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サーベラスは魔獣か? 公益事業の買収可否

 サーベラスが日本の企業社会に不気味な影を落としている。西武鉄道プリンスホテルなどをもつ西武HD(後藤高志代表)の筆頭大株主で32.4%の株を所有するアメリカの投資ファンドだ。日本には98年に進出、あおぞら銀行国際興業、米クライスラー、エア・カナダなどにも出資している。米本社のファインバーグCEO53)が32歳の時に起業したとされるが、その人物像はよくわかっていない。サーベラスとはギリシャ神話に出てくる〝地獄の番犬〟という意味らしい。一種の魔獣だが、リーマン・ショック前までは約2兆円の資産を運用し、起業から約20年でアメリカで10位以内に入る投資ファンドに成長したという。ただ07年にクライスラー株約8割を取得したが、同社の破産でほとんどが紙クズとなった苦い経験をもっている。そのせいか、その後はハゲタカから起業再建屋をめざしたという。

 

 西武が再上場に向けた動きを表明したところ、昨年末にサーベラス側が鉄道の不採算路線やライオンズ球団の売却などを提案したとされる。西武側としては公益事業の鉄道を、不採算を理由に廃線にはできないと主張、採算のとれる案を検討しているとして、逆に西武側が資本提携契約の解除を申し出た。するとサーベラスは今年3月買付けを12%引上げ最大44.7%まで株の所有を目ざすTOB(公開買付け)を発表、両社の関係は一挙に敵対的状況になってしまっている。

 

 しかし不思議なことにその後会見したサーベラス・ジャパンは「西武買収、取締役会をコントロールする意図はなく鉄道路線廃止や球団売却の予定はない」と主張。一方で五味廣文・元金融庁長官、ダン・クエール元米副大統領ら8人を取締役に選任したいと提案している。

 

 一体、サーベラスの買収意図は何なのか。鉄道やリゾート、レジャー産業に熟知した取締役がおらず、本気で経営をする気があるともみられない。五味氏と後藤氏はかつて第一勧銀の腐敗問題がおきたとき、共に手をたずさえて第一勧銀の立て直しに協力しあった仲と聞く。後藤氏はその後みずほ銀行副頭取に移り、さらに西武再生をめざしオーナーだった堤義明氏の持ち株比率を下げるため、サーベラスから1000億円の出資をあおいで立て直しをはかってきた。その一つのゴールが再上場だったのに、直前になって、一時はホワイトナイト、友人とみられたサーベラスと五味氏らが立ち塞がっているという構図にみえる。

 

 かつて英国の投資ファンド(TCI)は、アメリカの鉄道買収をもくろんだが、アメリカは公益事業を他国に牛耳られることを禁ずる法律を適用して退けたことがある。同様にTCIに狙われたJ・パワーも公共的施設であることを理由に日本政府が買収阻止に動いた。

 

 これを機会に日本も電力、鉄道、水源、公共機関などの買収は「国の存立を危うくする」として禁ずる法律を作ったらどうか。いつまでも外国為替法の運用で阻止するようでは、規制の悪用のそしりを受けるだろう。【財界 春季特大号 第350回】

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