時代を読む

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『日本人の覚悟』を出版  成熟期を超える見本を

 宣伝になって恐縮だが、1月下旬に『日本人の覚悟―成熟経済を超える』という本を実業之日本社から出版する。この欄でも何度か記してきたが、私はここ数年「日本人は覚悟が足りなくなってきた」と記し〝覚悟〟というキーワードをよく使うようになった。

 

 それは、この失われた20年のうちに、いつしか日本人は自信と誇りを失いつつあり、内向きでひ弱になってきたと感じたからだ。決して日本人の資質が劣ってきたわけではない。日本人のモノ作りの現場や技術の高さ、品質の良さ、消費者の感性をとらえた製品づくり、器用さ、勤勉さ、実直さなどはどこの国よりも素晴らしいと思う。だが、20年余の負けグセのせいか、リスクをとって挑戦するという〝覚悟〟が欠けてきたのではないかと思い始めたのだ。

 

 過去の歴史をみると、あのソニーは戦争直後の1945年に井深大氏が「ソニーにしかできない商品をつくる」をモットーとして倉庫のような部屋から十数人でスタートしている。いまやJFEスチールとなり世界の鉄鋼メーカーとなった旧川崎製鉄川崎重工業の一製鉄部門の平炉メーカーだったが、世界の鉄鋼メーカーを目ざすとして分社化、高炉メーカーに挑む。時の法王といわれた日銀総裁・一萬田尚登氏は、戦後の資金不足の時代に「川鉄に回すカネはない。どうしても作るならペンペン草を生やすようにしてやる」と反対したが西山彌太郎社長は日銀に乗り込んで説得してしまうのだ。戦後数十年で大企業になった企業群は、ほとんどがそんな苦しい状況から発足しているのである。

 

 資金もない、設備もない、きれいな社屋もない、海外経験などもちろんない──といったところから今日の家電、自動車、鉄鋼、機械、精密工業などあらゆる企業は、志と情熱、そしてリスクを恐れない挑戦魂、覚悟から今日の世界的企業を育ててきたといえる。一度、各企業の社史をじっくり読み、日本の企業史をふり返ってみると、そのことは一目瞭然だ。日本はリーマンショック、ユーロ危機、東日本大震災を経験した数年前を〝第三の国難〟と呼んだ。しかし第一の国難の江戸幕末・明治維新、第二の国難の敗戦後からも日本は不死鳥のように蘇り世界第2位の経済大国、アジアNo.1の国に登り詰めた。

 

 それを成し遂げたのは日本の歴史や文化と日本人の資質、そして何よりも不屈の魂と覚悟があったからではないか、と改めて思う。私はこの本で幕末や大戦後のきびしい状況の中から立ち上がった日本人と企業の立ち居振る舞いを記してみた。と同時に今後の日本がどんな国、産業をめざし今の成熟経済を超えていったらよいかを考えてみた。書き終わって思ったことは、日本には21世紀の世界の課題が山積みになっているということだ。それらを解決する人材も技術もインフラ等はすべて整っている。あとは構想力、志、そして焼け跡から立ち上がった時のような覚悟だ。ぜひ一度手にとって、日本の歴史をふり返りながら新たな日本再生への思いと行動を示して欲しいと思う。【財界 2014211日号 第368回】
 

  日本人の覚悟―成熟経済を超える
実業之日本社
日本人の覚悟
 著者:嶌信彦
 ISBN:978-4408333052
  内容:「失われた20年」を経てもかつての輝かしい姿を取り戻すことのできない日本。そして、2011年3月11日の東日本大震災とそれに続く福島原子力発電所の事故。そんな状況の今こそ、幕末、太平洋戦争敗戦などの危機を乗り切ってきた当時の日本人の覚悟や、新たな事業に覚悟をもって取り組んできた企業。さらに、ただ利益を追求するだけでなく事業自体が社会貢献となっているベンチャー企業などを事例をあげ、嶌の鋭い視点からその企業を紐解いている。