時代を読む

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アベクロミックスと外人投資の行方

 「満天の星は見ていてきれいだが、その星の点をつなぎあわせて牡羊座、牡牛座、天びん座などを見つけると、満天の星が〝点〟でなく、様々な図に見えるだろう。そのうえ、その星座の物語を知れば、星空は絵になりストーリーも知ることができて、さらに宇宙への探究心が湧き、ますます興味津々になるはずだ」

 

 小さい頃、先生が星の楽しみ方を語ってくれて東京・渋谷のプラネタリウムなどに通ったものだ。その後、新聞記者になってニュースを追っていると、よく星空の話を思い出す。事実の一つ一つは、星であり点である。だがいくら事実を集めても事の本質、構図は容易に見えてこない。いらない事実を捨象し、必要な事実を集めて絵図に組み立てないと全体像が見えてこないからである。

 

 現在の株式市場や為替の動きも、まだまだ本当の実態が見えにくい。ここ2カ月は、まさに満天の星明かりのようにみえる。株式市場は7000円台から15000円台をめざす動きだし、為替も一時の1㌦=70円台から何と100円台に迫っている。安倍首相と黒田日銀総裁が「物価を2年間で2%引きあげる。そのためには日銀が民間に流す資金量を2012年末の138兆円から14年末までに270兆円へ倍増させる」と約束したからだ。白川前日銀総裁時代の資金供給量の増加は10兆~20兆円規模だったからその大胆さに世間は仰天したのだ。

 

 実はその発言もまだ実行されているわけではない。いわば〝口先介入〟の域を出ていないのである。にも拘わらず市場が大きく反応したのは、安倍首相と黒田総裁が本気で大緩和を決意したと市場が見たからだろう。今はアベノミックスと呼んでいるが、今後は黒田総裁とタッグを組んだ〝アベクロミックス〟と呼ばれよう。

 

 このアベクロミックスにいち早く反応したのが外人投資家だ。この海外からの投資家(投機ファンドや投資ファンドが中心)が日本市場で買い越した金額(売りと買いの差)は総額で史上最高16000億円。この間日本人は外人投資家の買いっぷりをみて最近買いに入っているが、4月第2週までは売越しの方が多く8800億円。まさに今の相場は外人投資家がアベノミックスに賭けて引っ張ってきたのだ。いまになって日本の株式関係者は「近来にない大相場」とはしゃぐ。首相と日銀総裁が後ろ楯になって安心しているのだ。それでも大相場の期間、上値は? と聞くと「35カ月、150006000円」と答えるのがほとんど。3月に入って一般投資家もはしゃぎ出したが、時期と上値、外人投資家がいつ引き上げ始めるか、をよく見た方が良さそうだ。

 

 80年代のバブルは資金が、株、土地、金、ゴルフ会員権、商品などに行き、最後は絵に辿りついたところでバブルがはじけたのである。今の金融緩和が過去と同じ道を歩むのか、それとも黒田氏らがいうように資金が工場投資にまわり商品が売れ、賃金上昇につながって成長の軌道に入るのか。年末にはその道筋が見えよう。【財界 2013年5月28日号 第351回】

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