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否めぬ野党の論戦不足 ~野党は奮起できるのか・・・~

 

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スタッフです。3月14日の「森本毅郎・スタンバイ」の「日本全国8時です」の放送内容をお届けします。

本内容は放送時点のものですが、状況が変わった事象については注釈を付記しておりますので、合わせて参照ください。

テーマ:国会論戦「いま・むかし」から野党を考える

最近国会で森本問題に関する議論が続いているが、その議論を見ていても全く面白く感じられない。府議会が参考人招致を了承したにも関わらず、国会では与野党そろって呼ぶ必要がないと発言している。(※1)呼ぶ必要の有無は別として、森友学園が出した予算が3通りもあるなど、多数の矛盾がある。教育の問題もあり、これは国会に招致したほうがいいのではないかと思うが、与党は招致する必要はないとし、しばらくすると府議会も招致する必要がないとなり、何らかの圧力がかかっているように見える。このようなことが国会の論戦をつまらなくしているように感じられる。

【かつて国会には緊迫した場面や名物議員の存在も・・・】
昔は国会も緊迫した場面が多々あり、名物議員も多数いた。例えば、社会党の木村禧八郎(きむら・きはちろう)氏。この方は地味ではあったが、様々な問題を掘り起こした。他にも社会党楢崎弥之助(ならざき・やのすけ)氏、大出俊(おおいで・しゅん)氏、久保亘(くぼ・わたる)氏<社会党民主党>などがおり、「爆弾男」や「止め男」といったキャッチフレーズがついていた。

それから共産党では正森成二(まさもり・せいじ)氏、松本善明(まつもと・ぜんめい)氏、上田 耕一郎(うえだ・こういちろう)氏。さらに、民社党の竹本 孫一(たけもと・まごいち)氏は経済問題の論戦で有名だった。今名前を挙げた方々の国会での論戦が今も手に取るように浮かんでくる。

【今なお残る言葉も国会から誕生】
木村禧八郎(きむら・きはちろう)氏は1953年の国会で検察より早く造船汚職を追及し、吉田茂内閣退陣への口火を切ったともいわれている。この造船汚職は、政府出資の計画造船の割り当てをめぐり起こった贈収賄事件で海運会社の手形の不正が発覚。さらに海運各社が当時の運輸省高官および自由党幹部に贈賄した事実が明るみに出たこともあった。

また、木村氏といえば「貧乏人は麦を食え」という新聞の見出しで有名になった方。1950年12月の参議院予算委員会にて木村氏が高騰する生産者米価に対する大蔵大臣の所見を糺した。すると、当時大蔵大臣だった池田勇人元総理は「所得に応じて、所得の少ない人は麦を多く食う、所得の多い人は米を食うというような、経済の原則に持って行きたいというのが、私の念願」と締めくくった。すると、翌日の朝刊に「貧乏人は麦を食え」という見出しが出てしまった。この「貧乏人は麦を食え」という言葉は今でも話題になっている。

田中角栄氏の「列島改造論」も批判・・・】
さらに木村氏は、田中角栄内閣の「列島改造論」に対しても、「インフレと公害促進政策」と批判するなど、常に政府を追及した先導者であった。この人も非常に地味な人で大向こうを唸らせるような話ではないものの、一つひとつを地味に追及していったことで国会でも相当議論になっている。そういう意味からも、国会で追及するテクニックも持ち合わせていた上に、それに対応する多くの材料を持っていたといえる。

【「爆弾男」と「止め男」】
それから、楢崎弥之助(ならざき・やのすけ)氏の国会質問では「爆弾発言」で大騒ぎになり委員会がよく中断。ここで大出俊氏が登場し、「止めろ、止めろ」と叫んだことから二人は「止め男」や「爆弾男」と言われた。楢崎氏もかなり材料を持っており、楢崎氏が「マイクの前に立つと閣僚席が緊迫する」と言われたほどだ。官僚も楢崎氏の答弁の前には徹夜で調べていた。当時、私たちが国会に取材に行くと、国会記者席も満員だった。

クライマックスは88年のリクルート事件。これはアメリカの新聞に出た小さな記事が徐々に大きくなっていったものだ。アメリカの議員会館の事務所に小さな郵便物が投げ込まれ、その中に日本のリクルートの名前が少し出ていたことを見つけたのが発端で、そこから拡げられていった。そしてこれが、竹下内閣退陣の引き金となったのである。そういう意味でいうと非常に調査が行き届いていたのだろう。

【徹底抗戦で対抗の執念は今いずこ】
楢崎氏はリクルートコスモス社の幹部が国会質問を封じようと楢崎氏の議員宿舎に現金を持参した時の様子を隠しカメラで撮影して告発。撮影に協力した当時のテレビ記者によると、札束が入った封筒を差し出したコスモス社幹部に「米俵をスズメの前に置いても口が小さいから一粒一粒しか食べられない。我々は分相応の生活をしなきゃいかん」と説いたという。このようにきちんと逃げられない証拠を押さえ、追及していった。これは、今の国会の追及の仕方とは迫力が違う。そういうことまでやらないとなかなか与党を倒すというところに至らないのだろう。

楢崎氏は資料を集め念密に検討して攻め方を研究し、前の晩は4時頃まで一生懸命勉強していたといわれていたほどだ。先にも述べたように楢崎氏の質問の際には傍聴席も記者席も満員で大向こうを唸らせていた。これが当時の国会の面白さであり、このように国会を面白くさせないとだめなのではないかと思う。

【甘い追及や調査】
どうしてこれほどまでに面白かった国会がつまらなくなってしまったのかというと、今の追及の仕方や材料の集め方、調査の仕方が非常に甘いからではないかと思う。例えば、今の森友学園の問題についてもいろいろと話題が出ている。中でも、安倍昭恵夫人に社会教育費という費目で講演料の40万円を支出したという話が出ているにも関わらず、中途半端な追及で終わっている。森友学園側の計上費目が講演料ではないことから、ここをもっと調べて追及することも可能だと思うのだが、それをきちんとやっていない。教育の問題も出ている。自民、公明等が籠池氏を国会に呼ばなくてもいいとかたくなに拒んでおり、そこには何かあるのではないかと誰もが感じ取っているように思う。(※1)そこをもっとなぜ追及しないのかが、今の国会の追及の弱さが現われだと思う。

【野党の論戦不足とメディアの深堀り不足】
最近では稲田氏の問題も現れ、発言との矛盾などに関する資料が少しづつ出てきた。記載された記録などが出てくればそれを論拠として具体的な戦いができる。そういったもので追及するということが大事である。

それから、国会では今の日銀政策に関して、ほぼ終わり、ダメになったという論調が強い。しかしながら、これに関しても追及が中途半端に終わっており、この問題もどうなったのかよくわからない状況に陥ってしまっている。やはり国民の気持ちを動かすような国会論戦が欲しいように思う。野党が勢いを失ってしまうと国民の意識は下がってしまう。

昨今、首相にヤジを飛ばされているようでは、見ている方も「なんだ」という気持ちになってしまう。首相が困るくらいの追及を行なわないとダメだと思う。そういう意味でも野党の力不足が現状を招いていると思う。野党が弱いといわれるが、論戦不足が否めず「論戦をきちんとする」というところから突っ込んでいくことが大事だ。野党の奮起を促したいと改めて思う。そしてメディアももっと問題を掘り下げていくべきだとも思う。


【参考情報】
(※1)籠池泰典氏は3月23日に衆参両院の予算委員会で行われた証人喚問に出席した。
さらに3月末で学校法人森友学園の理事長を退任し、長女が新理事長に就任した。

・4月6日付毎日新聞
 大阪府松井一郎知事は5日の定例記者会見で、学校法人「森友学園」の小学校建設計画の経緯を巡る職員への調査結果を発表した。建設予定地だった豊中市の国有地を管理する財務省近畿財務局の担当者が府側を訪れた回数について、府はこれまで2回と説明していたが、計5回だったことが判明。両者のやりとりは電話や府側からの訪問も含めると十数回に上った。

・4月17日付NHK
大阪市は今年1月に決定した学校法人「森友学園」が運営する幼稚園への、障害のある子どもの受け入れ人数に応じた交付金の支給を取消した。申請は平成28年度分として5人分、計180万円の支給であったが、市が提出を求めた書類が幼稚園側から出されなかったことからこの運びとなった。今後、大阪市は、それ以前の交付金についても手続きに問題がなかったか、調査を進めることにしている。

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