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東洋医学の谷先生を悼む

私が30年近く体調を見て頂いている東洋医学の先生がおられる。元々は長崎大学医学部を卒業(医学博士)、西洋医学を修めてきたが、母親の病気をきっかけに東洋医学に関心をもち、東洋医学の権威とされた間中喜雄博士に師事。以来東洋医学と西洋医学の両方の長所を生かした統合医療を実践して来られ、丸の内のタニクリニックはいつも満員だった。

 日本では、どういうわけか東洋医学を低くみる傾向がある。東洋医学の基本的な考え方は「病んだ体を自然のものを用いて活性化し、自分の力で病気を治そうとするもの」で、薬に頼って治してもらう西洋医学とはその点が異なる。自分の体の中にある病気を治そうとする力を最大限引出し、自らの〝気〟を高めることで病気を抑え込むのだ。そのためには自然の木々、葉などを交ぜた漢方薬を飲むが、基本はあくまでも自らの免疫力を強くし、自らの力で病気と戦うのだ。〝病は気から〟というが、病と戦う気を充実させる療法といえる。

 谷美智士先生は、免疫力を高め気を充実させる漢方薬を作るため、毎年のように東南アジアやインド、南方のジャングルに出かけ、気の充実した木々や葉を見つけてきて漢方薬を作っていた。この診療と漢方薬ルーマニアの幼児エイズ患者、がん、リウマチ、花粉症、自閉症などの難病者を治してきた。ルーマニアから勲章を授けられ、幼児だったエイズ患者が成人し、元気に働いている。私は80年代の赤坂診療所の頃から毎月長期的に見て頂いていたので、体調の変化などがあると「未病のうちに治すことがもっとも大事。未病(病気になる一歩手前の状態)の時に良い〝気〟を体に取り入れれば痛みや治療で苦しまずに健康を取り戻せます」と言われ続け、大病、中病をすることなく、73歳の今日まで元気にすごせて来られたと感じている。  その谷先生が2月下旬に突然亡くなられてしまった。昨年から少し体が弱ったように見受けられ、海外への薬草探しなども中断されていたうえ、時々休養と称し休まれていたので心配はしていたのだが、無理がたたったのかもしれない。

 「西洋医学は科学であり、実験で得られたデータがもっとも重要で、理論づけられておらず体系的でない知識は否定すべきもの」とうけとめられていた西洋医学界からみると谷先生の医療は異端にみえたらしい。しかし、どの医者の門をたたいても治らない病人が、谷先生に巡りあって元気になった人を私自身が沢山みてきた。病人にとってはデータは大事かもしれないが、自分の体調が良くなる方がいいに決まっている。有名、高名、無名人を問わずタニクリニックに人が絶えなかったのは谷療法を信頼していたからだろう。最近は自閉症が良くなってきたデータをみて喜んでおられた。

 中国などでは東洋医学と西洋医学との融合も盛んになっていると聞く。日本でも東洋医学が見直されているというが、谷先生にはもう少し頑張って頂きたかった。後継者が意志を継いでくれることを熱望する。

【財界 2015年4月7日号 第396回】

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