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ジャーナリスト嶌信彦のコラムやお知らせを掲載しています。皆様よろしくお願いいたします。

6日 TBSラジオ『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』ゲスト:杉山愛様(元プロテニスプレーヤー)二夜目

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スタッフです。6日のTBSラジオ『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』(21:30-22:00)ゲストに元プロテニスプレイヤーの杉山愛様をお迎えした二夜目をお届けする予定です。

世界の有名選手の中で印象に残っている選手とその方の魅力世界各地でツアー生活をするテニスならではの選手生活引退後、自分のやりたいことをリストにした心境などについてお伺いする予定です。ご期待ください。

前回のプロを引退して8年。プロ選手生活を振り返ると共に、スランプ状態の日々やテニスを辞める決意までした杉山様を救った母の言葉などについてお伺いした音源は番組サイトにて来週水曜日正午までの限定公開中です。お聞き逃しの方は合わせてご利用ください。

杉山様の書著を合わせてご紹介いたします。

 

波乱含み習政権第2期 ――劉暁波氏 獄中死に批判――

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 秋の中国共産党大会を前に習近平政権がピリピリと神経をとがらせている。特にノーベル平和賞を受賞した人権活動家の劉暁波氏(61)が、7月13日に政府に監禁されたまま亡くなったことについて、国際社会からの批判が高まり外交問題となることに強い警戒心を抱いている。習政権二期目の五年間は出だしから波乱含みだ。

 劉氏は1989年6月の天安門事件の直後、研究先のアメリカから帰国し、民主化運動の指導者、“行動する知識人”として先頭に立ってきた。このため何度も逮捕され投獄されてきたが、一貫して筋を曲げなかった。

 特に2008年に共産党支配への反対を申し立てた「08憲章」を起草したため懲役11年の刑を言い渡され服役中だった。多くの知識人が民主化運動に挫折したり、海外に出て行ったのに対し、劉氏は弾圧を受けても国内に残り運動を続けてきたことにより、民主化・人権運動のシンボル、カリスマ的存在になっていた。しかし、ノーベル平和賞受賞式への出席は中国政府によって許可されず、さらに獄中での病気に対しドイツやアメリカから治療の受け入れ表明があっても出国が認められなかった。死因は遼寧省瀋陽市の大学病院から末期の原発性肝細胞がんと発表されている。

 劉氏の葬儀についても遺族と政府の間でもめていた。政府は一日も早く火葬にし、その後は散骨することを求めた。お墓や記念館を作ると民主運動の聖地のようにみられることを嫌ったためといわれる。

 「遺骨と遺灰は家族のものだ」と主張した妻の劉霞さんに一時的に渡された。しかし、その後は埋葬は許可されず散骨になったという。夫人の出国についても欧州諸国が出国を容認するよう求めているが進展していない。背景にはEUと中国の貿易額がこの10年でほぼ倍増し5000億ユーロに達している上、中国からの対EU投資も増えていることもあって、EU諸国は人権問題と経済問題をリンクさせたくない配慮も働いているようだ。

――劉氏死去ニュース、中国国内では報道されず――
 中国政府は、劉氏に関する死亡の情報は厳しく制限しており、外国メディアとの質疑応答も質問は掲載されず、“中国の報道官は各国の批判に対し「雑音だ」と切り捨てた”(7月15日付毎日新聞)としている。5年に一度の共産党大会を前に、まだ江沢民派、胡錦濤派などの勢力が残っているため、習近平氏は一強体制を作ろうと人権派活動家の弾圧を含めて様々な工夫を行なっているようだ。

 新公民運動の提唱者・許志永氏や人権派弁護士の浦志強氏、李和平氏、女性ジャーナリストの高喩氏らが次々と摘発され有罪判決を受け、その後も人権・民主活動家の胡佳氏や高智晟氏、丁家喜氏、趙常青氏らが拘束され続けている。

 その一方で、ポスト習の有力候補である孫政才重慶市党委員会書記が常務委員候補から脱落して拘束され、側近の陳敏爾を重慶市トップ、胡春華氏を広東省トップ、張慶偉氏を黒竜江省トップに据えるほか、周強氏を最高裁院長――など、後継者争いもまだあいまいにしたままで、習近平主席の力を温存しておくつもりのようだ。

――側近で固めたい幹部人事――
 中国共産党は5年に一度の党大会で幹部を大きく変え、ポスト習の人事もみえてくるので、秋に開催される党大会は内外の注目の的なのだ。党員数は約8900万人、中央委員候補約150人、中央委員約200人、政治局員25人、常務委員7人の序列となっている。総書記(国家主席)と首相は常務委員の中から選ばれ、北京など重要地方の書記(トップ)は政治局員の中から、省の書記や省長、閣僚は中央委員や中央委員候補から選ばれることになっている。しかし今回の習近平人事は、従来のヒエラルキー(秩序)にこだわらず、ヒラ党員を幹部に抜擢し習近平体制を固める狙いもあるとされ、フタをあけてみると仰天人事があるかもしれないといわれている。

 習近平政権にとって気になるのは外交政策だろう。特にトランプ米大統領との関係がギクシャクすると世界にも影響してくるので要注意だ。

――北朝鮮で米中の妥協難航、対中金融制裁も――
 米中関係では何といっても北朝鮮問題だ。アメリカは中国が北朝鮮に影響力を及ぼすことでミサイル発射や核開発を抑え込みたいとしているが、中国は本気で動いている気配がないうえ、北朝鮮は米国本土に届くミサイル開発を急いでいる。このため、トランプ政権は中国の貿易会社への捜査に着手し、金融制裁を課すとしている。中朝貿易の7割は、中朝国境沿いの丹東市を通過するとされ、今後の火種となることは必至だ。また、中国当局の民主運動弾圧に対しても米・欧の批判が根強いだけに中国がどう対応するか注目される。

――バブル崩壊は間近か、公共事業で必至に支え――
 さらに国内経済も決して順調とはいえない。6~7%台の成長を維持しているというが、実態はバブル崩壊に近いようだ。特に土地投機や住宅投資が目立ち、マンションや住宅公団のビルが立ち並ぶものの、実際に住む人は少なく投資、投機目的で買われているケースが多いようだ。

 中国は2014年から金融緩和に入り、住宅価格が高騰する。さらに住宅ローンの規制緩和で主要70都市の新築住宅価格指数は前月比上昇した都市が16年3月に62都市となり、16年末に政府はバブル抑制策の強化に乗り出した。このため富裕層は海外に資産を逃避しはじめているのが実態だ。7月に日本にやってきた格安航空会社の機内トイレに布袋が隠されているのが見つかったが、数十キロの金塊だった。この1年間で日本に持ち込もうとした金塊は少なくとも400キロに上るという。バブル崩壊が現実化してきているのだ。

――国営企業の不正会計も目立つ――
 また日本の会計検査院にあたる中国審計署が主要大手20社を調べたところ、9割にあたる18社で不正水増しが見つかり、ここ数年で売上高の水増しは約3兆4000億円に上ったという。中国では国営企業の不明朗会計が常に指摘されてきたが、今回は中国石油天然気集団公司、東風汽車公司、中国化工集団公司など石油、自動車、医薬、鉄鋼、船舶など世界でも著名な企業が軒並み不正会計をしていたことが明らかにされた。国営企業の経営は、多くを共産党幹部が握り、党、政府などと癒着しているケースが多いとされる。今回の国営企業の不正会計摘発は党大会を前にもう一度、反腐敗の姿勢を示し、大衆的人気の確保を狙ったともみられる。

 ただ光明は農村部でネットなどを使った消費が増えてきていることだろう。人口が3億人といわれる農村部で沿岸部のような消費が活気づくと中国経済はそう簡単にはバブル崩壊とはならないだろう。

 中国経済は富裕層が投機で稼いだカネを海外に持ち出す動きが目立ち、経済政策としては政府資金を公共投資に注ぎ込みバブル崩壊を食い止めているが、いよいよ限界にきつつあるということなのか。反腐敗取締りの再強化と“一帯一路”計画の大宣伝などで何とか資金を確保し経済安定化を図りたい思惑が見え見えだが、中国は依然、内憂外患の危機が去っておらず、共産党大会を前にできるだけ大掃除をして習近平2期目の政権をスムーズにスタートさせたい思惑があるようだ。
TSR情報 2017年7月27日】

画像:Flickr / The Nobel Peace Prize 2010 to Liu Xiaobo(2010年劉暁波氏に対するノーベル賞授賞式) by Utenriksdept

昨日 TBSラジオ『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』ゲスト:杉山愛様(元プロテニスプレーヤー)音源掲載

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スタッフです。昨日のTBSラジオ『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』(21:30-22:00)ゲストに元プロテニスプレイヤーの杉山愛様をお迎えした音源が番組サイトに掲載されました。10日間限定の配信となっております。

プロを引退して8年。プロ選手生活を振り返ると共に、スランプ状態の日々やテニスを辞める決意までした杉山様を救った母の言葉などについて伺いました。

次週も引き続き杉山様をゲストにお迎えし、世界の有名選手の中で印象に残っている選手とその方の魅力世界各地でツアー生活をするテニスならではの選手生活引退後、自分のやりたいことをリストにした心境などについてお伺いする予定です。ご期待ください。

杉山様の書著を合わせてご紹介いたします。

 

30日 TBSラジオ『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』ゲスト:杉山愛様(元プロテニスプレーヤー)

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スタッフです。30日のTBSラジオ『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』(21:30-22:00)ゲストに元プロテニスプレイヤーの杉山愛様をお迎えする予定です。

プロを引退して8年。プロ選手生活を振り返ると共に、スランプ状態の日々やテニスを辞める決意までした杉山様を救った母の言葉などについて伺いました。ご期待ください。

 

マクロンは第2の仏革命を起こせるか

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 久しぶりにフランスが小気味のよい動きを見せてくれた。中道新党の「共和国前進」の大統領候補で39歳の若きマクロン氏が、二大政党の共和党中道右派)、社会党中道左派)候補を破ってフランス政治に新しい風を吹き込んだのだ。

 続くフランス国民議会(下院定数577)選挙の決選投票でもマクロン新党が単独過半数の308議席を獲得し、大勝となった。25歳年上のブリジット夫人との結婚生活も今後話題になりそうだ。逆にかつての二大政党は共和党113議席社会党に至っては29議席と大幅に減らし、マクロン一強体制を樹立したのである。

 フランスは1789年7月14日、市民によるバスティーユ牢獄襲撃から革命の火がつき、市民革命の波はブルボン王朝を倒しルイ16世が処刑されて王政廃止となった。革命の思想は自由・平等・博愛の精神にあり、これが民主主義の土台となった。その後フランス革命は混乱した挙句にナポレオンの帝政を誕生させることになる。

 しかしルイ王朝を倒したフランスの市民革命はその後の民主主義革命の基礎となる"人権宣言"を生み、近代国家誕生のきっかけを作ったのだ。この民主主義革命がヨーロッパに波及。やがて世界の封建制度を崩していったともいえる。その意味でフランス革命とアメリカの独立宣言(1776年)は、近代国家を作り出す上で大きな役割を果たした歴史的事件だった。

 今回のマクロン新党の大勝利は、戦後長く続いた保守・革新の時代の政治を打破するものだ。そして世界の政治も、フランス同様に戦後の保守・革新の対立を長く続けてきた。日本でいえば自民党社会党の対決だ。しかしその日本でも自民党が衰弱し公明党の力を借りなければ政権が維持できない状況だし、社会党(現、社民党)はいまや崩壊寸前の運命にある。日本も世界も、実は戦後の保・革時代が終焉しつつあるのが実情で、21世紀の新しい政治思想が求められているといえる。

 マクロン新党は、まだ新しい思想を生み出したとはいえないが、旧い戦後の政治秩序形成に風穴を開けたことは間違いないだろう。フランス革命が世界に近代国家を生むきっかけを作ったように、今回のフランスの選挙結果は各国にも衝撃を与えるのではなかろうか。

 トランプ政権は旧い政治のあがきなのか、それとも新しいアメリカ政治へ向かう一里塚の現象なのか。果たして日本ではどうなるのか。都議選では"小池旋風"が吹いて自民党が大惨敗した。それにしては、小池新党にも敗けた自民党にも新しい"何か"が生まれている気配はみえない。新しい兆候が日本にも来たとみてよいのだろうか。
【財界 2017年8月1日号 452回】
画像:Wikimedia commons

最近の京都府・舞鶴市におけるウズベキスタンとの交流

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スタッフです。本ブログ等で京都府舞鶴市ウズベキスタンとの交流を活発に行なわれている旨をお知らせしておりますが、今後のウズベキスタンとの交流に関して舞鶴市が新たな発表をされましたのでご紹介します。

発表された内容をご紹介する前に、舞鶴市ウズベキスタンと関わりを持つきっかけを簡単にご紹介したいと思います。すでにご存知の方はこの部分を割愛してお読みいただけると幸いです。

■引揚と舞鶴港
1945年の第二次世界大戦終結後、旧満州朝鮮半島、南太平洋などの多くの国や地域に在留していた約660万人の日本人を速やかに帰国することを目的とした引揚が開始、呉を初めとした18の港を引揚港に指定しました。その一つに舞鶴港も含まれ、主に旧満州朝鮮半島シベリアからの引揚船を受け入れていました。

舞鶴港は1945年9月に引揚港に指定されて以来、1958年9月の最後の引揚船入港までの13年間、延べ346隻の引揚船が入港し66万2,982人が舞鶴港から日本に上陸しています。なお、引揚援護局のない神戸港の引揚事務も舞鶴引揚援護局で行なっており、その方々を含めると66万4,531人を受け入れしています。日本に帰国された方々は、舞鶴港の美しい景色を見て多くの方が涙したといわれています。

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五郎岳からみたリアス式になった舞鶴の港の様子。

ウズベキスタンとの関わり
シベリアからの引揚は、シベリア地区のみならず中央アジアからの引揚の方も含まれていました。2015年9月末に嶌が上梓したウズベキスタンタシケント市にある日本人抑留者の方々が建設に携わられたオペラハウス「ナボイ劇場」の建設秘話「日本兵捕虜はシルクロードにオペラハウスを建てた」(角川書店)には主人公の永田様が舞鶴に帰国した際の様子が描かれています。

永田様は舞鶴港に着いてすぐに自宅に帰らず、舞鶴に滞在。必死に暗記したウズベキスタンの収容所の仲間の氏名、住所を記憶が鮮明なうちに紙に書き写し名簿を作られました。その後、自宅に帰りそれを元に手紙を書き、それが戦友会「第四ラーゲル会」の名簿となりました。


ウズベキスタンとの交流が始まる舞鶴市
本書を読まれた舞鶴市役所のスポーツ振興課の小谷課長が嶌をたずねてこられ、嶌が会長を務めるウズベキスタン協会との交流が始まりました。その後、ウズベキスタンタシケント市で私費で日本人抑留者記念館を開設している館長のジャリル・スルタノフ様が昨年日本を訪れた際に舞鶴を訪問したこともウズベキスタン舞鶴市が関係を深める大きなきっかけとなっています。

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舞鶴市のさまざまな取り組み
その後、舞鶴市は昨年6月に2020年東京オリンピックパラリンピックにおけるウズベキスタン共和国のホストタウンに登録され、学校給食でウズベキスタンの料理を出すなど様々なことに取り組まれています。

また、日本ウズベキスタン協会の協力によりウズベキスタンの日本人抑留者記念館で上映されている日本人抑留者の記録映画「ひいらぎ」を取得されました。今後、舞鶴市では学校の授業や舞鶴引揚記念館等で上映する予定です。

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昨年11月に駐日ウズベキスタン共和国特命全権大使のファルフ・トゥルスノフ氏が舞鶴市を訪問し、倉梯第二小学校の生徒たちとともに給食に出されたウズベク料理を堪能

 

舞鶴市の今後の取り組み
昨日の発表内容は2件あります。

ウズベキスタンから国際交流員を受入
8月3日(木)にタシケント市出身で早稲田大学大学院修士課程国際関係学専攻卒のレ ・アルトゥル・エドゥアルドヴィッチ様が1年間赴任される予定です。

在任中は、2020東京オリンピックホストタウンとしてウズベキスタンとの相互交流に関する業務、2020年東京オリンピックパラリンピック時のウズベキスタン選手団の事前合宿の調整・交渉、市民との交流活動に従事されます。

舞鶴市では2005年度から友好都市の中国・大連市から国際交流員を受入し、現在12人目です。ウズベキスタンからの国際交流員の受け入れは、北海道上川郡東川町に続き、全国で2人目となっています。


ウズベキスタン事前合宿視察訪問団の来日
ウズベキスタンのホストタウンである舞鶴市では、レスリング競技と柔道競技の事前合宿が内定しています。8月4日から11日までウズベキスタン共和国政府及び両競技団体の関係者が来日し舞鶴市も訪れ、事前合宿関係施設等の視察や、市民や高校生との交流事業を行なう予定です。

■市民が一丸となって準備
先週末に、南舞鶴地域内の4小学校と1中学校の児童・生徒がオリンピック予選突破を祈念しながら折った鶴を同地域の高齢者が糸に通し千羽鶴を作りました。(トップの画像)これに、金の鶴とウズベク語のメッセージをつけて完成させる予定で、ウズベキスタンの国旗の色のように非常に綺麗な仕上がりとなっており、ウズベキスタンから来日される事前合宿視察訪問団の皆さんにお渡しする予定です。

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現在、南舞鶴地域では子どもからお年寄りまで地域が一丸となって訪問団歓迎の準備をすすめており、丹後地区に古くから伝わる「丹後のバラずし」(ちらしずし)や、地域の方の大正琴、子どもの日本舞踊、舞鶴市民によるウズベキスタンの旗を振っての歓迎、みこしなどによる歓待を予定しているとのことでした。

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画像は「丹後のバラすし」

物価目標2%は正しいのか

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【まとめ】
・政府・日銀は物価上昇率2%の目標達成まで金融緩和続ける意向。

・日本の実質成長率(GDP)1~3%、景気はそれほど悪くない。

・政府・日銀は物価目標政策を見直す時期に来ているのではないか。


アメリカ、欧州、カナダなどの中央銀行は金融緩和の見直しへ助走し始めている。これに対し日本だけは、なお物価見通しの下方修正を続けている。大規模な金融緩和からの出口を見通せないのは日本だけになりつつあり、政府・日銀は物価上昇率2%の目標を達成するまで緩和を続けると頑なだ。世界的なデフレ傾向が依然続く中で、金融緩和策を続ければ、円安誘導批判や様々な副作用も出始めている。はたして2%の物価目標維持は正しい政策なのだろうか。世界経済全体の動向や今日のデフレ時代の特徴を根本的に検証し政策を見直してもよいのではないか。

■パフォーマンス酷くない日本経済
日本の景気は国際的にみても決して悪い方ではない。実質成長率(GDP)は、大体1~3%で、先進国の中ではEUより良く、移民で人口が増えているアメリカよりやや悪いといった傾向だ。日本の2016年度のGDPの実額(名目GDP)は約537兆円でアメリカ、中国に次ぎ世界第3位。80年代の平均4%台の成長に比べると見劣りするが、バブル崩壊、それに続く“失われた20年”、リーマンショック、3.11の東日本大震災などの大動乱を考えると、日本はよく頑張ってきたといえる。

しかも7月3日に発表された6月の日銀による全国企業短期経済観測調査(短観)によると、代表的な指標の大企業・製造業の業況判断指数は9ヵ月連続で改善している。大企業ではプラス17で2014年3月以来の高水準、大企業の非製造業はプラス23で、6ヵ月連続のプラスだった。9月の見通しも大企業の製造業・非製造業はプラス15、18と好調を持続する気配だ。

一方、中小企業の製造業はプラス7と四半期連続で改善し、07年3月以来の高水準という。また雇用水準は92年2月以来の「不足」超の水準が続き、人手不足感が一段と強まっている。さらに消費も持ち直しており国内百貨店の売上げ(大手3社)は前年同月比0.9~4.8%の伸びで高島屋の場合、免税売上げは前年比37.6%増、宝飾品は12.8%増で「個人消費は確実によくなりつつある」としている。ただ内閣府は設備投資の受注額が非製造業で低迷が続き、景気持ち直しの動きに“足踏みがみられる”とまだ悲観的だ。

しかし個別企業では好調なところが多く、ユニクロファーストリテイリングの16年9月~17年5月の連結最終決算は前年同期比で売上高3.0%増、利益69.1%増という好調ぶりだ。また外食産業も人手不足でロボット開発や営業時間短縮などで対応しているという。

■金融政策だけ突出。国民が求める将来の安心。
要するに景気は決してひどいわけではないのに、物価はさっぱり上がらないのだ。目標の2%に達しないため、金融緩和を続ける一方である。日銀が年間で国債を80兆円買い、市中にカネをばら撒いていたが、量的緩和だけでは効果が上がらないとみるやマイナス金利政策を導入した。銀行が日銀におカネを預ける際に逆におカネを支払うという前代未聞の金融政策に踏み切った。量的緩和だけでなくマイナス金利政策まで動員したのだ。そこまですれば、銀行は日銀に預けるより市中に貸出し、設備投資などに資金がまわり出して景気がよくなり消費も増えると読んだのだ。しかしその思惑も決して成功していない。

■物価目標優先の副作用大きい
こうした背景にあるのは、企業や消費者は決して“明日の食べるおカネもない”という切羽詰った状態にあるわけではなく、むしろ先行きの明るい展望に確信がもてないので、とりあえず模様眺めで過ごしているケースが多いようだ。60年代は国民全体が高成長を信じていたので消費者は物を買い、生産者は設備投資を増やし生産に励んでいた。自然に物価が上がる循環ができていたのである。考えてみれば高度成長期の賃上げの考え方は、“物価上昇率プラス生活向上分”が当然とみなされていたほどだ。

しかし現在は、約束されていた消費増税も景気をおかしくするから、と先延ばしとなり財政を悪化させているし、金融の景気刺激効果がないため再び財政で刺激する策へと転じている。まるでマイナス金利と財政悪化への蟻地獄にはまり込んだような雰囲気だ。結局企業は円安で利益をあげ、その利益を海外企業の買収に使っているが、大きな失敗も目立っている。

日本はいま国、企業、消費者とも負のスパイラルの心理に入り込んでいる状況なのではないか。少子高齢化や巨額の財政赤字、一極集中(国レベルでは首都圏、地方では県庁所在地)、社会保障などの国民による負担増等々――明るい将来がみえてこない。となると多くの国民は先行き不安に備えてなるべくおカネを使わず節約、節約のムードが伝染している。一部の富裕層だけは、消費を楽しめても多くの国民は“みんな我慢しているのだから・・・”と多額消費には走らないのだ。

■シラケムードを作っている政府・日銀
このシラケムードを作っている張本人は、政府と日銀だろう。安倍内閣は口を開けば、景気回復第一と言うが、見えてくるのは安全保障と外交ばかりだし、日銀は2%の呪縛に縛られ世界の金融緩和脱却の動きから取り残されつつあるのが実情だ。日銀は7月20日の金融政策決定会合で物価2%目標の達成時期をまた先送りし「19年度頃」とした。これで金融緩和を始めてから目標を先送りしたのは6回目となる。6回も先送りしたのでは、もはや目標の実現を信ずる人はいなくなるのではないか。

黒田日銀総裁は「景気は緩やかな拡大に転じつつあり、今後も成長を維持できる」と指摘しているが「物価が上がらないのは、上がりにくいを前提とした考え方、慣行が企業や家計に根強く残っていることが影響している。ただこうした状況はいつまでも続くとは想定していない」と言い、いずれ2%に達するはずだという現在の日銀のスタンスを変える気のないことを強調している。

■2%目標でないとダメなのか
また2%を目標としていることについては

①2%程度の余裕がないと原油価格の急落など外的要因で物価上昇率が再びマイナスになるリスクがある

②先進国の主な中央銀行は2%程度を目標としているので日銀も歩調を合わせた。各国が同じ目標を持てば為替の安定につながる

――などを指摘し目標を変える気がないことを主張している。

結局、国民や企業の根強いデフレマインドを打破することが重要だ、と主張しているものだが、それには政府・日銀が物価目標よりも将来の生活が安定することがわかるような政策を打ち出さないと解決しないのではないか。
【Japan In-depth 2017年7月22日】