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50議席減なら自公の敗北 30減なら引分け判定か

降って湧いたような突然の解散・総選挙である。なぜこの暮れの忙しい時に総選挙なのか──日がたつにつれて様々な謎の裏がみえてきた。

 まず安倍首相がいつ総選挙を決断したのか。誰に最初に打ち明けたのか。安倍首相は北京で習近平国家主席が議長をつとめる第22回APEC首脳会合やそれに続くASEAN首脳会議、G20(20カ国)首脳会議など一連の首脳会合出席のため北京、ミャンマー、オーストラリアなどへ出かけ11月初めから約2週間ほど留守にした。実はこのアジア訪問中も同行記者団に解散・総選挙を聞かれる度に否定していた。ただこの旅行中に国内では〝総選挙近し〟の雰囲気が急速に高まり、議員たちはほとんど全員が自らの選挙区に戻って選挙準備にかかり始めた。そんな国内情勢をみたせいか、安倍首相は帰国が近くになると発言のトーンが変わり、解散・総選挙が年内にあり得るかのような発言を示唆し始めたのである。そうなるともう選挙モードは止まらず、首相帰国前から国内は選挙一色になっていった。

 安倍首相が選挙のハラを固めたのは、どうやら出発2日前頃だったようだ。ひそかに谷垣・自民党幹事長と会談し、消費増税延期と年内解散を示唆したという。谷垣氏は「増税は3党合意で決まり、2015年10月の消費増税も法律改正している」と当初は消極的だったらしい。しかし安倍氏が14年7─9月期のGDPの内容が予想外に悪く、このまま増税に踏み切ると再び不況に落ち込むと懸念を説明。さらに今後の政治日程をみると一連の安保関連法制、沖縄問題、政治とカネのスキャンダル、来年度予算審議、15年春の統一地方選などを考えるなら「追い込まれてから解散するより、野党が選挙準備ができていない今がチャンスだと思う」と説得した結果、支持にまわったという。自民党の了解を得て安倍氏はアジア出発前に、統一地方選とのダブル選挙を嫌う連立与党の公明党にも年内解散を示唆して出かけて行ったのである。

 某全国紙が年内解散を一面トップで打ったこともあって、年内解散必至の方向が定まり、自民・公明も各議員に選挙準備を指示する。安倍首相は年内解散を否定し続けていたが、実はすっかり話合いは出来ていたとみてよさそうである。

 安倍首相は選挙の大義名分を「消費税延期」から「アベノミクスを問う選挙」だ、と変えた。野党にとっては攻めやすくなっただろう。円安・株高でも輸出はふえないし、消費も設備投資、実質賃金もほとんど変わらない。これ以上の円安ははたしてプラスか。賃上げも大企業だけで二極化がさらに進むのではないか、原発や安保法制、地方衰弱をどうするのか、など──いま日本が抱えている難問に正面から論争し方向が見えたら意義は深まろう。

 と同時に野党もリアリティのある政策を出すことだ。国民は民主党の失敗を忘れていないので、批判だけでは票は得られまい。自民が50議席以上減らせば大敗、30減前後だと勝負なし、10〜20減なら「野党だらしない」となるのではないか。
【財界 2015新春特別号 第390回】
※なお、本コラムは衆院選前に書かれたものです。

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