問われているのは法令違反より〝徳〟
パナマ文書をめぐって各国首脳や大企業、富豪たちがあわてふためいている。日本人や日本の企業名はまだ出てきていないが、租税回避地はパナマだけではない。
たとえばケイマン諸島なども有名だし、ヨーロッパにもタックスヘイブン(租税回避)的な機能、機構をつくっている所もある。当然ながら日本の富豪や法人がそれらを利用していることは想像できる。日本銀行がまとめている国際収支統計の国別、地域別の投資残高統計では、近年ケイマン諸島への投資残高が急増し、最近では約61兆円にのぼっているという。
菅官房長官は、先日の会見で「文書の詳細は承知していないので軽はずみなコメントは差し控えたい」と述べたが、租税回避は5月の伊勢志摩サミットでも課題になる可能性がある。日本としても早急に実態を調べるべきだろう。61兆円の利益に法人税を課せば14兆円の税収になるはずだ。
パナマ文書が明るみに出てすぐさま辞任したアイスランドのグンロイグソン首相は「法令違反はしていない」と弁明。側近が20億㌦の金融取引をしていたとされるプーチン大統領は「単なる推測と中傷だ」と一蹴し、義兄がペーパーカンパニーを設立しているとされる習近平主席は副報道官に「不確かな説についてはコメントしない」と言わせている。もっとも窮地に立たされているキャメロン英首相は「父の遺産相続だった。すぐに処分し、家族が将来も利益を得るような海外資産はない」と弁明したが国民から反発されている。
今回の騒動の発端となったのはパナマの法律事務所モサック・フォンセカが顧客と交わした1150万点の内部資料。現在国際調査報道ジャーナリスト連合(ICJJ、日本人も2人参加)が分析中だが、登場する政治家は50ヵ国、140人に上り、現・元指導者の親族・側近約60人が租税回避を利用しているとされる。
いま世界はデフレ不況の最中にあり、どこも税収が少なく政策遂行に頭を悩ませている。そんな時、世界の指導者や大企業が個別に租税回避に動いているとしたら言語道断といわれても仕方があるまい。それでなくとも世界は富める者と貧者・貧困国の二極化が進み社会不安が増大している。
政治家にもっとも求められるのは人間の〝徳〟なのに、自分の権力、権威を利用して自らがカネ儲けに走っているとすれば、政治を志す資格に欠けるといわざるを得ない。ましてや、「法令違反はない」「不確かな情報にはコメントしない」といった言い訳にはあきれる。日本も、政治家のみならず企業の行動についても調査し、法令違反だけでなく〝徳〟に反していないかどうか。サミットを主導する日本の責務は重い。
【財界 2016年5月24日号 423回】
※記事は先週発売の雑誌に掲載されております為、冒頭部分の記載においてタイムラグがありますことをご了承下さい。