時代を読む

ジャーナリスト嶌信彦のコラムやお知らせを掲載しています。皆様よろしくお願いいたします。

~一帯一路とAIIB~

―中国が描く物流、金融、安保構想など―

 4月15日から始まったG20(20カ国財務大臣中央銀行総裁会議)の実質的焦点は、やはり中国が提唱しているアジアインフラ投資銀行(AIIB)だった。すでに57カ国が参加表明しており、様子見をしている大国はアメリカと日本ぐらいだ。英・独などの欧州主要国や東南アジア、オーストラリア、カナダも参加表明しているから、中国としては予想以上の上出来スタートと満足していることだろう。しかし、AIIBの前途は楽観は許されない。

 

―アジアのインフラ需要は800兆円以上―

 AIIBは、2015年末に運営開始を予定し、初代総裁は中国の元財務次官が有力とされている。目的はアジアのインフラ整備に融資しようというもので、今後の世界の成長センターとなるアジアのインフラ需要は8~9兆ドル(約800兆円から900兆円)と言われる。橋や鉄道、電力、港湾、道路など生活や産業の基盤となる公共的事業を支援しようというものだ。アジアにはインフラへの旺盛な需要はあるものの資金や技術などが不足しており、それを世界で支援し、支援する側も金融を有効に使いたいという思惑がある。

 

 第二次大戦後は欧米世界が中心となり、ブレトンウッズ協定をつくり、大戦で荒廃した世界のインフラをIMF国際通貨基金)と世界銀行が軸となって支援した。日本の高速道路なども世界銀行の融資を受けて完成したものだ。今回のAIIBは、同じような発想で中国が主導してアジアのインフラ基盤建設を推進しようという思惑がある。むろん、これまでのIMF・世銀を活用すれば良いし、その関連国際機関としてアジア開発銀行(ADB)や欧州復興開発銀行(EBRD)など各大陸にインフラ支援の国際金融機関は存在している。

 

―AIIBはIMF・世銀と協調できるか―

 しかし、中国があえてAIIBを設立したのは、IMF・世銀は官僚主義的、硬直的で融資までの時間がかかり過ぎ、融資条件的にもいろいろ細かい条件がついて効率的でない、といった不満があるようだ。また、融資された国の経済が悪化し返却が不能になると、IMFなどがリストラなどを求め、国家統治にまで介入してくるケースもみられた。1998年に韓国が経済苦況に陥った時、IMFはさまざまな厳しい条件を課したが、韓国国民は反発して「IMF」統治に反対、と大デモを起こしたりした。

 AIIBはこうした融資条件の審査や違反した時の罰則、対応をどうするのか、一体、AIIBの理事会構成や融資の判断基準はどうなるのか―――こういったことがまだ明らかになっていないため、アメリカや日本は公開性、透明性、中立性、融資の優先順位の判断基準が曖昧だとして参加を見送っているわけだ。欧米などは、参加してから中で意見を言っていけば良いと主張しているようで、立場が異なっている。

 

国益がらみの各国の思惑―

 ただ、AIIB構想の参加国はインフラを整備するというだけではない、国益にからんだ思惑がある。中国は数年前から“一帯一路”構想を発表し、巨大な経済圏構築を目指している。一帯とは、かつての陸のシルクロードから発想したものでEU、ロシア、中央アジア西アジア、南アジア、東南アジア、中国と結ぶ現代の“シルクロード経済ベルト”、一路とは、やはりEUから地中海、ペルシャ湾、東アフリカ沿岸、インド洋、南シナ海、南太平洋、中国沿岸部を結ぶ21世紀海上シルクロードと呼んでいる。

これらを完成するにはアジアのインフラ(道路、港、鉄道など)が不可欠になるわけだ。習近平政権は、この“一帯一路”の陸と海の新シルクロード経済圏は「今春から全面推進段階に入った」と宣言している。今回、AIIBに参加表明した57カ国は、ほぼこの一帯一路の沿線国と言える。

 アジアにとっては、世銀やADB以外にインフラ融資をしてくれる金融機関が増えることは歓迎だし、参加表明しておいて損はないと考えているのだろう。また欧州主要国のうち、イギリスはAIIBに集まる資金をロンドン金融街が運用することは大きなメリットだし、ドイツは、いまや中国は最大貿易相手国(特に自動車)となっている。

 

―民間銀行の協力が成否のカギ―

 IMFのラガルト(仏人)専務理事は「この組織が切実なニーズを満たし成長を後押しするなら我々は協力できる」といい、麻生財務相とルー米財務長官は「AIIBは環境や人権に配慮した国際的な基準に沿って融資を手掛ける必要がある」とし、麻生長官は「国際的に確立したスタンダード(基準)に基づくことが重要で、それが整えば世銀やADBとの協調融資も効果的だ」と述べた。

日・米はあくまでもIMF・世銀体制の枠内で動くべきだとし、中国主導で独自の中国基準で融資をしたりするようになると、国際金融秩序を揺るがすことにもなりかねないと懸念しているのだ。

 

―中国の構想力には見習うべし―

 AIIBの出資は、アメリカと日本が参加しないのなら中国が断トツの一位となり、50~40%を出資する用意があると言っている。ただ、インフラは基本的には多くの利益を出さない社会基盤なので、ずさんな融資や環境、人権を無視したり、平等性、公開性、説明責任などを果たせないようだと民間資金は集まらなくなり、AIIB構想は行き詰まる可能性もある。

 現段階では細かな内容、基準が明らかになってこないと本当に成功するかどうかは、まだわからないだろう。それにしても中国は一帯一路、アジアインフラ投資銀行、アジア・太平洋の安保構想など一体的な大きな絵図を描き関係国を巻き込んでいくやり方には迫力を感じさせる。

 アメリカや日本は、IMF、世銀、ADBなどの改革を進め新興国にとってもっと魅力ある国際機関になるよう改革を実現していったらよいのではないか。AIIBと競って老舗顔をしているだけでは、支持者は移っていく。かつてのG7の仲間は、そこを心配しているのではないだろうか。

TSR情報 2015年4月30日】

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