BRICS銀行創設へ 危うい協調と思惑
ことし7月中旬、ブラジルで開かれた新興5カ国の首脳会議で途上国支援のための「新開発銀行=BRICS銀行」の設立が合意された。戦後の国際金融世界を牛耳ってきたIMF(国際通貨基金)、世界銀行などのIMF・ブレトンウッズ体制への〝挑戦〟ともみられているが、はたして個性とアクの強い新興国が仲良くやっていけるのか、前途はかなりきびしい道のりとなりそうだ。
BRICS銀行の主体は、B=ブラジル、R=ロシア、I=インド、C=中国、S=南アフリカの5カ国だ。当初の資本金は500億㌦(約5兆円)で5カ国が均等出資する。上海に本部を設置し、初代総裁はインドから出し、中国が総裁を出す順番は2021年ということになっている。また南アフリカにはアフリカ地域センターを置くことを決め、それなりにバランスを配慮したようだ。
BRICS銀行の主要な任務は、新興国のインフラへの資金供給である。また金融危機などの緊急時には、1000億㌦のスワップラインをもうけ各国が互いに外資を融通しあうシステムも作った。97、98年のアジア通貨危機で日本などが外貨を融通して東南アジアや韓国を支援したケースにならったものだ。BRICS銀行創設の総会開催国になったブラジルのルセフ大統領は「歴史的な決定で大きな第一歩を踏み出した」と宣言、ロシアのプーチン大統領は首脳会議に先だって「アメリカの一極支配に対抗できるような存在に高めたい」と語っている。
戦後の国際金融は、1944年に創立したIMF・世界銀行主導による体制だった。世界の中央銀行などが参加し、国際金融安定化のシステム作りや途上国への資金供給などで金融面から国際社会を支えてきたが、そのリード役はアメリカを中心とする先進国で出資比率によって発言権などが決められていた。地域版として米州、欧州、アフリカ、アジア開発銀行などがあり、地域開発も担っていた。ただ最近は先進国の成長率が鈍化し、逆に新興国が高度成長を遂げ発言権増大を主張してきたが、過去の出資比率、貢献度などをタテに新興国が権限強化をはかることに反対していた。逆に新興国が通貨危機などに陥ると、きびしい資金融資条件をつけ〝IMF支配〟などと嫌われてきた。
今回のBRICS銀行創設は、そんなIMF体制・支配への反発から新興国が手を組んだともいえる。
しかし新興国も高度成長が危うくなり、バブル崩壊の懸念もささやかれてBRICS銀行が安定できるのか疑問視されている。またロシアはウクライナ問題で金融・経済制裁を受け苦しいため、BRICS銀行を早速活用しようと画策しているとも伝えられる。はたしてBRICS銀行は、その理念通り新興国のインフラ整備や金融危機に対応できる真っ当な国際機関になり得るかどうか。互いに利用だけを考え、角突きあわせると国際金融の足を引っ張る存在になりかねない。まだ安定していない潜在的な経済大国がどこまで協調しあえるか──欧米先進国は〝お手並み拝見〟の姿勢のようだ。
【財界 2014年9月9日号 第382号】