時代を読む

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「中台関係は現状維持」で存在感も

 台湾の総統選で最大野党・民進党蔡英文主席(59)が、ほぼダブルスコアで8年間政権を握っていた朱立倫・国民党主席(54)を敗り政権を取り戻した。台湾史上、初の女性宰相の誕生だ。ふっくらとした容ぼうで、その笑顔は親しみを感じさせるおばさんだ。台北市生まれで台湾大学卒業後、米コーネル大修士、ロンドン大政経学院で法学博士を取得。政治大教諭、国際経済組織法律顧問などを歴任した、実はバリバリのエリート女性である。李登輝総統に見出され、李登輝提唱の〝二国論〟の起草にかかわった後、閣僚、副首相、2008年に民進党主席に就任したが、12年の総統選で落選。エリートながらも苦杯を経験し這い上がってきた〝中年の星〟なのだ。民進党は立法院(国会)でも歴史的勝利を収め、国民党・馬英九政権が進めてきた対中接近にも歯止めをかけた格好だ。


 しかも蔡英文総統の誕生で中国との関係が一挙に悪化すると見る人は少ない。蔡氏は、争点だった対中政策に対し「現状維持」を掲げているため、中国が一転して強硬な対台湾政策に転ずるとはみられていない。中国にとって一番の懸念は台湾独立への分裂活動だ。中国と台湾の間では1992年に「一つの中国」の原則を確認したとされる「92年合意」を国民党との間で了承しているといわれているが民進党との間では認められていない。現実には台湾から福建省への投資がふえており、両国の経済関係は良好な状態にある。しかし安全保障問題がかかわってくると微妙なのだ。


 中国の習近平主席は昨秋の国民党・馬英九前総統との首脳会議で「92年合意の堅持」を望むと申し入れ、馬総統もこれに応じた経緯がある。今回、中国政府は「選挙結果によって中国の台湾政策が変わることはない。〝92年合意〟を堅持し両岸関係の平和と発展を守る」としながらも、台湾独立には断固反対すると改めてクギを刺している。中国は〝陸〟の国家だったが、いまや〝一帯一路〟構想を掲げ、太平洋への進出にも力を入れている。その中国の太平洋進出で要となるのが台湾や南沙諸島の存在で、この地域で譲歩する意図は持ちあわせていない。


 蔡英文総統は過去の政治経歴からみて直線的対中国外交を展開するとは思えないが、背後には米・中の大戦略も控えているだけに慎重にならざるを得まい。ただ、蔡英文氏は今回の選挙で圧勝し、民意の支持を取りつけたこと、ここ20年でアジアのトップに女性が就任するケースがふえていること、またアメリカでもクリントン女性大統領の登場が現実味を帯びてきていること──などを考えると、新しい時代の到来を告げていると考えておく必要があろう。
【財界 2016年2月23日号 第417回】

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