読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

時代を読む

ジャーナリスト嶌信彦のコラムやお知らせを掲載しています。皆様よろしくお願いいたします。

一体感で生まれる五輪魂

f:id:Nobuhiko_Shima:20160901145256j:plain

 リオのオリンピックが終わり、暑い夏も峠を越えてきた。オリンピックは、熱心に見ていたわけではないが、柔道や女子の卓球、男子体操などの競技に感動するものがあり、そこにはいくつかの共通点を感じた。

 オリンピック競技で最初に強烈な印象をもったのは男子100㍍だった。3連覇を遂げたボルト選手ではなく、日本で初の9秒台を出した桐生選手が予選で敗退し、準決勝に残ったケンブリッジ、山縣両選手の走りをスタンドで見ている姿がいかにも寂し気な様子だったことだ。競技前は日本のメディアにいつも登場していたのに予選敗退となると誰も振り向かない残酷さが目にしみた。

 それに比べ男子体操は期待が大きかったにも拘わらず予選四位。結局、期待だけに終わるのかと思わせたが、決勝に残った途端、内村選手を中心に目の色が変わり、全員が必死になって団体戦を戦い金メダルを取った。全員が一つになって跳んでいる様子がTVを通じても感じ取ることができる戦いぶりだった。

 女子の卓球にも鬼気迫るものがあった。個人戦では事実上のエースとみられた石川選手がまさかの初戦敗退で暗雲が立ち込めた。しかし団体戦になると福原”愛ちゃん”が引っ張る形で見事に銅メダルをつかんだ。個人戦では15歳の伊藤美誠選手も含めライバル同士ながら団体戦となれば3人が力を合わせなければメダルは取れない。

 福原選手は「自分はナンバー2タイプなのに主将を任されて戸惑た」と言いつつ、長女役として2人にいつも気配りをしてきた。それでも団体戦の準決勝で敗れ気落ちしていたら、石川選手らが「最後まで頑張り3位決定戦で勝ち銅メダルを取ろう」と逆に励ましチームの心が一つになったという。

 3位決定戦も第一試合では福原選手が接戦の末に敗れたが、二番手の石川選手、三番手の福原・伊藤組のダブルス、四番手の伊藤選手がシングルでシンガポールを下し3対1で銅メダルを手にしたのだ。まさに”3人娘”がいったんはくじけそうになったが、互いに声を掛け合いあきらめなかった末の勝利だったのである。福原27歳、石川23歳、伊藤15歳の3人姉妹ともいえた。戦いの最中の福原は闘志むき出しの顔があり、昔の”泣き虫”愛ちゃんとはひと味もふた味も違った大人の姿を見た思いだった。

 柔道も見事だった。男子が全階級でメダルを獲得する快挙をやってのけたのだ。柔道は、日本の武道であり、監督がシドニーオリンピックの金メダリスト井上康生氏であったことも大きかったようだ。多くの選手が「井上さんのためにも負けられない」と一丸となっていたからだ。折しも柔道はいまやフランスが最も盛んで世界一ともいわれているが、フランスで柔道が人気となったのは、親たちが柔道の”礼節”を子供達に学ばせたいと考えたことから柔道人口が本家の日本をしのぐようになったといわれている。

 日本もメダルの数だけでなく、柔道の精神をもっと身に着ける必要があるのではないか。
 最近のスポーツ選手は口グセのように「楽しんできたい」と述べて世界の競技に向かう人が増えている。しかし、今回のオリンピックで好成績をあげたり、人々を感動させ、涙させたのは、やはり心を一つにし、日本の伝統であるチームワークで戦った種目だったような気がする。

 「楽しんできたい」と言うことによって、固くなる自分をリラックスさせようとしているのかもしれないが、スポーツは死に物狂いの練習の末、チームワークや和の精神を見せて正々堂々と戦ってくれた団体や選手たちのことがいつまでも記憶に残るのではなかろうか。
【電気新聞 2016年8月26日】

※なお、本コラムは陸上男子400メートルリレーの結果が出る前に入稿しております。