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原発輸出に持つべき覚悟

 先日、テレビでアメリカの原子力発電所に関する安全管理、危機対応の実態を放映していた。監視員、安全管理官らは発電所に常駐しており、その数はたしか2、3百人にのぼると説明していた。監視員たちは、どこでもいつでも発電所内の施設に立ち入ることが出来る権限を持ち、不備や問題点を発見すると発電所側に伝え修理、改善を要求する。また事故が起きた場合を想定して、事故の大きさに応じた避難訓練なども常時行っているという。

 

 驚いたことは、それらの安全管理や監視を電力会社の責任で行い、彼らに権限を与えていることだった。1979年のスリーマイル島の事故以来、アメリカは“原子力発電所はまだ人間が完全にコントロール出来る汎用品ではない”という前提に立ち、常に原発の不具合を見つける体制を整え、対策を練っている。“もしもう一度大事故を起こしたら二度と原発の建設、稼働は出来ない”という危機感を持ち続けているからだ。シェールオイルなど新しいエネルギー開発に熱心なのも、そうした危機意識とエネルギー不足に陥った時の代替策を常に考えているということなのだろう。

 

 ひるがえって日本は、「3.11」東北大震災と原発事故が起こるまでは、アメリカの原発への危機意識の持ち方とは大分差があったような気がする。日本でもピュア・レビューといって原子力関係者が原発を点検、問題点を見つける作業は第三者機関によってこれまでも行われていた。

 

 しかし、これらは抜き打ち検査ではなく、事前に行き先を知らせておくケースが多かった。いわば試験問題を前もって通知し、十分に準備しておくよう告げているようなものだったといえよう。それでもこのレビューによって問題を発見することはあったし、何よりレビュー後に原発関係者と話合いを持ち、新しい知見などを伝えたり、後には外国人専門家に参加してもらうこともあったと聞く。

 

 福島の原発事故を受けて、原子力規制委員会は新しい規制基準を電力会社に示した。そこには、以前とは比べものにならないほど厳重な管理体制や点検方法、過酷事故への対応方法などを並べている。電力会社は今後この規制基準に沿った改修、改善を行ない、テストにパスしないと運転再開出来ないことになっている。

 

 報道によれば、東京電力などは外国人を招いて社内に「原子力安全監視室」と「原子力改革監視委員会」という二つの組織を作った。監視室長にはイギリスの原子力公社で安全監視に関わったクロフツ氏、改革監視委員長にはアメリカ原子力規制委員会元委員長のクライン氏が就任。いわゆる“原子力ムラ”の色を完全に排除した体制にしたいとしている。

 

 安倍内閣は、今後の成長戦略の柱に原発輸出も取り上げている。新興国だけでなく先進国も原発建設を考えているので、世界のエネルギー事情を考えるとまだ100基位の建設需要があると見られている。問題は国内の安全性基準をきびしくするだけでなく、フクシマの経験をふまえた日本が中心となって世界中で安心出来る共通基準をいち早く作ることだろう。

 

 原発はテレビや自動車のような汎用品ではない。輸出する場合はその国の地震など自然災害の状況や輸出相手国の原子力技術と運転管理の習熟度など考慮すべき問題がヤマほどある。それだけに、原子力発電所の輸出を推進するならば、少なくとも日本と同じような安全管理の方法を伝えたり、企業が相手国の原発運転にも責任を持つことが必要になろう。

 

 もし輸出先で事故が起きたらその大半の責任は、日本が持つといった覚悟も必要だろう。それは日本と輸出国の問題だけではなく、世界のエネルギー事情に影響するからだ。【電気新聞 2013年7月8日】

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