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野田首相の賭けと孤独

  16日に解散しましょう。よろしいでしょうか」──久々に野田首相が迫力のあるところをみせた。消費税増税法案が可決してから精気を吸い取られた感じだった野田首相は、特例公債法案など3条件が通らない限り解散はない、と解散については言明を避けていた。それが突然、1114日の党首討論安倍晋三自民党総裁に〝16日解散〟を提案したのだ。

 

 唐突な解散日時の言明に安倍氏も虚を突かれ、定数削減について二、三言条件を述べた後「解散でいいんですね」と念押しした。自民党は谷垣前総裁時代から早期解散を主張していたから、ようやく実現したわけだが、党首討論の最中に突如、具体的日程を言い出され驚いた様子がみてとれた。もしこの時、安倍氏が間髪をいれず「待ってました。16日解散、引き受けましょう」とひと言で切り返していたらもっと見応えがあっただろう。

 

 野田首相はすでに四面楚歌だった。小沢グループが大量脱党した後も、一人二人と離党者が続き、まるで沈没船からネズミが逃げまどう有様をみているようだった。しかも前日の民主党常任幹事会では早期解散反対が相次ぎ〝野田おろし〟の声まで出た。輿石幹事長はそんな様子を野田首相に伝え「常任幹事会は党大会に次ぐ重さをもつ会合だ。重く受け止めて欲しい」とクギを刺したという。

 

 野田首相にしてみれば、このままズルズル解散を延ばしていると、野党からの〝ウソつき〟呼ばわりがだんだん大きくなり、さらに離党者が出れば衆院で過半数がとれなくなる。不信任案を出されたら、衆院で可決される可能性も大きくなる。もはや崖っ淵に立たされた思いだったのではないだろうか。

 

 だとすれば、ちょうど設定されていた党首討論で先制攻撃を仕掛け、ウソつき呼ばわりを撤回させる。だから子供の頃の話を持ち出して「オヤジに私は〝正直の上にバカがつく〟といわれた」などという小話をワザワザもち出したのではないかと思う。解散権は首相の専権事項だから当然といえばその通りだが、野田首相の最後は孤独で、まさに消費税と討ち死にした印象だ。

 

 しかし12月総選挙を打ち出したことで、小沢グループ政党交付金を手にすることができなくなった(その年の1月に5人以上の政党として届出義務)し、石原新党(太陽の党)もあわてて維新の会との野合的な合流をせざるを得なくなった。維新の会の側も選挙準備が整っておらず石原新党との合流がなければメディアでは両党とも小政党扱いしかされなかっただろう。〝第三極〟として認められるには〝政策なんて後からついてくる〟とみたのか、維新の側も「原発、消費税反対の政策は小異ではない」と言っていたが、1日で合流に踏み切った。どこもかしこも、中長期的な政治の軸、政党としての哲学がみえず〝選挙に勝つ〟ことしか考えていないようだ。世界は米中露はじめ朝鮮半島、EU、中東でも次々と政権交代がおき、大波乱の時代。せめて選挙戦で経済、外交、生活、安全保障などを真面目に語って欲しい。【財界 新年特大号 第341回】