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5、6、7極化する中国  IT化の現代を泳ぐエリート

 GWの休みを利用して数年ぶりに北京へ行ってきた。北京、上海などは1、2年も行かないと様変わりしているよ、と言われ続けてきたが、久しぶりの北京は本当に大変貌を遂げていた。今回は、中国人が良く行く場所やライフスタイルがわかるような所へ行きたいと思い、3泊4日の旅程だったが、毎朝午前10時半ごろから夕方まであちこちを歩いて見てまわった。

 一番気になったのは、やはりPM2.5のことだ。ところが私が滞在した4日間は、実に好天で霞がかかる日はなく、夜は星と月がきれいだった。友人によると携帯電話にPM2.5専門のアプリがあり、毎日それを見て「今日はなるべく屋内にいる」とか「道は地下道を利用する」などを考えて行動するという。子供連れの家族で赴任している人の中には、季節によって一時帰国するらしい。地下鉄もすごかった。ドア付近の人が一度降りて降車する人に空けてあげる習慣がないせいか、降りる駅の一つ位前からドアの近くへかき分けて近寄っていないと乗車する波の渦に巻き込まれるようだ。東京の地下鉄乗車客は約800万人と聞いたが、北京は1000万人を超し、数年前は2路線しかなかったのに北京五輪前後から急増し、今は16路線。スイカなどはあるものの、駅のホームに入る前には、飛行場と同様に荷物検査があった。

 北京の街には様々な顔があった。東京の六本木ヒルズ、ミッドタウンのような地域には世界のあらゆるブランドショップが軒を連ねていたし、その数はまだ増している。倹約令は出ているものの、車、家具、洋服、スポーツ用品、時計、装飾品など欲望はまだまだ渦巻いているようだ。一等地のマンション家賃は60〜70平方㍍で月30万〜40万円はするようで、ユニクロ無印良品、和食の価格も日本より高かった。

 その一方で胡同(フートン)地区のような昔ながらの家が密集した大衆的地域も多く、一般の労働者や商人はそうした所に親子三代で住んでいるようだった。そうした地区の取り壊しも目につき、日本の青山同潤会アパートが店に変わって若者に人気があったように、胡同のような古く狭い通りを店に改装したTシャツ屋や土産物、食べ物屋が軒を並べ、若者たちでイモの子を洗うような人の波だった。そんな古びた家の前にも外車が駐車してあり、聞くとその家人の所有車だという。日本の60、70年代も日本人は「家よりもまず車」とマイカーブームになったが、中国の若者も同じ心理なのだろう。そのほか布地を売る問屋街、工場跡地に現代美術を展示、売買している七八九地区、偽ブランド店ばかりを集合させた1棟建てのビルなど、どれも面白く疲れた。

 日本は戦後から徐々に現代化し、ライフスタイルを変えてきたが、中国ではIT化、グローバル化、現代化が一挙に到来し、その波をつかんだ人々や権力、許認可権限、偉いさんの子弟(太子党)などの人々が金持ちへの階段を駆け登り、老人や雑技団を見にきた地方の農民工の集団などは取り残されているように見えた。二極化ではなく五極化、六極化の世界が広がっているように見えた。
【財界 2014年6月10日号 第376回】

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