録しております。

渡部様が昨年11月に上梓された「米中戦争 そのとき日本は」(講談社新書)が好評発売中です。先日、アマゾンの軍事ランキングで1位となり、現在もトップ10にランクインされていらっしゃる本です。あわせてぜひご覧ください。

次週は我が国を代表する軍事・戦略のエキスパートで、現在はアメリカで教鞭を執る渡部様に、トランプ政権の誕生によって、今後気になる米中関係、米ロ関係、そして日本の取るべき姿勢などをお伺いする予定です。

本番組内で話題に上がっていたユーラシアグループの今年の10大リスクのリンクは以下を参照ください。
原文(英):https://www.eurasiagroup.net/issues/top-risks-2017
日本語:https://www.eurasiagroup.net/siteFiles/Services/Top_Risks_2017_Japanese.pdf

5日 TBSラジオ『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』 ゲストに渡部悦和様(元陸上自衛隊東部方面総監でハーバード大学シニアフェロー)をお迎え 

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スタッフです。5日(日)のTBSラジオ『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』(21:30-22:00)は、ゲストに元陸上自衛隊東部方面総監でハーバード大学シニアフェロー渡部悦和様をお迎えいたします。

東京大学を卒業後、自ら自衛隊に入った経緯、幹部候補生学校での訓練についてや、35歳頃激動のドイツに留学、冷戦下のプラハ東西ドイツ軍から学んだことなどについてお伺いする予定です。

渡部様が昨年11月に上梓された「米中戦争 そのとき日本は」(講談社新書)が好評発売中です。先日、アマゾンの軍事ランキングで1位となり、現在もトップ10にランクインされていらっしゃる本です。あわせてぜひご覧ください。

17日のTBSラジオ「日本全国8時です」の内容~第二創業で2017年問題を乗り切ろう 手本はリアル「下町ロケット」~

17日の「森本毅郎・スタンバイ」の「日本全国8時です」の放送内容をお届けします。

テーマ:中小・零細企業の「2017年問題」はじまる。

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今日は日本の中小企業の2017年問題についてお話したい。これは2017年に日本の中小企業の廃業・休業が急増すると言われているものだ。日本の中小企業は企業の98~99%を占め、多くは従業員数が数人から数十人という規模の会社である。

【進む経営者の高年齢化】
東京商工リサーチの調査(※1)によると、 中小企業の経営者の平均年齢は2015年時点で60.8歳、20年前は47歳と言われていたので明らかに高齢化が進んでいる。今、後継者の問題をきちんと考えておかないと廃業・休業、売却に追い込まれる恐れが出てきた。

「後継者不在」や「将来的な経営不安」などで継続も難しくなっている。後継者の不在率はどのくらいかというと、帝国データバンクの調査(※2)では以下の通り。
・1億円未満: 78.2%
・1億~10億円未満の企業: 68.5%
・10億~100億円未満の企業: 57.5%
規模が小さいほど後継者が不在と言える。小規模の経営者は自分の子供に苦労をかけたくないという思いもあり、自分の企業を継ぐのではなく他の企業への就職を勧めているケースも多い。

【休廃業・解散件数も過去最高に】
また、東京商工リサーチの調査(※3)によると企業の2016年の休業廃業・解散件数は2万9583件と過去最高を記録。2009年以降は年間2万5000件を超す高水準で推移している。倒産件数は90年以来の低水準と、休廃業が増加している状況。倒産すると何も残らないが、休廃業だと会社は存続するため、誰かに譲渡するか、自分の代でお金をもらって終えてしまうケースが増加している。

そういう意味からもこの問題をこの2、3年の間にどうやって解決するのか。これを「2017年問題」といっている。本当は実の子供がやる気になって引き継いでくれるのが一番よいが、なかなか困難である。最近「第二創業」という言葉が流行っているので紹介したい。

第二創業で新たなステージへ】
戦後、自分の父や先代が会社を起業し、荒波を乗り越えてきた。ところが高度成長も終わり、苦しい状況になっている会社も少なくない。その中で、もう一度新たな会社を作る精神で事業承継し、それをきっかけに後進がビジネスを一変させていくのが「第二創業」である。新たなビジネスモデルの考え方で、 イメージとしては「まるで起業するかのように会社を引き継ぐ」ことである。

【成功事例はリアル「下町ロケット」】
成功事例として神奈川県茅ケ崎市にある「由紀(ゆき)精密」という会社を紹介したい。茅ヶ崎の本社工場と新横浜にある研究開発センターと合わせて、 従業員30人ほどの小さな会社。1950年に創業し、公衆電話を製造する大手企業の下請けとして、右肩上がりで成長してきた。しかしながら、公衆電話の需要減少により売上が激減。

その後、倒産の危機をむかえたが、初代社長の孫にあたる3代目が入社し会社を激変させた。3代目は、ものづくりのベンチャーで「技術」を学び、その後技術コンサルタントとして買収した企業に入社し事業の立て直しの経験があった。この経験から祖父の会社について「この会社の本当の強みは何か」 「チャンスのある事業領域は何か」などを自分なりに分析した。

すると、これまで培ってきた素晴らしい需要のある技術があることが判明し、祖父の会社を変えられることを確信。その技術を使い、それまで主流としていた公衆電話を作る大量生産型のビジネスから、品質の高い製品をつくるものづくりをしてはどうかと考えた。それは、時代のニーズと合い、成功できる可能性のある航空宇宙分野に新たに進出することであった。その後、会社の事業を地道に変えることによって、JAXAや航空メーカーとの取引に成功。いってみればリアル「下町ロケット」だ。

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画像は由紀精密社の公式Facebook より日本のQulead、フランスのDyshow Industrie・AS-MECA BERNARDの4社と共に日仏精密加工中小企業のアライアンス『ACT』を立上げ、参加することを表明された際の模様。右から二番目が大坪正人社長。

現在はシンガポールの企業の企業提携や世界的なプロジェクトに参加するまでに成長。2012年2月に経済産業省主催の中小企業IT経営力大賞 優秀賞を受賞している。これはお孫さんが新たな分野に進出した第二創業の成功事例だ。

【国や自治体も支援】
こういった第二創業的な支援をしようという動きが自治体にも出始めている。例えば、墨田区などでは「企業健康診断」を始めている。まず、地元の信用金庫など金融機関の担当者が「経営バトンタッチの準備の進捗状況」を日頃から取引し、訪問している社長を訪ね、探っていく。その後、申し込みをした企業に中小企業診断士や税理士などの専門家が直接訪問。事業内容や財務状況を詳細に見たうえで会社の強みを分析し、 事業の引き継ぎを無料でサポートしている。

その他にも、経済産業省が「事業引継ぎ支援センター」を全国に設置し、中小企業の能力とその能力を活かしたい人をマッチングさせる仲介を実現している。双方合意の場合はM&Aなどにより事業の引継ぎを実施。導入から約5年が経過したが、全国で1万4千社の相談を受け550件以上の事業引継ぎを実現している。確率は低いが、こういった事例もある。

【洗練したデザインで伝統工芸を支える世界屈指のデザイナー】
もう一つ紹介したい方法として少し大きな話になるが、世界の消費者ニーズと感性を十分理解したデザイン、製造を行ない、世界への売り方までを考えるということが中小企業の生き残る道として重要である。

以前お話したことがあると思うが、有名デザイナーの協力によって世界で成功した例がある。それは、創業55周年記念したプレミアフェラーリをデザインした世界屈指のカーデザイナーである奥山清行氏の取り組み。

奥山氏のオフィシャルサイトより

奥山氏は、山形出身で東北地方には優れたよい企業がたくさんあるとして、山形鋳物のコーヒーポットをデザインしたり、山形の木工で椅子や衣文掛けなどをデザインしたりすることで 山形などの文化・伝統の技術を世界に発信。ミラノなどの「国際見本市」に出品したところ、大評判となり200社近くから商品の引き合いがあった。鋳物ポットは、世界17ヵ国で3万個以上売れている。こういた方法によって新たな第二創業が起こっているのだ。 

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奥山氏が手がけた菊地保寿堂の「鉄瓶 コーヒー&ティーポット “ふく-S”」
奥山氏のオフィシャルサイト でも購入できる。

【これからは新たな創業へ】
この2017年問題を乗り切るには、各企業がどういったアイディアを出してくるかが勝負となってくる。従来の親の事業をほぼそのまま継承することは高度成長期ではよかったかもしれないが、これからは容易ではない。世界で売れることや、新たなデザイン、取り組みといった新たな創業が求められている。

(※1)東京商工リサーチ「2015年 全国社長の年齢調査」
(※2)帝国データバンク「2016年 後継者問題に関する企業の実態調査」
(※3)東京商工リサーチ「2016年 休廃業・解散企業 動向調査」

影響力は世界37位  安倍首相の存在感

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 安倍外交は、本当に成果をあげているのだろうか。たしかに歴代首相に比べ安倍首相は外交に熱心である。

 この4年間で訪問国は100カ国を超え、外国首脳との会談は200回に達するという。アメリカのトランプ次期大統領とは、世界で最初に会談し、ロシアのプーチン大統領との会談も15回に及ぶ。このほか中国、アジア各国、ヨーロッパ首脳、アフリカ、中東、中南米とまさに〝地球儀外交〟を実践してきた。そのこともあって内閣支持率はほぼ50%台で安定している。

 しかし支持率の上昇、首脳会談の回数は多いものの、日本の外交成果とは必ずしも一致していない。

 例えば米フォーブス誌による世界の人物の影響力ランキングによると、2016年の第1位はロシアのプーチン大統領で4年連続首位。2位がトランプ米国次期大統領、3位はメルケル独首相、4位が中国の習近平主席、などとなっている。日本の安倍首相は? というと何と37位。約200回も各国首脳と会談を行ない世界でもかなり知られているはずだし、何といっても日本の国民総生産(GDP)はアメリカ、中国に次いで第3位の経済大国である。

 しかし、国内では”一強”体制にあるとみられる安倍首相の37位はどうしたことなのだろう。ただ冷静に分析してみれば、実績らしい結果はほとんど残していないことにも気づく。外交分野では成長戦略の柱と位置づけたTPP(環太平洋貿易協定)は当初のもくろみが大きく外れたし、京都議定書の後継として環境問題の次の中長期の枠組を決めるパリ協定は突然失速した。いずれもトランプ氏が否定的なためで、安倍・トランプ会談で説得できなかったようだ。台湾問題もトランプ氏の”2つの中国”を認める発言で米中関係がにわかに緊張しているが、日本はダンマリだ。中国が存在感を増し東南アジア諸国が分断されつつあるが、修復に日本が動いた形跡はない。

 内政分野では株価だけは、黒田日銀の超金融緩和策の継続とトランプ効果による円安、オリンピックがらみの公共事業で上昇してきたが、肝心の成長戦略はまだほとんど芽が出ず、日本経済に明るい展望が見えない。逆に大企業を除くと実質賃金は依然上がらず、社会保障費などの負担は増えつつある。国民の将来不安が消えず、消費は縮こまったままだ。

 こうしてみると、この安倍政権の4年は外交のにぎやかしとパフォーマンスで鮮やかだが、実態は米中の間で翻弄されてきただけだったともいえる。天変地異と災害ばかりが目立っており、安倍政権の政策力は峠を越し、賞味期限も残り少ないとみるがどうだろう。
【財界 2017年2月7日 第440回】
画像:上記リンク先のサイトキャプチャー画像

トランプ登場

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 アメリカの新大統領にトランプ氏が就任した。政治、軍隊の経験がない不動産王あがりの人物である。ビジネスの駆け引きはうまいとされるが、世界をどう引っ張ろうとしているのか、未知の部分が多く不安定な時代に入りつつある。

 大統領選挙に当選した直後からこれほど世界を騒がせた人物は少ないだろう。なかでも12月に入ってからの1ヵ月間は、中国とのやり取りで世間を釘づけにした。

 まず12月2日に台湾の蔡英文総統と電話協議をして驚かせた。アメリカなどが台湾を含めた“一つの中国”を認めた1979年。以来、歴代大統領で台湾総統と話合った人物はいなかったからだ。揚げ句「なぜ一つの中国を認めなければいけないのか」と挑発、チベットと並んで中国が最も神経を使っているところにグサリとモリを打ち込んだのだ。12日には中国艦艇によって盗まれたアメリカの無人潜水機を巡りオバマ政権下で返還交渉をしていたが、トランプ氏は「前代未聞の盗人行為だ。ほしければ持っておけ!」と捨てぜりふを吐いた。結局、潜水機は20日に返還されたが、トランプ流のケンカ、取引の結果なのかどうか。

 大統領就任前までのトランプ発言や行動で物議をかもしたものは、まだまだ沢山ある。

 「不法なメキシコ移民や犯罪者は送り返すし、メキシコとの国境にカベをつくる」「中国は南シナ海での軍事施設建造について我々に尋ねてきていない」「日本は在日米軍経費をもっと負担すべきだ(現在75%負担し世界一)」「TPPからは離脱するし、環境の枠組を決めたパリ協定も考え直す」「海外に拠点を移すアメリカ企業には高い代償を払ってもらう」「これからはアメリカ第一だ。減税と雇用、インフラ整備に力を入れる」「プーチン氏とは仲良くできそうだ」そしてメキシコで安く製造しアメリカへ輸出するのは問題だ」とトヨタなどにかみついた。等々。

 ひと言でいえば内向きで保護主義、世界全体のことよりアメリカの利益を第一に考えて“取引”してゆく考えを語ってきたといえる。こうした方針を実施するため、閣僚や大国の大使に元軍人や脱オバマ志向、経済界と金融関係者、長いつきあいのある知人、友人を選んでいる。しかも、これらの重要方針をほとんどツイッターで発信するだけで本人の口から方針や人事の背景などを殆ど説明していないので、世界中がその短い片言句にふりまわされている。

 こうしたトランプの発言や行動についてイギリスのMI6(秘密情報部)の前長官だったジョン・サワーズ氏は「彼は内政中心の大統領になると思う。優れた交渉者であるという自負をもっているので貸し借りによって外国との関係を築いていこうとするだろう。このため、戦略的な視点を見失う危険がある」(1月8日付日本経済新聞)と述べ、今後の世界の安定のためには米・中・露のパワーの均衡とEU、日本、インドの経済大国の出方が重要な役割をもつと指摘している。

 そんな中で気になるのは、トランプ氏は“アメリカが世界の警察官”の役割を担うことに消極的な態度を示す一方で、中国が着々と新シルクロード構想や太平洋、インド洋への海洋進出に積極的で、存在感を増してきていることだ。まだEUが分裂化の傾向を強める中でロシアがアメリカや日本、中国に接近姿勢を見せ、国際情勢を一層複雑化させている。

 もはや20世紀型の自由や市場主義、人権思想と社会主義型の独裁思想、国家運営の対立軸では世界を分析しにくくなっている。さらに加えてグローバル主義への反動とアルゴリズム(コンピューターの大量情報処理能力)による高速計算やビッグデータの収集、人口知能の急速な発達などが、むしろ余計に世の中を読みにくくしているのではないか。
【電気新聞 2017年1月26日】

昨日TBSラジオ『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』 ゲスト:四国霊場栄福寺住職 白川密成様 二夜目音源掲載

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スタッフです。昨日のTBSラジオ『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』(21:30-22:00)は、ゲストに四国霊場栄福寺の住職・白川密成様をお迎えした2夜目の音源が番組サイトに掲載されました。白川様は実体験をつづった「ボクは坊さん。」を上梓され、2015年には本書が伊藤淳史様主演で実写映画化されています。

住職になってよく聴かれるようになったというお布施などのお寺に関する素朴な疑問や、若くして住職になってのご苦労や心がけていること、永福寺が発信するブログ、今のお遍路ブームの背景、四国お遍路などにつきお伺いいたしました。

前回の24歳で住職に転身した経緯、およそ100日間の修行後「阿闍梨」の資格を得た時の話しや、尼僧でもある奥様との意外な出会いなどにつきお伺いした音源は今週水曜日の正午までお聞きいただけます。お聴き逃しの方は合わせてご利用ください。
 
「ボクは坊さん。」に続いて「坊さん、父になる」も上梓されております。

次週は、元陸上自衛隊東部方面総監でハーバード大学シニアフェローの渡部悦和様をお迎えする予定です。

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日本人の覚悟

日本人の覚悟―成熟経済を超える

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(集英社新書)
【著】嶌 信彦

     
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首脳外交-先進国サミットの裏面史

(文春新書)
【著】嶌 信彦


 
嶌信彦の一筆入魂

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【著】嶌 信彦


ニュースキャスターたちの24時間

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(講談社)
【著】嶌 信彦
       

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