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ゴマ塩頭目立つオバマ 統治力衰弱で孤立化

 オバマ大統領の頭にやたらと白いものが目立ってきた。シリアへの軍事攻撃を表明したものの、最大の同盟国イギリスに攻撃参加を拒絶されたし、ポーランドなどかつてのイラク戦争に参加した同盟軍国も今回は不支持。それどころかアメリカ議会も武力攻撃に消極的なムードが強く、支持をとりつけられるかどうかさえ微妙なのだ。これでは苦悩とストレスがたまり、ゴマ塩頭になるのもうなずける。

 

 世界はますます求心力を失い、バラバラになっていくようだ。9月初旬にロシア・サンクトペテルブルクで開かれたG20首脳会議には先進7カ国と中国、ロシア、インド、ブラジルなど新興国の代表約20カ国の代表が、混迷するシリア情勢や先進国の金融引締めの動きに影響を受ける新興国の経済的停滞問題が話し合われた。しかしどの問題にも明解な方針を出せず、世界の混迷を印象づけただけだった。安倍首相はそんなG20に1日だけ出てオリンピック開催を決めるアルゼンチンに飛んだ。

 

 国連の安保理ではロシアと中国が反対にまわり「シリア問題は内政問題であり外国が口をはさむべきでない」と協力を断った。それどころか、プーチン大統領は主催国の立場を利用して新興国諸国を集め、シリア攻撃への協力を拒むよう説得。アメリカに対抗するロシアの力を見せつけるパフォーマンスまで演じてみせた。

 

 アメリカのシリア攻撃の理由は「非人道的な化学兵器を使用している」という点がもっとも大きいが、背後にはイスラエルの擁護がある。一方、ロシアや中国はシリアに兵器の供給をしているとされる。イギリスなどはイラク戦争でイラクが大量破壊兵器をもっていると指摘するアメリカの〝証拠〟を信じて国連決議なしのまま戦争に参加したが、結局大量破壊兵器は見つからなかった。戦争後のイラクは混乱したままで、ブレア英首相は引退に追い込まれた。今回もアメリカはまだ明確な化学兵器使用の証拠を示しているとは言えず、逆に反政府側の虐待行為やアルカイダ系の参加も問題にされ、アメリカの行動はズルズルと遅れているのだ。

 

 アメリカは「攻撃期間は90日で巡航ミサイルを使いアメリカ兵士の投入はしない」などの条件をつけて支持をとりつけようとしているが、はたしてそれで戦争目的を完遂できるかどうか。イラン・イラク戦争もイラクがイランの南部油田奪取を狙って仕掛けた限定戦争だったが、戦争は10年近くに及びイラク衰退の引き金になった。思惑通りに進行し、勝利する戦争などあり得ないのだ。

 

 冷戦終結後も各地で地域・民族紛争などが続発した。そのたびにアメリカは世界の警察官として同盟国を引きつれ収拾にあたってきた。しかしその間に失った代償は大きく、世界も安定してきたとは言い難い。アメリカ人はあきらかに戦争に倦んでいるし、自分の家族を世界の〝大義〟のために戦場に送ることに躊躇している。圧倒的力をもつ大国がなくなり、新興国が台頭して世界の統治が難しくなっている。オバマ大統領のゴマ塩頭に苦悩がみえる。【財界 2013年10月8日号 第360号】

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