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廃炉事業の先駆者に

 原発問題への関心が、再稼働時期とともに、廃炉問題にまで広がってきた。福島第1原発4号機の廃炉作業が始まり、その一部をテレビで見ることができたこともきっかけになっているようだ。

 

 それともうひとつ。昨年11小泉純一郎元首相が、脱原発ではなく「即ゼロにすべきだ」と記者会見で主張、核のゴミの最終処分地は見つかるのかと問いかけたことも大きい。ただ”即ゼロ”後の問題点については「知恵のある人が考えてくれるだろう」と例によって言いっ放しだったため説得力はいまひとつ弱かった。

 

 しかし廃炉問題は、原発の将来を考えるうえで、きわめて重要な課題だ。たとえ原発をすべて停止しても、廃炉は日本が自らの手で始末しなければならない。廃炉作業や最終処分地を代わりに引き受けてくれる国はないからだ。

 

 福島4号機で進んでいる廃炉作業は第1期が昨年12月に始まり、1533体(未使用分202体)を原子炉内から取り出し、水中にあるキャスクと呼ばれる輸送容器に22体づつ収納。それらのキャスクを共用プールに移送しなければならない。この4号機の作業を終えるのが順調に行っても2014年末なのだ。

 

 第2期は4号機よりさらに難しい13号機の取出しで、2021年にスタートする。4号機とは違い燃料が溶融している状態(燃料デブリ)にあると予想され、炉内の様子もまだつかめていない。したがってその取出し方法や炉内の状況を知るためのロボットの開発なども同時に探らなければならない。すでにその方法や技術を昨年夏に発足した国際廃炉研究開発機構(IRID)が内外に公募し約800件の応募があったという。

 

 福島第1原発では56号機の廃炉も決定済みなので、第3期で目指す廃炉措置の終了は溶融燃料すべてを取出した後となり、3040年後すなわち2050年前後になるとみられる。しかも廃炉措置が終わっても、その使用済み核燃料をどこに貯蔵するかが大変な作業となる。国が最終的な決断をするにしても当然ながら中間貯蔵、最終処分地の決定にあたっては、様々な調査、研究と何より地元の同意も必要になろう。

 

 小泉元首相が見学したフィンランドの最終処分場オンカロは、約100ヵ所の候補地から決めたもので、18億前の地層を500㍍掘り下げたところに収納しつつあるという。しかも放射性物質が限りなくゼロになるには10万年の年月が必要とされる。人間の想像力の範囲はせいぜい100300年。10万年といった期間は想像を絶する。ちなみに10万年前といえば、ネアンデルタール人が地球上に出現した頃だ。

 

 世界の原発で運転を終了したのは、これまでに約150基。うち廃炉までこぎつけたのは約10基だけだ。最終貯蔵まで完了した原発はまだない。日本では原発の運転期間を原則40年としたので、2020年代になると廃炉を迎える原発が次々とやってくることになる。日本でも世界でも”廃炉時代”はこれからが本番なのである。

 原発事故をおこした日本は予想外に早く、しかももっとも難しい廃炉作業に直面している。このため、現在の廃炉作業は追い込まれて行なう後向きの仕事のように見える。しかし、見方を変えれば世界に先駆けて新しい道を切りひらいているとも言えるのだ。かつて日本は公害問題に悩まされ、多額のコストと時間をかけて様々な環境技術を開発し、現代ではそれらが日本の誇る先進技術となっている。廃炉を成就し最終処分まで行うことになれば日本は21世紀の廃炉時代の先駆者となる。その過程ではまた様々の研究、技術、新しい発見があるはずだ。廃炉を前向きにとらえるも重要なのだ。【電気新聞 2014117日】

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