読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

時代を読む

ジャーナリスト嶌信彦のコラムやお知らせを掲載しています。皆様よろしくお願いいたします。

~2020年には5倍の売上目標~ ―オートキャンプ製品で独自の道開く―

―熱狂的ファンをもつスノーピーク

 今月も時代の流れをつかんで成長している中堅企業を紹介したい。地方の企業ながら海外の売上比率35%、2020年の連結売上目標を5倍から10倍にしたいという大目標を掲げているが、話を聞いていると決して絵空事ではないというリアリティーを感ずる。オンリーワンの商品を次々と作り、熱狂的なユーザーを掘り起こしている点が強味なのだろう。

 その企業はアウトドア、とくにオートキャンプ用品で知られるスノーピーク社。「自分が欲しい製品だけを作る」をモットーにしながら、いまやオートキャンプ用を中心とするアウトドア用品は500アイテムを超す。山井太社長はじめ全社員がユーザーで、社員は自分用のものは自社製品であっても自腹で買うことになっており、山井社長も「これまでに1,000万円以上買ったと思う」と笑う。

 オートキャンプに最低必要と思われるものは、初級用親子4人使用のテント、イス4脚、寝袋4つ、テーブル、ランタンなどで一式買うと約15万円。中・上級用になるとさらにテント以外に野外で気持ち良く団らん、昼寝、読書で過ごせるタープ、焚火を楽しむ焚火台、調理道具(4人分)など調理用品、シェルターなどが約20万円といった具合だ。このほか野外キャンプで使う便利な単品も数多く、スノーピークを一躍世界で有名にした商品は「世界最小、最軽量、最コンパクト」なストーブで、何とポケットに入ってしまい、世界ブランドになってしまった。発想の原点は「胸ポケットに入る軽量なストーブが欲しい」という要望から、デザイン、製造までを工夫して作りあげたものだ。まさに“欲しい商品”があったら、とことん工夫して作り上げてしまうのだ。最小ストーブはポケットから部品一式を取り出し、自分で組み立て市販燃料を燃やせば、あっという間に手頃なストーブに早変わりしてしまう驚きの商品である。

f:id:Nobuhiko_Shima:20110906155836j:plain
              スノーピークの社屋

 

――500アイテムの製品、オートキャンプ人口1,000万人――

 スノーピークは、登山家だった父親の山井幸雄氏がオリジナル登山用品を開発、1958年に山井幸雄商店として創業した。その後、オートキャンプが流行し始めてアウトドア製品を作り、子息の山井太氏(54)が入社し、成長を遂げた。父の幸雄氏は太氏に「お前は登山を始めると必ず死ぬようなことになるから」と登山を禁止したこともあってアウトドア用品一般、特にオートキャンプ用品に目をつけて成長してきた。とくに車社会となり、オートキャンプが流行し出してからは、ユーザーが欲しいと思うものに徹底してこだわった。普通のオートキャンプ用のテントは1~2万円で買えるが、スノーピークは商品質、使いやすさなどにこだわり破格の16万8,000円で売り出したところ初年度に100張も売れ「良いものを作れば高くても売れる」と自信を深めたという。

 オートキャンプ人口は、1984年当時は400万人といわれたが、1996年には1,580万人でピークを迎え、最近は700~800万人に推移している。しかし、団塊世代がリタイアしたことや家族ぐるみで自然に溶け込んで過ごすレジャーの流行などで、再び人気が出ているという。また、ここ20年所得が増えていないため、健康的で自然の中でレジャーを楽しむ方が安上がりで仲間とも楽しめるメリットもあるようだ。

 

――本社は新潟県三条市、海外売上35%――

 山井社長自身も年間30~60泊はキャンプし、社員もまたキャンプ好きが集まっている。本社のある新潟県三条市には15万㎡(5万坪)を超す敷地に本社、工場、製品の展示場などがあり、キャンプ場もある。山井社長は年に15泊ぐらいは本社敷地のキャンプ場から出社するというから相当な愛好家でもあるわけだ。

 同社の社風も変わっている。まず社屋は外の自然が見えるようにガラス張りになっており、だだっ広い講堂のようなスペースに各部署が同居している。しかも社員は毎日違った席に座り、隣の社員も違った部署の違った人にするのが原則。これによって社員同士が各部署の人たちと情報交換、話合いができることになる。社員の中には、バランスボールをイス代わりに使用している人もいた。敷地には一般の人にもキャンプ地として開放しているうえ、年に6日は全国でキャンプイベントを開き、ユーザーと一緒にキャンプを行う。そこで一緒にお客さんと自然やキャンプファイアー、食事などを楽しむとともに、ユーザーの新しい要望や苦情も聞くという。ユーザーが提案したアイデアを製品化することもある。

f:id:Nobuhiko_Shima:20140826130146j:plain

             スノーピークのキャンプ場

――三条の金物工場群が生産基盤に――

 スノーピークのもうひとつの強味は、金物工場などが900以上ある燕三条を拠点にしていることだ。70年代の円高の時代は洋食器の輸出で苦境に陥り、よく新聞やTVの話題になった地域だ。しかし今も燕三条は、金物の街として生き残り、鋳鉄などの技術は世界に誇る。このため、テントを張る時に地面に打ち付け、固定させるペグや調理用のダッチオーブン(釜)などは2.25ミリの薄さで熱通しがよく頑丈なので人気がある。オートキャンプや登山用品の多くは、この燕三条の工場から出来ているし、設計の依頼、試作なども相談しやすい。山井氏自身が三条工業会(約500社)の理事長を務めているのだ。

f:id:Nobuhiko_Shima:20101013155516j:plain

                ダッチオーブン

――自然とレジャーで世界の中堅企業に――

 スノーピークのもうひとつの強味は海外展開だ。韓国、台湾などのアジアをはじめ、アメリカ、ヨーロッパにも商品を輸出、人気を博している。品物がしっかりし、ユニークだし無期限保証もしているので信頼も厚いのだ。海外の売上比率は現在の全売上高約45億円の3分の1程度だが、数年で数倍にし、全売上げも400億円超えを狙う。いまアジアでは車社会が到来し、レジャーの多様化でキャンプ需要が拡大、高額化需要も増えているという。

 オートキャンプ時代到来に目をつけ、ユーザーの意見、ニーズを直接聞いて商品を開発するところが、世界のオンリーワン商品として人気を博しているのだ。ほとんどのキャンプ用品がテントも含め、布のバッグに入り、現地で約20分もあればキャンプハウスができてしまう商品の工夫もすごい。悩みは新興国がすぐ真似してくることだが、次々と新製品を出し、燕三条の生産基盤がバックに控えていること、スノーピークがすでに世界のブランドになってきているので、そう簡単には追いつけないだろうという。アイデアとユーザーと地域の技術で、アウトドア製品という時代の潮流に乗ったオンリーワン商品を作り上げていく新しいタイプの中堅・中核企業といえそうだ。
TSR情報 2014年8月25日】