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セブン&アイの混乱に見るカリスマ時代の終焉

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四方津セブンイレブン / monoooki

コンビニ業界のカリスマ、育ての親ともいわれたセブン&アイ・ホールディングスセブン&アイ)の鈴木敏文会長が、突然引退を表明した。セブン-イレブンの井阪隆一社長の交代を提案したところ否決されてしまったのだ。

役員15人のうち賛成が7、反対6、白票2で過半数に1票足りなかった。無記名投票だったようだが、創業家の伊藤雅俊名誉会長(イトーヨーカ堂創業者)、社外取締役4人などが反対にまわったといわれる。コンビニ業界で絶大な力を持っていた鈴木氏が反乱にあい、退任にまで至ったことは経済界に大きな衝撃を与えた。しかもたった一票の差で鈴木案が陽の目を見なかったことは印象的だ。いかに深刻な対立があったかを匂わせる。

実はセブン&アイの業績は、この不況期にあって5期連続過去最高益を記録(16年2月期の営業利益は3523億円)しており、うちセブン‐イレブンの営業利益は2350億円(前期比5.2%増)と多数を占めている。井阪氏の社長歴は7年と長いものの、業績面では文句のつけようがなかったにも関わらず、鈴木氏が社長退任を迫ったのは「残念ながら今後のセブン-イレブンへの改革案がほとんど出てこなかったからだ」としている。

また鈴木氏がショックだったのは創業家の伊藤家や社外だけでなく社内役員からも反対がでたことだったようだ。鈴木氏は退任を表明したが、セブンの人事の混乱はまだ続くとの見方も多く予断を許さない。自他ともにカリスマを任じていた鈴木氏がたった一票の差で退陣を余儀なくされた心境はいかばかりだっただろうか。


【カリスマが引っ張った20世紀の世界】

 20世紀の政治、経済界はカリスマが引っ張ってきた時代ともいえる。政治ではケネディニクソンレーガンのアメリカをはじめ、毛沢東周恩来・鄧小平の中国、スターリン・ブレジネフ・ゴルバチョフプーチンソ連サッチャー英首相にシュミット・コール西独首相らが東西両陣営をリードしてきた。日本の経済界でもソニーの盛田・井深の創業者コンビ、パナソニック松下幸之助トヨタ自動車の豊田家などカリスマ経営者らが戦後の中小企業を世界的企業に育てあげた。コンビニは遅れてやってきた業界だが、その先頭に立って日本人のライフスタイルまで変えてきたのが鈴木敏文氏らだった。

冷戦とバブル崩壊後は、どの国もどの経済業界にもカリスマ的存在の人物はいなくなり、過渡的社会の中でもがき苦しんでいるのが実情だろう。世界を統治できる国は衰退、経済界を引っ張ってきた産業も衰弱し、代り得る産業や企業はまだ見えていない。

世界はデフレの時代に入り、先進国に代わって国際経済を下支え、あるいは引っ張るかにみえた中国、東南アジア、資源国もいまや青息吐息でとても世界経済を引っ張れる状態にはない。しかも20世紀をけん引してきたカリスマ型経営者、政界の指導者もこれからの時代がどう動くか、はっきりつかめず混乱している。途上国、貧困国の爆発的人口増大と、先進国、中間層国家の人口減少の中で、世界はどう折り合いをつけながら進んでいくのか。


【先進的技術だけでは世界は安定しない】
IT、人口知能(AI)、ロボット、宇宙技術など人類は次々と新しい開発を進めて喜んできたが、それらが人類の幸福と進歩にどう役立つかは、いまだに解明されていない。そこに人々は漠然と不安を感じ始めたのではなかろうか。

こんな時代を解き明かし、世界を引っ張っていくカリスマや優秀な哲学者、科学者たちが今世紀半ば頃までに出てくるのだろうか。世界の当面の大きなイベントは2020年の東京オリンピックとなっているが、オリンピック開催をめぐる日本と世界のエゴイズムやゴタゴタ騒ぎをみていると20年までに明るい展望が出てくるようには思えない。カリスマとなるべき地位にいる人々が、税金逃れを各国でやっているようでは、新しい社会の到来はまだまだ先の先なのかもしれない。

本当のカリスマとは権力や権威、カネで人を統治するのではなく、人々の心を惹きつける強い魅力があり、多くの人から支持される人のことをいうのだ。本当のカリスマは偉くなればなるほど頭をたれる“徳”のある人ということではなかろうか。 
【Japan In-Depth 2016年4月16日】