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時代を読む

ジャーナリスト嶌信彦のコラムやお知らせを掲載しています。皆様よろしくお願いいたします。

【高揚感ない安倍新組閣】~オリンピック後の日本の展望みえず~

コラム(Japan In-depth)

第三次安倍内閣がスタートしたものの、迫力も高揚感も感じられない。第二次では、当初経済の再生を声高に叫んだが、国会議論の中心は安保法制の成立だった。憲法9条の改正には挑まず、9条の法解釈を変えてこれまでタブーとされてきた集団的自衛権や周辺事態のあり方などを大きく変更する法律を制定してしまう政策だった。
憲法学者、法学者はじめ有識者、文化人らの多くが反対し、国民の6,7割も「新法の内容がよくわからない」「憲法を改正せず、憲法の解釈を変えて安保法制をいじることは反対だ」という国民の意見は過半数を超えた。

それにも関わらず、9本の法律を一括して一本にまとめ強行採決した背景には、祖父岸信介元首相の果たせなかった思いを自らの手で成し遂げたいとする安倍首相の長年の宿願があったことは間違いなかろう。それと今春の日米首脳会談、日米防衛幹部らとの話合いの中で、アメリカがアジア、太平洋から徐々に軍を引き揚げ軍事費も減らす状況の中で、日本が一部を肩代わりし穴埋めするという約束をしてきたことも大きかった。

日本の国会と国民に法案が出される前に日米首脳が憲法に関わる日米の安保法制について両国で話合っていたわけだ。立憲主義を軽視し、ないがしろにしているといわれた所以である。

その安保法制が可決してしまった途端、安倍政権は大きな目標を失い政権のエネルギーが衰弱してきたかのようにみえる。一応、次の政策の目標としてやはり「経済再生を第一にする」といい、“新三本の矢”を公表している。

第一は「強い経済」を目指し2020年度にGDP600兆円を達成。第二は人口減少を食い止めるため「子育て支援」を強化し出生率を1.8に上昇させる。第三は社会保障分野で「介護離職をゼロにする」と打ち出し、それを実現するため2080年の人口を1億人まで増やし、「1億総活躍社会」の具体策をつくるため加藤勝信官房副長官を担当大臣にあてた。

ただ、これらはスローガンとして掲げてはいるが、どう具体化するかという策はまだなく、現状の数字から考えると実現は難しそうだ。そもそも最初の“三本の矢”も巨額の金融緩和で株価は3000円強上昇させたが、設備投資が増え景気が上昇し、賃金もあがるという構図は依然実現できないままである。

これで中国のバブル崩壊が深刻になると世界経済全体が低調になり、さらにアメリカの金利引き上げで日本が円安となり輸出増につながるという目論見も成功していない。そこへ具体的方法も定まっていない“新三本の矢”の提案は、いかにも取ってつけたようで世間も燃え上がらず湧かなかったのも当然だったかもしれない。

安倍首相は、人事も小幅にとどめ重要閣僚は留任させて安全を期した。党人事は殆んど全員留任である。新人事に期待していた閣僚候補たちだけでなく、国民も変わり映えしない組閣に興奮することはなかった。人事はスキャンダルなどを起こすと内閣の命運にも関わってくるので安全な構えの方が無難だが、党内に不満の種を残すだけで、国民にも「自民党に人材はいないのか」という思いをもたらしたのではないか。

二階総務会長はユネスコの世界記憶遺産に中国が申請した「南京大虐殺の文書」の登録を認めたことについて「中国の一方的な主張にお墨付きを与えかねない」と述べ、日本政府は明解に反論し、ユネスコ絵の協力も考え直すべきだと主張した。また石破茂・地方創始相は閣内に留まったが、石破派を結成。ともに安倍内閣の波乱要因になりかねない動きを起こしている。

第二次安倍内閣は、安倍首相、菅官房長官の“一極支配”で党内を沈黙させてきたが、終盤は数の力で押しまくる動きが目立ち、国民各層(若者、主婦層、シニア世代など)に反発心を植え付けた。政権側は「時間が経てば、憲法・安保問題だけでなく、来年の消費税アップ、マイナンバー制の導入、TPP問題の批准、沖縄問題、さっぱり展望がみえない拉致問題、オリンピックを巡るゴタゴタ騒ぎ、さらに国際問題ではウマがあったと言われるアボット豪首相の退陣、期待をしていたプーチン大統領北方領土に対する強硬姿勢への変化、相性が良いといわれたトルコのエルドアン首相の国内の不人気など国際的人間関係も悪化してきたようにもみえる。

安保法制が成立するまで、安倍首相と周辺は全力で駆けてきたが、第三次内閣になって懸念が片付きホッとしているのか、何かかつての勢いや熱さが減少したようにみえるのだ。今後の内閣支持率の推移や来年の参院選の結果次第では、総裁任期はまた3年確保したものの、“一寸先は闇”という政局の格言を忘れてはなるまい。

【Japan In-depth  2015年10月18日】