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時代を読む

ジャーナリスト嶌信彦のコラムやお知らせを掲載しています。皆様よろしくお願いいたします。

カタストロフィに備えよ

コラム(財界)

「メキシコからの移民流入を防ぐため、国境に壁をつくる」──。共和党の大統領候補の最有力者・ドナルド・トランプ氏は激しい主張で有名だが、右の発言はその象徴的なものだろう。ベルリンの壁を想起させることを声高に叫んで、注目を引き人気を高めてゆくアメリカ大統領選の今後は、気にならざるを得ない。


 むろん民主党ヒラリー・クリントン候補はトランプ氏の発言を強く批判しているが、ヒラリー氏もアメリカが合意したTPPの日米の関税率撤廃の批准に消極的姿勢をみせるなど、保守主義者に気を使っている。両氏とも本気で語っているのか。日本は選挙向けの一時的な方便なのか見究めて批判すべき点があったら、たとえ選挙中であろうと日本のスタンスを口にしてゆくことが、長い目でみると日本の信用につながるのではないか。

 1980年の大統領選でも、当初レーガン元大統領は〝映画俳優あがりの右派的候補〟とみられていた。プロンプターを見ながら喋る演説は、うまかったが、少なくとも知性派ではないと懸念された。しかし大統領に就任してまもなく銃弾で狙撃され大ケガをした後のレーガンの振る舞いをみて一挙に評価が高まった。

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1891年3月30日のワシントンヒルトンホテルでの狙撃後、初めて公の場に登場したレーガン元大統領とナンシー夫人(4月11日にホワイトハウス前)/ The Ronald Reagan Presidential Library and Museum


 レーガンは傷がいえると積極的に大衆の中に出て行き警護班や周囲を心配させた。しかし大統領が国民の前に出ていけなくなったら、もはや世界を引っ張る〝強い大統領〟とはみられなくなると警備のアドバイスを無視し外国へ行っても相手国民の前に姿を出した。当初は批判的だった当時のシュミット西独首相をも〝真の勇者〟だと感心させた。また政策面でも共和党の伝統のリベラル主義を貫き、またたくうちにサミットリーダーとして存在感を発揮した。


 はたしてトランプ氏は、レーガン元大統領のように世界から敬意を表される大統領候補へと変身できるのか、それとも最後まで偏狭な愛国主義を訴え、アメリカを分裂させてゆくのか。対するヒラリー候補は、トランプ批判に徹してゆくだけなのか。いま世界では中東の混乱、難民問題、中国のバブル崩壊など国際社会は戦争、恐慌、国際規模の災害──とカタストロフィ(大崩壊)を予感させる動きが相次いでいる。1929年の恐慌から大戦へと続いていった世の中も今と似ていたのだろうか。

 何よりも懸念されることは、世界の首脳たちが自国の穴ぐらに引っ込んで世界のことを考えている様子がみられないことだ。そんな中で日本はタカをくくっている雰囲気だが、いま世界でおきている多くの現象から連鎖して崩壊へとつながれば日本だけが無事でいられるはずはない。日本も伊勢志摩サミットに向け世界経済の大きな構想を準備したらどうか。
【財界 2016年4月5日号 第420回】