時代を読む

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ポピュリズムに決別をダメにしているのは政治

 今度の総選挙ほど有権者をまどわせたケースはないのではないか。公示(12月4日)直前まで党の合流や連係でゴタゴタし、公約の修正もみられた。一体どの時点の政党名が最後まで残り、どの公約のどこが修正されたのかも告示後でないとわからない始末だった。いや、告示後も同じ党の幹部によって中心の政策で言い方が変わったりして、政治家と政党の〝言葉の軽さ〟をイヤというほど見せつけられた。総選挙後の政治は再び混迷し、政局論ばかりがメディアをにぎわすのだろう。ウンザリだ。

 

 しかし、今回の選挙で争点になった課題は、今後の日本の行方を決めるうえできわめて重要なことばかりだった。憲法改正、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)への参加、原発と日本のエネルギー構成、領土を巡る中国や韓国とのつきあい方、そして景気回復と日本経済、大震災からの復興問題──などである。

 

 民主党政権3年余り(鳩山由紀夫菅直人野田佳彦首相)の間に決まった印象的なものは15年から消費税を10%にあげるということぐらいだ。それも一応景気が回復したらという条件付きである。あとは震災復興、TPP参加、税と社会保障の一体改革、沖縄問題等々は先送りされたままで、今回の選挙では問題ごとに各党間の意見が違うのだから周辺関係国や国民はあきれるばかりだ。

 

 なかでも気になるのは中国・韓国との関係修復とTPP、震災復興、沖縄問題である。とくに選挙で台風の眼となった日本維新の会の石原慎太郎代表は、それら肝心のテーマに「みんなちっちゃなこと。まず一緒になって中央官僚制を打破することが重要なんだ」と述べ、突っ込んで触れようとしない。「維新」は橋下徹前代表が脱原発、TPP参加、地方分権の徹底など明確な言い方をしていたものの、石原氏と合流してから基本方針があいまいになり、告示直前は石原、橋下氏の意見調整ができないままだった。脱原発を掲げたもうひとつの第三極「日本未来の党(嘉田由紀子代表)」も原発再稼働発言を巡って混乱した。

 

 問題はブレなきゃいいというものではない。大衆受けするスローガンにどこまで現実的な裏付けをもっているのか、具体的スケジュールはどうなっているのか、関係国と外交関係や経済的、文化的影響などにどう配慮しようとしているのか等々の点についてしっかり説明責任を果たさなければ政党、政治家とはいえまい。

 

 なるべく有権者の気を引こう、国民が食いつきやすい政策をとにかく言っておこう、まず当選者をふやすことだ、政策など後からついてくればよい──といった姿勢が目につきすぎるのではないか。失われた10年、20年は、そんな軸のないふらついたポピュリズム政治が続いたため、国全体が沈滞し国民は将来に展望をもてなくなったといえよう。日本はまだ世界第3位の経済大国であり、あらゆる産業のモノづくり、品質、技術などにかけては世界一といってよい。政治さえしっかりすれば、日本は再び自信と誇りを持ち直すのだ。【財界 新春特別号 第342回】

 

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