国民、企業心理に心づかいを
政府・日銀の財政・金融政策は、本当に正しい道を突き進んでいるのだろうか。黒田日銀総裁が登場して大胆な金融緩和策を実行したため、一時は1ドル=80円割れしていた円高は、あっという間に円安に転じた。その後も黒田日銀は大幅な金融緩和を続行、ついにゼロ金利からマイナス金利の導入にいたるまで踏み切った。
低金利、ゼロ金利、マイナス金利となれば企業や消費者はおカネを借りやすくなり市場にカネがだぶついて、企業は安い金利のうちに設備投資を行い、消費者もおカネを使うようになるだろうとみたのだ。加えて財政面からは東日本大震災もあり災害復旧や公共投資などに惜しみなくおカネを注ぎ込んだ。
その結果、円は1ドル=80円割れから、一時120円台をのぞくところまで進んだが、肝心の設備投資も消費も盛り上がらなかった。企業の内部留保資金が厚くなっただけだし、円安で輸出増ともならなかった。効果が目立ったのは、外国人観光客が急増し、爆買いをしてくれたことだろう。ただその爆買いも3ヵ月位前にこの欄で指摘したように下火となっている。
黒田日銀総裁は相変わらず強気で、金融緩和の拡大や物価上昇率2%の目標は貫くと言い続けている。しかし、さすがに日銀や財政当局の内部ではこのまま今の方針を続けると金融機関の体力が弱り、財政健全化の目標も遠のくばかりだと懸念する声が出始めている。このため9月になったらこれまでの政策や効果を再点検すると言い出した。しかし調査、点検して本気で政策を見直す気があるのか。
思うに安倍内閣は「経済が最重要」といいながら政策は日銀にまかせきりできたとしか思えない。日銀の失敗は、頭だけで考えた経済理論で突っ走っており、企業や消費者の心理などをよく研究していないためと思われる。経済と市場は理屈よりも消費者や企業の心理に左右されないのではないか。
今の消費者は物価が多少安くなったり、おカネが借りやすくなっても消費を増やさないだろう。一番気にしていることは将来の不安なのだ。高齢化に伴う医療費の増大、死ぬまで安心して暮らせる預貯金の額などだ。若者や中年たちはリストラや老後の生活が安心できないのでボーナスがふえてもたとえ金利が低くとも貯金にまわすのだ。
企業も多くは海外展開しているので、円安になっても国内生産を増やそうとはしない。国民や企業の消費意欲、投資を増やしたいならむしろ金利をあげ利回りのよい商品が出回った方が効果的なのではないか。日銀は経済理論だけを重視するのではなく企業や国民の心理も考えて政策を考えて欲しい。
【財界 2016年9月20日号 第431回】
18日 TBSラジオ『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』 ゲスト: 動物写真家 前川貴行様
スタッフです。18日のTBSラジオ『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』(21:30-22:00)は先週に続き、動物写真家の前川貴行様をお迎えいたします。
動物写真の醍醐味、作品を通して伝えたいこと、これから撮影したい動物。アメリカやアフリカを主な活動場所として、野生動物をテーマに撮影する魅力などについてお伺いする予定です。
前回の放送音源が只今番組サイトにて公開中です。お聞き逃がしの方はぜひ合わせてお聞き下さい。
クマに魅せられた理由や、アラスカやカナダの極地で撮影する苦労話。山中でクマなどの野生動物と遭遇した時の衝撃や、被写体とどう馴染んでいくかなどにつきお伺いしました。