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環境先進国からの脱落

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 年々、地球が温暖化に向かっていることは、今や誰もが感じている。今年などは5月頃から真夏日並みの暑さが続き、いやが応にも気候変動の異常さを身に沁みて思い知った。

 これまで日本は、一応”環境先進国”として自らを位置づけてきた。現在の地球温暖化対策の国際枠組みである「京都議定書」の作成に少なくとも積極的に貢献してきたという自負があったからだ。またハイブリッド車をいち早く製造し、自動車をはじめとする環境技術の開発にも世界を先導してきた。しかし、京都議定書にはアメリカが不参加を表明したほか温室効果ガスの大量排出国である中国やインド、新興国などが不参加だったため中途半端な環境条約とみられていた。

 その京都議定書に代わる新たな温暖化対策の国際枠組が「パリ協定」で、今年11月4日に発効した。京都議定書は採択から発効まで7年もかかったが、去年採択されたパリ協定は、当初の予定2018年より大幅に早く発効することとなった。これは55ヵ国以上の批准と批准国の温室効果ガス排出量が世界全体の55%以上になることを発効の条件としたためで、排出量で世界1、2位を占める中国とアメリカが9月に同時に批准。さらにインド、EUも10月中に批准し、条件を一挙にクリアしたのだ。現在は批准国が93ヵ国、70%に及んでいる。

 この結果、日本は完全に出遅れ既定の10月19日までに批准できず、第1回のパリ協定締約国会議には議決権をもたないオブザーバーとしてしか参加できなかった。政府は「具体的なルール作りには時間がかかるので今回の会議に議決権がなくともルールの採決は来年以降で大きな影響はない」としているが、もはや環境先進国といえる状況ではないのが実情だ。他国の動きを見誤ったのが原因で政府も国会答弁で「EUが先行して批准するとは思っていなかった」と見通しの甘さを認めた。

 パリ協定の発動で日本は温室効果ガスを「30年までに13年比で26%削減する」ことを国際公約しているが、この実現も難しいとみられている。ひとつは30年度の原発比率を20~22%と見込んでいるが原発の再稼働、新増設、建て替えのメドは立っていない。

 結局、世界最新鋭とはいえ、CO2排出の多い石炭火力の新設に依存せざるを得ず、太陽光発電、地熱など再生可能エネルギーも世界に比べ遅れている。また目標達成には家庭やオフィスで4割の削減が必要だが、LED照明への切替やハイブリッド車の普及はコストがかかるため思うように進まない。

 日本の世界における温室効果ガスの排出割合は3.8%で、中国の20.1%、アメリカの17.9%、ロシアの7.5%などに比べるとずっと少ない。しかし、原子力発電には国民の抵抗が強いし、再生エネの比率も30年度に22~24%と見込んでいるが現状は12.2%しかないのが実情だ。

 実は現在の各国の目標がすべて達成されても気温上昇を2度未満に抑えることはできないといわれており、5年毎にさらに厳しい目標に見直すことが義務付けられる。
温室効果ガス排出増加の影響は、気温の上昇だけではない。最近、日本を含む世界で頻発する豪雨や熱波、干ばつも地球温暖化の影響とみられる。日本でも50年ぶり、70年ぶりといった河川の氾濫など自然災害の多発や、穀物生産への影響など人々が異常を肌で感じ始めている。

 日本は環境技術で先行することにより、経済競争力でも優位に立ってきた。今後の日本の大きな役割は、パリ協定から脱退すると言い始めたトランプ米新大統領を説得して、立ち遅れた汚名のばん回をはかることだろう。
【電気新聞 2016年12月2日】
画像:Wikimedia Commons(2015年12月12日 フランス ル・ブルジェで開催されたCOP21会議のクロージングセレモニーにおけるインドのプレゼンテーションの模様)

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