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孤立化するロシア アジアの空、海は?

 マレーシア航空機の撃墜事件は、民間機の撃墜自体が言語道断の行為であるうえ、その後の遺体の取り扱いや事故調査を巡る親ロシア派武装集団の行動はあまりにもひどく、非人道的だ。ロシアはまだ武装集団をかばう姿勢を崩していないが、一刻も早く、欧州安保協力機構(OSCE)監視国、国際調査団などに事件解明、遺体の引渡し等に協力するよう武装集団を動かさないと、ロシア自体が国際的に孤立しよう。武装集団を利用して他国を混乱させようとする意図が仇になりつつあるように見える。

 墜落現場から毎日送られてくる映像や報道記事をみていると、搭乗者の家族や関係者はいたたまれない思い、怒りに駆られるだろう。附近の住民は「ミサイル攻撃で傷ついたとみられる遺体ばかりを選んで真っ先に搬送していた。ミサイルの破片などの証拠隠滅を図っていると思った」(7月21日付朝日新聞)などの記事もあった。そこには死者に対する哀悼や謝罪の気持ちはなく、証拠隠滅をはかって非難をかわす行為としかみられまい。遺族は遺体を確認したいはずなのに「政府側は遺体は武装勢力が持ち去ったといい、武装勢力側は専門家の到着を待っていると話した」(同)という。

 また事件解明の手がかりになるブラックボックスの行方についても、親ロシアの司令官が「モスクワがどこにあるか尋ねている。早くしろ、緊急事態だ。他人の手に渡らないようにせよ」などと告げている会話内容の動画が報道されている。さらに撃墜に使用されたミサイル3基がロシアから搬入され、事件後2基がロシアに戻された映像も公開されている。プーチン大統領は「事件はウクライナ上空でおこり、責任はウクライナ政府にある」と逃げを打っているが、いまは国際的視察団に全面協力すべきだろう。

 もっとも犠牲者の多かったオランダ(193人)のルッテ首相や犠牲者の母国である英(10人)・キャメロン首相、オーストラリア(27人)・アボット首相ら各国首脳は「ロシアが直ちに対応しない時は制裁追加などの対応をとる」と指摘。とくにオランダは「遺体が引きずられるなど丁重に扱われていないことに国民は激怒している」と述べ、11月に主要20カ国首脳会議を主催するアボット首相は、ロシアの参加を拒否することも示唆している。

 世界ではいまシリア・イラクイスラエルパレスチナでも毎日戦闘が続き、地中海を渡る難民が数万人にのぼっていると伝えられる。どの戦闘地域をみても、当事国の政府が統治力を失い、過激派勢力が独自に動いているように見える。しかしその背後では、それぞれの思惑をもって武器などを供与している。ただ誰も火中の栗を拾うような真剣な調停に乗り出そうとしているようには見えない。「強いアメリカがいなくなったから」というのは簡単だが、中東やウクライナの事態は、すでにアジアでも島々の主権をめぐって小さな衝突がおこっている。衝突は一度おこると治めるのが難しい。集団自衛権だけでなく紛争の予防システム、紛争処理の解決システムも準備しておかなければなるまい。
【財界 2014年8月26日号 第381号】

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