時代を読む

ジャーナリスト嶌信彦のコラムやお知らせを掲載しています。皆様よろしくお願いいたします。

インフラと安保も

 アジアへのインフラ投資競争が過熱してきた。中国が「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」の設立構想を発表し、設立時の資本金は当初予定の2倍となる1000億㌦(約12兆円)。中国の出資比率は参加表明国57ヵ国中最大の約30%を持ち、出資比率に応じた議決権を持つという。本部は北京に置き、各国代表となる理事は北京に常駐しない方針というから融資案件の主導権、拒否権は基本的に中国が握るという仕組みだ。

 中国はいま「一帯一路」の大方針を掲げ、陸の旧シルクロードと海のシルクロードを大幅に拡大し、ヨーロッパ、中東、インド洋を経て中国につながる一大交易路を陸と海に作ろうとしている。すでに東南アジアに鉄道網を作り、アフリカ、中東、インド洋の海路にも次々と新しい港、寄港地を作っている。危険なマラッカ海峡を通らずミャンマーなどに陸揚げし、後は鉄道で中国へつなげる構想のようだ。AIIBはその資金供給源となり、融資案件の優先順位や条件を中国主導で決定する思惑があるのだろう。

 日本とアメリカはまだ中国の基本方針、運営の透明性、思惑が公開されていないため、参加への態度は保留している。日米の経済・金融大国が参加しないとなれば、AIIBの信頼度は損なわれるので、今後の中国の出方が注目される。AIIBには欧州主要国が出資するので、にわかに存在感を増したが、イギリスはAIIBの資金をロンドンに引っ張り込んで運用したい狙いがあり、ドイツやフランスは対中国との貿易額がいまや1~2位となっているだけに、何とかアジア・太平洋に食い込んでおきたいとみたのだろう。いわば、ツバをつけておいて損はなく、アジアの安保の主導権争いに加わりたいという思惑は少ないと思われる。しかし欧州が参加表明したことでAIIBはにわかに存在感を増した。

 そこへにわかに対抗意識を強めてきたのは日本である。安倍首相は5月になり、日本人の中尾総裁を擁する「アジア開発銀行(ADB)」に今後5年間で1100億㌦(約13兆2000億円)を投ずると表明した。アジアのインフラ、人材育成、エネルギー、医学、環境などに焦点をあて、アジアの成熟した豊かな未来に焦点をあててAIIBに対抗しようというひと味違った戦略を公表したのだ。中間層が増えているアジア新興国にとっては、魅力ある将来投資にみえよう。

 アジアのインフラ投資需要は1000兆円を超える。問題は国際機関の主導に民間銀行が安心して追随投資するかどうかだ。ADBとAIIBのどちらに民間銀行はついてゆくのか。採算がとれなくなると巨額の不良債権を抱え国際問題にもなる。日本のバブル投資、アジア危機、リーマンショックギリシャ問題などで各国と世界は何度も痛い目にあってきているから、投資には慎重になろう。ADBとAIIBのツバぜり合いは世界銀行、IMF国際通貨基金)も絡んで、アジアの争奪戦になる可能性も秘めている。ADBが本格的に巻き返すには、迅速な融資の決定、効率化、ノウハウの伝授、民間銀行の集結などがカギとなろう。アジアであぐらをかいていたADBには良い刺激になった。またAIIBにとってはADBの戦略は厄介で、中国の勝手を牽制する手立てになり得よう。

 日本の主導するADBはアジアのインフラ整備を手助けするという経済援助的な側面が強かった。これに対し中国はインフラ支援といいつつ、東南アジア中央アジア、インド洋、アジア太平洋への経済的進出とともに、安保も絡めた戦略的な構想が背景にある点が決定的に違うようにみられる。AIIB、一帯一路構想、海洋進出などを含めた中国の大戦略と絵図を十分にみておく必要がある。
【電気新聞 2015年6月9日】

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