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時代を読む

ジャーナリスト嶌信彦のコラムやお知らせを掲載しています。皆様よろしくお願いいたします。

「戦後70年の日本」は転換期 強引な安倍政治に不安漂う

 戦後70年で燃えた暑い夏も、結局安倍内閣が安保法制を強行採決にもっていき可決してしまった。国民の60~80%が「法案内容の議論はよく理解できないし、今回の安保法制の改定には賛成できない」と世論調査の結果として出ていたが、自公与党は聞く耳を持たなかった。最終局面で「次世代の党」「新党改革」など、極小野党3党が付帯決議などをつけることで自公にすり寄ったことから、菅官房長官は「10党のうち5党が賛成した」と強調した。

 しかし、憲法学者の9割以上が「今回の安倍政権憲法解釈変更は、これまでの憲法解釈からみて認められない」と声をあげ、多くの法学者、文化人も反対論を唱えた。これに対しても安倍政権は「法学者の反対はあまり意味がない。憲法の合憲か違憲かを判断するのは最高裁判所だ」と弁明した。しかし、最高裁判所の元長官・山口繁氏が「安倍政権の解釈変更は憲法違反にあたる」と主張すると、安倍政権は「山口氏は、いまは一私人である」と強弁して切り捨てた。いまや誰が何を言おうとも、安保法制を今国会で可決するとの強行姿勢を貫いてきた。

 これに対し文化人、知識人、学者だけでなく一般市民が60年代、70年代以来初めてと思われるほど今回の安保法制の強行採決姿勢に危機感を募らせ、連日大デモが繰り広げられた。雨の中を10数万人(主催者発表人数)が国会を取り囲み、東京以外の各地でも1,000人単位以上の反対集会が数多く見られた。政治問題でこれほど大きな大衆運動が起きたのは、本当に30年ぶり以上のことで国民の関心は高かったのだ。

 しかも、デモ、集会の参加者はかつてのような学生自治会、労組中心ではなくツイッターフェイスブックで集まったSEALDs(シールズ)を中心とした、一般学生やリタイアした年配者、小さい子供を持つ30~50代の女性が中心だった点も新しい動きだった。かつてのような激しいデモやゲバ棒、投石、火炎ビンなどはなく、しかしながら雨の中でも続々と参加者が増えていく様子は驚きだった。

 

――デモ隊の胸に響かない野党の演説――

 こうした国会周辺の集会、デモに民主党を中心とする議員が来て演説をしていたが、政治家用語が多く、参加者の胸に響いていない感じだった。与野党国会討論を何度か聞いたが、質問者の多くはペーパーを読みながら政治的専門用語で追及、答弁に立つ安倍首相、中谷防衛相、岸田外相も官僚が書いたと思われるペーパーを早口で読み上げるだけで、血の通った丁々発止の議論にならず、自分たちだけがわかる専門的政治論に終始していた。これでは一般視聴者には分かりにくいだろうなと思わせた。やはり、政治家は国民に分かりやすい自分の言葉でゆっくりとしゃべるのが政治討論というものだろう。しかも最終日は、時間を制限して、早く議決にもって行こうとするやり方はとても成熟した民主国会の“熟議”とは見えない。むしろ国民の反発を買ったのではなかったのか。

 

――政府答弁も二転、三転――

 政府答弁の論理の二転、三転や矛盾、国際情勢の早い変化に鈍感な答弁にも驚いた。あれほど日本の存立危機の実例として何度も主張していたホルムズ海峡の危機について、イランが方針を変更しアメリカ側に歩み寄った途端、説得力を失ってしまった。

 何より日本の危機は中国と北朝鮮を“仮想敵国”として想定しているようだが、本当に戦争は起こるのか、何をきっかけに戦時になるのか、その前に戦時にならないような外交的、国際的、平和的手法についてどう考えているのか、日米同盟が守ってくれると思っているが日本を越えて米・中、米・北朝鮮が頭越しに妥協の話合いを行う予測もないわけではない。日本国内の議論は複雑化、多様化する国際情勢の変化をすべて日米同盟の強化で解決がつくのかどうか。どうも日本の対応は複雑な国際社会を深く見つめていないような脆さを感じさせてならない。

 そもそもこの安保法案を国民の理解を得ないまま強引に進め不信をもたらした背景には、今年春の日米首脳会談や夏前の日米防衛制服組幹部たちの会談で、日本の国会で本格的な議論が始まらないうちに安保法制を夏中に可決すると約束したり、憲法上疑義があるのに内閣の解釈変更を行い、憲法改正の手続きをとらないまま事実上憲法を変えてしまったことなど、立憲政治の土台を無視して法律だけを変えてしまったことに国民の多く不安感をもたらせたのだ。

 また野党も結局、国民にこの法案の本質をきちんと説明してきたとは言えず、説得力をみせつけることができなかった。今後、野党は再編に向けて動き出す様子もあるが、今のままでは自民党にとって代わることはできまい。むしろSEALDs(シールズ)など若い世代が、新しい時代に向けて新しい哲学、思想、政策で新党を作った方が刺激を与えるのではないか。安倍法案が通った後の安倍政権の支持率、次の参院選に向けた動き、今回デモなどに行った新しいタイプの政治行動に参加した人々の意識の変化と影響などが今後の注目となろう。多分今回の安保反対の運動は一過性には終わらず、ジワジワと安倍政権にボディブローして効いてきそうな気がする。

 【TSR情報 2015年10月15日】