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紀元千年の人口大都市に学べ

 「896自治体が消滅の恐れ」と大きな見出しのついた5月8日の人口推計には日本中がギョッとしたのではなかろうか。民間の日本創成会議(座長=増田寛也総務相)が、2040年に日本全市区町村の半数近くが消滅するとして、その市町村名を公表したのだ。この”増田リスト”には「若手女性(20~39歳)半減市町村が半数」「東京も超高齢化が進み、若者の流入が続いても介護ができなくなる」などの数字も発表した。

 国の推計では2040年の総人口は、10年比で約2100万人減り、75歳以上の人口は800万人増える。団塊の世代(1947~49年生まれ)がすべて75歳以上となる25年時点では2100万人に達し、増加分の半分は三大都市圏に集中するともいう。地方から出てきて都会で働いていた人々が、故郷に戻らないためだ。東京、埼玉、千葉などの首都圏ではあと10年で75歳以上の人口が2倍になり医療・介護需要が急増することになる。

 日本で少子・高齢化問題が指摘されるようになったのは2000年代後半、真剣に議論され出したのはここ3、4年のことである。人口が大きく減り出したのは2003、04年からで05年に初めてマイナスとなったが06~08年は少し増えたのでまた将来課題に持ち越された感があった。しかし2009年にまたマイナスとなり2011年には一挙に25万9000人も減少し再び衝撃に見舞われた。

 現在の出生率(約1.41)が続くとすると2050年には9000万人を割り、2100年には何と4700万人まで減少すると国も推計しているのだ。子供を産む女性の年齢は20~40歳が中心だから毎年生まれる新生児と出生率を総合すると移民などがない限り人口推計は当たる。ちなみに昨年の新生児は約110万人弱だから、2013年生まれの人口はそれ以上には増えず、出生率が2.01になってようやく現状の人口が維持されることになる。増田リストには若年女性の減少率ワーストも順位づけされているが、群馬県南牧村の2040年の若年女性はわずか10人で10年比90%減となる。

 実は21世紀がスタートした2001年1月に「1000年前の世界大人口都市はどこだったか」という推計調査を、たしかニューズウィーク誌が発表していた。それに紀元10世紀の世界の人口トップ10は1位が今のスペイン・ゴルドバ、2位が当時の宋の首都開封、3位がトルコのコンスタンティノープル(今のイスタンブール)で人口数は約30~50万人、4位以下はアンコールワット、京都、カイロ、バグダッドと続き10万強から20万人強の人々が住んでいたらしい。8~10位はニューシャプール、アンハサ、アンヒルバーダなどイラン、サウジアラビア、インドなどの都市で10万人前後いたとされる。

 これらの都市名の多くは今も世界で知られ、その存在感を示していることは驚きだ。人口数だけでなく文化、住み心地、働きやすさなどの快適な住環境や人々に離れがたいふるさとの思いや味わいを残していたから今日まで有名都市として残っているのだろう。

 今回の増田リストは市町村名をあげて問題提起したため、かつてない反響を呼んだ。問題はその対策をどう実現していくかだろう。有識者委員会「選択する未来」(会長=三村明夫日本商工会議所会頭)は「何とか2030年までに出生率を2.07まであげて50年後の人口を1億人にしたい」との提言を行なった。

 いま生産年齢人口減少を食い止める観点から「女性の活用」「シニアの働く定年延期」「外国人労働者活用」などの議論が盛んだ。しかし労働力の数合わせでなく、人々の快適な居住、働く幸せ、故郷の良さなどから考えないと絵に描いたモチに終わるだろう。【電気新聞 2014年6月5日】

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