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時代を読む

ジャーナリスト嶌信彦のコラムやお知らせを掲載しています。皆様よろしくお願いいたします。

ベルギーテロと東京

コラム(電気新聞)

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 ベルギーの首都・ブリュッセルがテロの標的にされた。ベルギーの人口は約1100万人とヨーロッパの中では小国だし、ブリュッセルも120万人で大都市というほどではない。ただブリュッセルの約7割は移民やその子孫で、約2割がイスラム教徒とされる。移民政策には歴史的に寛容な国とされてきた。

 しかし、ベルギーは小国ながらヨーロッパにあっては重要な都市と位置づけられてきた。EUの前身である欧州経済共同体(EEC)には発足時の1958年から原加盟国として参加しているし、欧州会議やNATO北大西洋条約機構)の本部も置かれている。独仏に挟まれた中立国家の立場を生かしヨーロッパ統合(EU)にも積極的に貢献してきた。いってみれば、EUの政治的な首都の位置付けにあったといえよう。それだけにベルギーの連続同時テロには世界が震撼したのである。

 ベルギーとは全く異なるが日本と東京は大丈夫なのか、といった懸念を持つ。日本は島国で移民は少ない。しかし一方でアジアの首都的存在でイスラム過激派が敵視するアメリカの同盟国であり、アメリカ軍基地を沢山持つ。最近はイスラム国や過激派組織にも欧米諸国と並んで厳しい批判を浴びせ、立ち位置をはっきりさせてきた。

 気になるのは、その日本で今年5月26日からサミットが開催され、日本が議長国になる点だ。当然、主要テーマには世界の不況、デフレ対策と同時にテロ対策も取り上げられよう。最近のパリやベルギーの一連のテロ事件を考えるとテロ問題が最重要課題となってもおかしくない。

 テロ組織や過激派集団からすれば今年のサミットは格好のアピールの舞台と捉えるかもしれないのだ。開催地は三重県の伊勢・志摩で首脳たちの警備はしやすいといわれている。しかし、テロ集団は別にサミット会場を狙わなくてもよいわけでサミット開催を混乱に陥れれば目的を達するのだ。

 思い出すのは2005年にイギリス北部のグレンイーグルズで開かれた第31回サミットだ。警戒は厳重でサミット記者証をもらっていても会場到達までにいくつもの検問所があり、苦労した覚えがある。会期は7月6日から8日までの3日間となっていたが、7日にグレンイーグルズとは遠く離れたロンドンで地下鉄とバスが同時に爆破されたのである。56人の死者と約700人の負傷者を出した。このため、ブレア英首相(当時)は、一時ロンドンに戻り、その間ストロー英外相が議長代理を務めるという異例のサミットとなった。

 議事は予定通りに進められ8日に閉幕したが、参加していたG8及び新興国5ヵ国の首脳が共同でテロの非難声明を出した。ブレア首相はその日のうちにロンドンから戻ったが、サミットは混乱したし、取材していた記者団だちの半分位はサミットを抜けてロンドンテロ取材に向かった。メディアはどの国もロンドンのテロを大きく扱い、サミットは吹き飛んだ格好となってしまった。

 伊勢・志摩サミットはベルギーのテロなどの余韻が冷めやらない時期に行なわれることを考えると、首脳会場よりも東京が標的になることも考えられる。日本はテロ報道は多いものの、まだまだ他人事といった感覚だろう。

 2000年以降、新興国もサミットに参加するようになり、合意形成が難しくなって強力な声明、実行・実現案が出せない首脳会議となりその存在感はどんどん薄れてきているのが実情だ。しかし、今年のサミットはテロと世界不況という全世界共通の大きな課題を抱えることになってしまった。安倍首相が無難に議長を務めればという姿勢で臨むようだとサミットは国際社会の中でまた一段と核を下げよう。
【電気新聞 2016年4月7日】

※画像は2005年グレンイーグルズサミットでのホリルード・パーク(Holyrood park)のセキュリティフェンス(Wikimedia commons)