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活況な企業買収へ警鐘 ~東芝問題から感じる本来持つDNAへの立ち返り~

2月21日の「森本毅郎・スタンバイ」の「日本全国8時です」の放送内容をお届けします。

Toshiba T1000 (1985)
Toshiba T1000 (1985) / kirillt

 テーマ:東芝に未来はあるか?どこで間違えたのか?

私は経済記者としてのキャリアも長いのだが、60、70、80年代はずっと東芝を追いかけていた。そのような大企業がこれほどの危機に陥ることは驚きであった上に、今回買収の恐さも改めて感じた。今日は、そんな東芝の栄光と転落を振り返ってみたい。

【会社の由来は二つの会社】
東芝は創業140年あまりの企業で1875年(明治8年)に創業している。その後合併した二つの企業が基盤だ。一つは田中製造所(1893年<明治26年>芝浦製作所に改称)という発電機や変圧器などを作る会社で、この会社の創業者の田中久重氏はからくり人形を作りだした人でもある。「弓曳童子(ゆみひきどうじ)」などの人形の制作者として知られ、この人形のレプリカが2005年に大英博物館に寄贈されている。田中久重氏は「からくり儀右衛門」と称されるほどの天才技術者でもあった。

もう一つの会社は、藤岡市助氏が創設した白熱灯を製造する白熱舎(1899年<明治32年>東京電気に改称)。この2社が合併し、東京芝浦電気が誕生した。1930年(昭和5年)に日本初の国産の電気洗濯機と電気冷蔵庫の開発に成功。戦後も日本初のテレビ、炊飯器、電子レンジを生み出し、1985年には世界初のノートPCを誕生させるなど、日本のライフスタイルを成長させてきた会社であるといえる。1984年(昭和59年)に、東京芝浦電気の略称である「東芝」に社名を変更した。

【業界のみならず財界を牽引】
東芝はそのような先端的な家電製品を生み出すと同時に、そうそうたる顔ぶれの社長を輩出してきた。例えば、石坂泰三氏は東芝の社長(2代目)を歴任後、第二代経団連会長を務め、鳩山一郎首相に対し退陣を迫ったことでも有名な方である。このエピソードから経団連会長は「財界総理」と呼ばれるようになった。

他に東芝の社長(3代目)、会長を歴任後、第四代経団連会長を務めた土光敏夫氏もいる。土光氏は中曽根内閣時に国鉄(現JR)、日本専売公社(現JT)、日本電信電話(現NTT)の行政改革を提言し、それぞれの民営化を推進した。生活が非常に質素で、自宅でメザシを食べていたことから「メザシの土光さん」とも呼ばれていた。このお二人以外にも東芝の歴代の社長は存在感が非常に光っていた。そういう意味でも東芝は家電・重電業界をずっと牽引してきた存在であり、また経済界においてもリードし続け、非常に存在感のある財界人を輩出してきたといえる。

【企業買収が最大の下降要因】
2005年までの業績は右肩上がりで絶好調だったが、それ以降の業績は企業買収等の要因により下降の一途をたどっている。最大の要因は原発事業だ。その中で最も大きなきっかけは2011年の東日本大震災の発生により、東芝が2006年に買収したアメリカの原子力会社ウエスチングハウス(WH)に巨額損失が生じたことが大きい。震災後、アメリカにおける原子力発電所の建設が頓挫。さらに、アメリカ合衆国原子力規制委員会が大幅に規制を強化したことによって、設計変更や工事遅延が発生し、損害規模が膨らんでいる。最大で7000億円ともいわれるが、まだ実態が把握できない状況だ。(※)

原発事業を推進してきたのは当時の佐々木社長だ。佐々木社長は原子力事業成長戦略について「2015年度までに全世界で39基の受注を見込み、2010年3月期に5700億円だった原子力事業の連結売上高を1兆円にまで引き上げる」という目標を掲げ、発表している。しかしながら、今や7000億円とまでいわれる重荷を抱える事態にまで至る。

原発事業の不振のみならず、不正会計が発覚・・・】
日本では今なお原発が再稼働の方向をたどっているが、世界的にみると原子力事業に対する不安が拡がっている。特に今回の東芝のことは、原子力事業は怖いということを思い知らしめた。その渦中に不正会計問題が発覚し、インフラ関連、半導体、パソコンなどの事業において2248億円もの利益を水増ししていた。この結果当時の田中久雄社長を含めた歴代3社長および役員8人が引責辞任し、東芝の経営は大混乱に陥った。そして、それらを補填するために、資産の売却やリストラに向かっていった・・・

自社が保有する株式の売却の実施をしているが、約18万8千人いる従業員(連結)をおそらく数万人の規模でリストラを実施していくものと思われる。既に、メディカル事業など優良事業の株式売却を実施しているが、これも焼け石に水という状態だ。最終的には事業の二大柱であった原子力事業と半導体事業を売却せざるを得ないのではないだろうか。半導体事業は今後の生き残りのため重要な事業であり、東芝は当初20%程度の売却にとどめたいと思っていたが、今日の新聞では過半数を売却しないとならない状況にまで追い込まれている。(※2)

こうやってみていくと、今後東芝はどのように生きていくのかが憂慮される状況だ。今は出血を防ぐために、とにかく売れるものは売り、リストラもやるといっている。しかしながら、残っている事業は、社会インフラやエレベーター、鉄道、車部品、空調、フラッシュメモリーを除く半導体で、売上高は3~4兆円。同業の日立製作所の売上の半分程度となる見込みで、どこまで収益を上げられるか困難な状況とみられる。この状況から判断するに、今後伸びる見込みのある事業はなく、会社の柱となる事業がない状況に陥る可能性が高い。

【本来持つ企業のDNAに立ち返る】
東芝はどうしてこういう状況に陥ったのかを考えてみたい。現在、日本全体がカネ余りで、日本の企業は買収を重ねることで事業規模の拡大を図るという潮流だ。その手法で、確かに事業規模は大きくなり、世界一といわれるようになる。しかしながら、元来より伝わる「ものづくりの精神」といったようなDNAを忘れてしまっているように思う。外資系企業を買収した場合、細かい部分のケアや確認など隅々まで行き届かないことから、こういう状況に陥っているのも一つの要因だといえる。

「いいものをつくる」という基本理念がおろそかになり、それが引き金で事業がおろそかになっていることが改めて感じさせられた。東芝は規模を縮小しているが、今後これで生き残っていけるかどうかが問われている。東芝のDNAをなんとか思い起こしてほしい。

(※)東芝は当初3月14日に延期していた第三四半期の決算発表を行なう予定であったが同日付で関東財務局に申請し、発表日を4月11日に再延期している。

(※2)3月18日付の日経新聞では
東芝メモリは売却金額が巨額な上、技術の海外流出を防ごうとする動きが出ている政府系、外資投資ファンドが連合を組んで共同で買収する案が浮上。東芝は今月下旬に1次入札を締め切る予定。10以上の企業やファンドなどが参加を表明しており、先行きはなお曲折がありそうだ。

 「最後の優良資産」だけに、売却額は1.5兆~2兆円を想定する。昨年キヤノンに6千億円強で売却した医療子会社の2倍以上で、日本のM&A(合併・買収)でも有数の規模だ。1社で資金を賄うのは簡単ではなく、あるファンドは「事業会社との連携も選択肢の一つ」と話す。

 技術や人材流出の懸念からアジア勢への売却ハードルが高まる中、外資は日本政府へ働きかけている。たとえば、韓国SKハイニックスは日本政策投資銀行や官民ファンドの産業革新機構との連携を模索。日本側の警戒感を和らげる考えだ。

 一方、政投銀は革新機構のほか、東芝の取引先企業にも出資を募る「日の丸連合」構想を練る。外資が過半出資して主導権を握るのも認めつつ、日の丸連合が34%を取得して経営の重要事項の拒否権を確保する算段だ。残りを出資する相手候補について政投銀関係者は「米系のファンドや事業会社と組むのがベスト」とし、アジア勢との連合に慎重な見方を示す。
と報じられている。

また、経団連榊原定征会長は3月21日の定例会見で、東芝半導体事業を分社化する「東芝メモリ」について、「東芝半導体事業は国の基幹事業、最重要技術だ。日本にとどまることを希望する」として、政府による支援策が浮上していることに理解を示している。

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