時代を読む

ジャーナリスト嶌信彦のコラムやお知らせを掲載しています。皆様よろしくお願いいたします。

~気象情報で世界の中核会社へ~  ――ウェザーニューズ社を支えた理念――

――「海洋気象」からスタート――

 「船乗りの命を守りたい」「いざという時、人の役に立ちたい」――ウェザーニューズ社に今も脈々と受け継がれている創業者 故・石橋博良元社長の言葉であり、創業の精神である。

 1970 年1 月31 日、1 万8,000 トンの貨物船「空光丸」は、折からの“爆弾低気圧”で、福島県いわき市小名浜港に吹き荒れた暴風によって沈没した。小名浜港はうねりに弱いとされていたが、20m の強風にあおられて錨が切れ、積んでいた木材が海に流出、重油も流れ出る大事故となった。この事故で船に乗っていた15 人の乗組員が亡くなった。低気圧が来るという予報はあったものの、予想以上の強風とうねりなどが強く、錨やクサリが切れて流されたため、船が防波堤にぶつかり沈没したという。

 石橋氏は当時、商社の木材担当者だった。ただ、当時の気象技術では爆弾低気圧の予測が難しく、船に向けたしっかりした気象情報が確立されていなかったことも事故の背景にあったとれさる。この事故をきっかけに石橋氏は気象の世界に関心をもち、しばらくして商社を辞め気象の勉強を始め、1986 年に株式会社ウェザーニューズを設立したのだ。

 ウェザーニューズ社の歴史は、日本の気象情報、地球の気候変動に伴う気象情報ニーズに対応してきた歴史と言える。1970 年代は、海洋気象の専門会社とし、船舶の安全と経済的に効率の良い航路を推薦するサービス会社としてスタート。まさに石橋氏が関係した商社の木材輸送事故への思いから始まったといえる。そのうちに1980 年頃になると、仕出し弁当屋向けのサービスを始める。雨が降ると弁当のロスが多くなり廃棄することになるため、天候と弁当の関係は大きいのだ。1983 年になると、衛生画像をテレビで放送して反響を呼び、放送局向けサービスを開始。さらに1985 年には、ある企業の安全な航空フライトをサポートする航空気象に進出、そして1986 年にウェザーニューズ社の設立に至る。ちなみに現社長の草開千仁氏は、その第一期入社組だ。その後の展開は目を見張るものがある。

 

――海、空、陸の44 分野に個別情報――

 現在は、「海」に向けて航海気象、海上気象、石油気象、水産気象の4 つがあり、「空」に向けた航空気象、「陸」の生活に向けた生活気象が三本柱。このうち陸の分野は電力、商業(小売り)、工場、保険、防災、道路、鉄道、モータースポーツ、野外イベントなど39 分野の顧客ニーズに応えており、各部門に専門チームがいるという。

 たとえば航海気象の場合、航海中の海域の気象情報だけでなく、どの航路をとれば最も安全で経済コストも安くつくか――などを気象情報から針路変更のアドバイスをすることもあるそうだ。 アドバイザーは外航船のニーズ、航路などを熟知したスペシャリストで、原油の品質と海水温の関係などをみる「タンカー」担当や自動車船に対しては車に傷がつかないように揺れない航路をアドバイス。バラ積み船になると鋼材なら結露に注意するよう湿度対策によい航路など積荷に応じて、さまざまなサポートをするわけだ。船は目的地に早く、安全に到着することが優先されるので、50 隻から100 隻を同時に運航する大手海運会社などでは、アドバイスによっては燃費が月に1 億円の節約効果も出るらしい。売上の25%を占め、世界の外航船6,000隻(世界全体で2 万隻なので3 割をカバー)に情報提供している。

――1 日5,000 便、200 空港をサポート――

 また航空気象分野では、1 日5,000 便、200空港をサポートしている。出発、着陸地の気象情報、各空港のインフラの整備状況、さらには航空機の種類、機長の技量によってもアドバイスの内容は異なる。このため気象インフラが未整備なアジアの空港などには、同社がライブカメラを設置して風向き、風速などを観測している。さらに、ドクター・ヘリなどに対しては気象情報だけではなく、高圧線の鉄塔などがある危険箇所を避ける飛行経路をサポートしたり、ヘリコプターの現在位置(GPS)を知らせ、運航そのものを支援する情報も提供するという。

 

――データ売りはしない、安全とコストなどの+αを――

 陸分野となると、前にあげた電力、工場、イベントなどのほか道路、河川、通信、健康、植物、山岳、ダム、農業、鉄道、建設、放送、旅行、サッカーなど39 分野に及ぶ。 保険会社は、天候が悪化し事故や災害が増えると保険支払が増えるし、山岳気象は命にかかわり、防災は地域全体の安全に影響する。報道気象は、気象庁からのデータだけでなくウェザーニューズ社からの情報も活用しているし、同社自体が独自の気象報道サイトや予報士をもっているという。故・石橋氏のモットーは「データ売りはするな」だった。気象データだけを売るのではなく、需要側のニーズ、懸念、関心を先読みしてプラスアルファ(+α)をたくさん付けることを考えよ、というものだった。草開社長は「民間天気予報はここまでやる!」という石橋精神が今も脈々と息づいており、使命感をもって仕事に取り組んでいると胸を張る。

 

――観測インフラも次々と整備、新設、一般サポーターは650 万人――

 ウェザーニューズ社がこうした情報提供できるのは、その観測インフラが整備されているからだ。同社独自のものとして航空機用のレーダー利用(WITH レーダー)80 基、船舶衝突防止用津波レーダー29 基、気温、湿度、気圧、雨、日照、紫外線を観測するWITH センサー3,000 台、花粉飛散量やPM2.5 を計測するポールンロボ1,000 台などを活用しているのだ。WITH レーダーは空の低い所を観測できるのでゲリラ豪雨の雨雲発生を早く発見でき、気象庁の大型レーダーでは捕捉しにくい所を補えるという。また津波レーダーは30km先で発見可能なので避難時間を15 分位確保できるのではないかという。

 また、天気予報の一般サポーターが650 万人おり、スマートフォン・モバイル・メールを通じ1 日平均13 万人が予報に参加。写真による雲の形、竜巻の映像や気温・湿度の体感などを伝えてくれている。

 

――日米欧に拠点、世界最大の民間気象会社に――

 また、東京以外にヨーロッパにはアムステルダム、アメリカにはオクラホマに拠点を置き陸、海、空の情報を24 時間365 日やりとりし、全世界の公的機関による観測情報も提携して取得している。

 ウェザーニューズの社員数はいまや約600人、年商130 億円ながら営業利益率20%を誇る。売上構成は個人向け25%、放送局向け25%、企業向け50%で、50 カ国・地域の企業・個人にサービス提供し、個人の気象アプリ使用は1,200 万人、コンビニのお客は5 万店(約90%)にのぼるという。

 私は2005 年に故・石橋社長にインタビューしているが、それから10 年弱の間に気象予測技術者100 人、IT 技術者100 人、サービスを伝えるリスクコミュニケーター250 人など抱える、世界最大の世界的専門中核会社に成長していた。日本の中小企業が世界で生きてゆく見本の企業ともいえるのではないか。

 今後、気候変動問題はますます世界的な課題となり、ビジネスにも大きく影響してくるだけに、同社の先取りしたビジネスのあり方は注目の的だ。
TSR情報 2014年7月29日】