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時代を読む

ジャーナリスト嶌信彦のコラムやお知らせを掲載しています。皆様よろしくお願いいたします。

ブータンからBLIへ

コラム(電気新聞)

 ブータンの”幸福”生活が注目されてから久しい。中国、インドに接する人口200万人強の国王を元首とする議会制の国だ。ヒマラヤ山脈の東端にあり北部は最高7千㍍級の高山帯、中部が3千~1500㍍の渓谷と盆地群、南部は亜熱帯性の森林地帯というから、およそ先進国の技術・機械文明からはほど遠い。仏教を国教とし一人当たりの国民所得700㌦前後だから、いわゆる豊かな国とはいい難い。

 

 ところがブータンが近年唱えている国民の幸福実現(Gross National Happiness)の思想が世界で反響を呼んでいるのはご存知の通りである。20世紀の国際社会では国内総生産(GDP)や一人当たり国民所得の大きさ、貿易額、軍事力、人口などが国力を測る基準、モノサシとみられ、つねにそれらの順位で国の強さ、弱さや豊かさなどが測られてきた。そんな基準からするとブータンなどはコメ粒のようにみられ、共同通信発行の「世界年鑑」でも見ない限りなかなか国の実態がわからない。

 

 それが”GNH”論を唱えだしてから、ブータンの存在感がじわじわと広がった。国民の幸せとは何か――それはGDPや収入、軍事力などでは測れないだろうという主張だ。ブータンでは国民に「あなたは幸せですか」という何項目かのアンケートをとり、その結果を国政の施策の方針にしているらしい。昨年、ワンチュク国王夫妻が来日し、ノーブルで凛とした雰囲気の姿をテレビなどで見た日本国民も何となくブータンの国造りに関心を示したようだ。

 

 しかし、ブータンはやはりブータンである。人口、国土、機械文明、収入などから多くの人は”ブータンという小国だから可能な思想、政治哲学などなのだろう”と考え、日本や欧米の大国が直ちに導入できる考えとは思わなかったのではないか。
 ところが、である。何と先進国クラブといわれるOECD経済協力開発機構)が、OECD50周年の大きな試みとしてブータン的発想に似たBLI(Better Life Index)という11の指標をつくり、国の幸福度を測り始めたのである。その狙いは、21世紀の社会、国を観察するには従来のGDP国民所得、軍事力といった指標だけでは、その国民の豊かさなどは測りきれないとして「住宅(4.7)」「収入(6.9)」「仕事(7.1)」「コミュニティ(7.8)」「教育(8.8)」「環境(7.3)」「市民参加(4.8)」「健康(5.0)」「生活満足度(3.9)」「安全(9.9)」「生活と仕事のバランス(3.0)」――といった11の指標から国の豊かさを見ようというのだ。すべて10点満点でカッコ内は日本の点数である。アンケートや学者などの議論を経て出した数字とみられるが、まだ最初で公表が2011年のようだから未熟さも目立つ。大震災を経験した日本の安全が9.9は高すぎるし、日本人の健康度は世界でも有名なのに5.0とは首をひねりたくなる。

 総合では北欧やオーストラリアが上位にあり、日本は20位前後、アメリカが意外にも3位に入っていた。OECDは「これからの社会はこうした指標をもとに今後はより革新的な社会、技術などを探るべきだ」としている。モノだけではない豊かな社会のあり方を探るべきだ」としている。モノだけではない豊かな社会のあり方を探る動きはブータンからヒントを得て先進国にまで及んできているのだ。

 今後はこれらの考え方や指標を産業や商品にブレークダウンしていくと、これまでにない新たな成長産業、成熟生活、ライフスタイル、商品の姿が見えてくるかもしれない。数年もしてデータがふえるとかなり注目度の高い指標になってこよう。先進国がGDPからBLI時代に移る過程かもしれない。【電気新聞 2013218日掲載】