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時代を読む

ジャーナリスト嶌信彦のコラムやお知らせを掲載しています。皆様よろしくお願いいたします。

日本は解散が多すぎる ―国会で重要課題をゆっくり議論されない―

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 日本では国政選挙(衆院参院)が多すぎないだろうか。先日も東京と福岡で補欠選挙があったし、年末・年始あたりにかけ総選挙実施の噂も飛びかっている。選挙は国民の「民意」を問うことになるので決して悪いことではないが、最近の日本の選挙を見ていると、日本の国益、進路を問う選挙というより、政権与党が勝てそうな時に選挙を利用しているようにも見える。日本の国政選挙は原則、衆院は4年に1回(但し首相が解散権を行使したらいつでも解散総選挙になる)で、任期は4年。参院は任期6年だが、3年ごとに半数が改選されることになっており解散はない。

 戦後になってから日本で選挙の回数は衆参合わせて50回。戦後70年のうち50回ということは、1回の議員歴は平均で約2年弱ということになる。参議院は1回当選すれば6年間にわたり議員を続けられるのでまだ落ち着いて国政にあたれるが、衆議院は任期が4年あるにもかかわらず約2年に1回の割合で選挙があるので、特に1~2年生議員は落ち着いて国政にあたれるのかと危惧される。

 よく“常在戦場”という言葉を耳にするが、これはいつ選挙があるか分からないので、常に選挙戦の準備をせよという意味として使われている。また“金帰火来”という常套句も、金曜の議会が終わればすぐ選挙区に戻り土、日、月と選挙準備を怠らず、議会が始まる火曜には東京に戻っていなさいという教えだ。これでは4~5回当選し安泰にならない限り、ゆっくり政策を勉強する時間もないことになる。日本では例外を除くと5~6回は当選し安定しないと大臣になれない、と言われるのはこんな選挙事情が大きな背景にある。

――欧米は解散が少ない――
 こんな日本に対し海外を見ると先進国の場合、米国が戦後で35回、フランスが29回、英国19回、ドイツ18回などとなっている。とくに参院(上院)では米国の任期は6年、フランスも6年だが、欧州では多くの場合、一般的な選挙ではなくまず代表となる選挙人を選び、それが議員を選ぶ仕組みのようだ。ドイツでは各州政府が任命し選挙はない。英国は過去から貴族院制に基づき、首相の助言で国王が任命するという。こうしてみると、主要国では米国以外は参議院議員の選挙のないところが案外多いことが分かる。さらに欧州の主要国では衆議院の解散をなくそうとする動きもある。イギリスではキャメロン前首相が「総選挙は5年ごとに行う」と決めようとした。歳出削減や増税という不人気な政策について、たとえ支持率が低迷してもしっかり取り組むための制度作りだった。またドイツでは議会の解散を強く制限しており、首相の任期満了前に議会を解散した例は戦後70年でわずか3回しかないという。欧米の大統領や首相の任期が長いのは、こうした選挙制度があり、政権は長期で国益に合う大きな政策を実行せよという意味あいがあろう。
 日本では長期政権といっても佐藤栄作首相時の7年余が最高で、そのほかはほぼ5年以下。国際社会では日本の首相はつねに1~2年で代わり、安定しないといわれ続けてきた。

――バカヤロー解散――
 選挙が多いということは、国民に“民意を問う”という考え方からすれば民主的と言える。特に国論が大きく割れるようなテーマでは、民意を問う選挙を行う方が民主的と言えよう。しかし、日本で選挙が多いのは、国論を問うようなケースは少なく、内閣のスキャンダルが広がり支持率が低迷し続け信頼を失う場合に、政権与党が「今やれば勝てる」と判断した時に、何らかの理屈をつけて解散風を吹かせ解散に持ち込むケースが目立つ。
 このほか予期せぬ事態から解散となったケースとして“バカヤロー解散”“ハプニング解散”がある。バカヤロー解散は社会党右派の西村栄一議員が質疑応答中(1953年2月28日)、国際情勢の行方について西村議員の質問に答えた吉田首相が「英米の首脳は戦争の危険は遠ざかりつつあるとみている」と述べたところ、西村議員は「欧米の首脳の楽観論を聞いたのではなく日本の総理の国際情勢見通しを聞いたのだ」と反論、これに吉田首相が興奮したのか「無礼なことを言うな」と述べたため「何が無礼だ。欧米の翻訳したことを述べるのではなく日本の総理として答弁せよということがなぜ無礼なのか」と口論になり、西村議員の発言中自席に戻る途中に吉田首相が「バカヤロー」とつぶやくように発言したところ、これがマイクに入り聞こえてしまい、“発言取消”騒ぎに発展。さらに自由党非主流派も裏で画策し不信任案が出されて可決、吉田首相は衆院解散に打って出た事件である。解散後、吉田・自由党は政権を維持したものの大敗し影響力は急速に衰えた。

――ハプニング解散――
 ハプニング解散は大平内閣当時の閣僚や自民党議員の一連のスキャンダルを巡り内閣不信任案が出され、自民党内は主流派と反主流派が賛成か反対かで混乱し、反主流派は不信任に賛成し可決した。このため大平首相は解散権を行使し、前回選挙からわずか7カ月で衆院は解散となった。しかも史上初の衆参同日選挙となった。野党も不信任案が可決されるとは考えておらず。自民党反主流派も戦略のない行き当たりばったりの解散となったため、ハプニング解散と呼ばれることになった。

――長期政権を目的化するな――
 こうした解散例を見ていると、国政の最高決定事項を議論する国会の場が、日本では時の政権与党の選挙の勝算に都合よい時とか、たいした理由もなく解散に追い込まれるケースが目立つ。これでは落ち着いて国政の重要事項が国会の場で議論されず、国民に真意や議題の中身が伝わらず国会が本来の役割を果たしているとは言えないわけだ。安倍政権は久しぶりに長期政権になる可能性が出ているが、こんな時こそ国政の重要事項を国会で議論し、内容を国民に明らかにする義務があろう。ただ、今の安倍内閣も長期政権を目指すことが目的化しているように見えるのは残念だ。米国大統領選後の世界の動向、中国やロシアの動きと日本への影響、財政赤字の膨大化と景気の行方、貧困層や二極化の拡大など、将来の日本の進むべき道についてこの安定政権の中で落ち着いてしっかり国民の前で議論してほしいものだ。
TSR情報 2016年10月31日】

※画像はwWikimedia Commons :「バカヤロー発言」の後に、広川弘禅氏への懲罰処分問題に関して自宅で記者団と懇談する三木武吉氏(クローズアップ・バージョン)
『サン写真新聞(1953年3月9日号)』毎日新聞社