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日本にも厳しい”米国第一”

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 1981年3月、大統領に就任して間もないレーガン大統領が精神的におかしかった偏執的な男に狙撃された。銃弾は肺の奥深くに達し、緊急手術によって命を取り止めた。

 レーガンは大統領当選後の評判はもうひとつだった。映画俳優上がりで、それも二流俳優。そこへ財政・貿易の〝双子の赤字〟や高インフレに襲われ、旧ソ連との関係も厳しい冷戦時代の真っただ中にあったから「レーガンにアメリカと世界を任せられるのか」という懸念があったのだ。

 しかし、レーガンの急速な回復と人を包み込むようなユーモアに満ちた演説のうまさ、そして狙撃された後も危険を恐れず民衆の中に入り込んでゆく勇気にレーガン人気はぐんぐん上昇した。議会ではレーガン共和党は少数派だったが民主党議員も味方にひき入れてしまったほどだった。

 トランプ大統領はレーガン時代のキャッチフレーズ"強いアメリカ"に似た"偉大なアメリカの再構築" "アメリカ第一"を唱えている。それを実現する方策として就任した初日に「TPP(環太平洋経済連携協定)からの離脱」「NAFTA北米自由貿易協定)の再交渉」「軍事・防衛力の強化」などを打ち出し、具体策として大幅減税とインフラ投資の拡大を訴えた。それらを実現するためビジネス社会で培ってきたディール(取引)の手法を用いている。

 戦後のアメリカが信条としてきた自由貿易や国際協調主義、多様な価値観を認めることより〝アメリカ第一〟を重視して豊かで雇用を増やすアメリカ社会を実現するというのだ。そのためには、アメリカが約束してきた貿易協定や経済協定を破棄したり見直して保護主義に回帰することも厭わない姿勢をむき出しにしている。個別企業や個別国に脅しにも似た駆け引きを仕掛け目的を遂げるというやり方だ、フォードやトヨタ自動車は妥協に走り、メキシコなどもNAFTA問題で窮地に追い込まれている。「米製品を買い、米国人を雇う」を第一にしており、そこには世界の平和と安定を重視するという大局観は見当たらない。

 気になるのは就任演説で外交への言及がほとんどなかったことだ。これまで中国を激しくののしり、ロシアのプーチン大統領とは「うまくやっていけそうだ」と語っていた。とくに中国とどう向き合っていくのか。中国にとっても"1つの中国"を否定されては基盤を揺るがしかねないだけに世界も緊張して見ていよう。

 安倍首相は「アメリカの同盟関係をさらに確固たるものにする」というが、トランプ大統領の思想、手法は日本にとっても大きな懸念材料だ。安倍政権にとっても正念場の日米関係になってきた。
【財界 2017年2月21日号 第441回】

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