時代を読む

ジャーナリスト嶌信彦のコラムやお知らせを掲載しています。皆様よろしくお願いいたします。

激化しているサイバー空間の戦い ――アメリカ同時多発テロが契機に――

 最近、サイバー戦争、サイバー攻撃といった言葉がメディアによく登場するようになった。678日にアメリカ・カリフォルニア州で行われた異例の米中首脳会議では「新しい大国の関係」を築くことで一致したものの、サイバー攻撃を巡る問題では激しい応酬があったという。


 サイバー戦争とは、簡単に言えばインターネットを悪用したネット上の目に見えない攻撃、防御の戦いを指す。オバマ政権ではサイバー空間を「陸、海、空、宇宙に次ぐ 第5の戦闘空間」と位置づけ、ヘーゲル国防長官は「サイバー空間における脅威に対処することは国家安全保障上において最も重要」と宣言している。

 

――愛国者法の下で盗聴や盗写――

 そもそもは、2001年にアメリカ同時多発テロが発生し、ニューヨーク金融街の超高層ビルやアメリカ国防総省がテロ攻撃被害にあったことが大きな契機となった。アメリカの中枢機能が同時に攻撃されたショックが大きく、テロ対策のための情報収集を強化する「愛国者法」が成立(200110月)し、情報収集の政府権限を強化するようになったのだ。


 当初は具体的にどんなことをしているかわからなかったが、2005年にブッシュ政権の指示の下、米国家安全保障局NSA)が令状なしで電話を盗聴していたことが発覚してから、少しずつ実態が露になってきた。アメリカの情報収集は、電話からインターネット空間を飛び交うものまで広範囲に及んでいる。


 対象は電話やメールアドレスなどの基礎的なものから、通話やメール内容などの盗聴、盗写まで多種多様。とくに電子メールやテキストメッセージなどの内容を収集するために、2007年以降マイクロソフトやヤフー、グーグル、フェイスブックなど大手9社が協力、参加していることも判明した。NSAが情報提供を要求すると、ネット会社のサーバーから動画や音声を連邦捜査局FBI)が取り込む仕組みになっているという。


 これまでにAP通信記者の通話記録、狙われた市民の通話履歴やネット情報などが収集されていたことが発覚しているが、米中央情報局(CIA)のスノーデン元職員の暴露でさらに詳細がわかってきた。

それによると主要20カ国首脳会議(G20)の各国代表国の通話なども傍受していたようだ。この中には当然、同盟国日本なども含まれていたし、イギリスやドイツの情報機関と協力していたともされる。NSA133月だけで、なんと970億件の情報を収集していたとスノーデン氏の暴露資料は明らかにしている。


 アメリカがスノーデン氏の身柄引き渡しをロシアに強く要求し続けているのは、情報漏れがどこまで及んでいるかを知るためもあると思われる。

 

――スノーデン氏が持ち出した大統領政策指令――

 スノーデン氏が持ち出した資料は、サイバー作戦に関する「大統領政策指令」で、すべてが最高機密文書だったとされる。そこには、これまでサイバー空間の情報収集と防御が主流だったのに対し、今後は攻撃も行うと指示していることが書かれているという。


 相手国のコンピューター通信システムや発電所などのインフラに不正プログラムを仕掛ける操作や妨害、破壊などの準備だ。現代の戦争は、旧来の陸、海、空の人間同士の戦いよりも、コンピューターで無人の戦車、戦闘機、偵察機などを動かし、人間の損傷を少なくするサイバー戦争が主流になりつつあることを如実に物語っているといえる。


 映画、アニメ、マンガで描かれているサイバー戦争が現実になっているのが、世界の実情なのである。

 

――始まっているサイバー戦争――

 サイバー空間の戦闘準備や攻撃、防御システムに力を入れている国はアメリカのほか、イギリス、ロシア、中国、ロシアなどとされている。

 

 とくにアメリカは、前の大統領政策指令で「サイバー攻撃は平時、戦時にかかわらず敵を抑止し、打倒する不可欠の能力」と明言している。「世界中の敵や標的に対し警告なしで深刻な損害を与え、アメリカの国家目標を前進させ得る」として、インターネットが軍事活用にきわめて有効であることを認めている感じだ。


 イギリスなどでテロ活動がおきると、数日もしないうちに地方に住む一般人が有力容疑者として捕まるケースをよく新聞などでみて驚かされる。しかし、これなども地球上で毎日取り交わされる数千、数百万の交信のビッグデータをいくつかのキーワードでふるいにかけ、怪しいと思われる交信録をずっと追い続けているのだろう。


 そんな交信を盗取することで普段は一般人、学生の生活をしているようにみえる人物をひそかに的を絞って監視し続けているわけだ。アルカイダビンラディンも、そんな手段などを使って居所を突き止められたのだろう。

 

――米中間では先端技術を巡る戦い――

 米中の間では、アメリカ側は「中国の人民解放軍が対米サイバー攻撃を行っている」と非難すると「アメリカも中国のコンピューターに侵入している」とやり返している。とくにアメリカの産業先端技術への不正アクセス5080%は中国からのものとし、その被害額は年間3,380億ドルにのぼると推定している。


 日本でも企業や政府機関のコンピューターから漏れる情報流出が頻繁に報道されているが、世界のサイバー攻撃、戦争の実態を知れば知るほど、日本の危機管理の甘さが浮き彫りになる。


 しかし、サイバー空間の攻撃と防御は、防御システムを作ってもすぐ穴があけられ永遠に繰り返される可能性が強く、コンピューター、ネット社会は利用、活用のされ方によっては致命的な弱点を抱えているともいえる。と同時に日本は、こうしたサイバー空間の目に見えにくい戦いにあまりにも鈍感になっているように思える。

 インターネットなどは便利ではあるが、個人のプライバシーや国家の重要施設にとってはきわめて危険な機器でもあることをわきまえる必要があろう。今のところ国際社会でこれらを規制する話はでていない。【TSR情報 2013年8月27日号】