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理念死守に踏みとどまるEU

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 EU(欧州連合)の原点となったローマ条約の制定から60年が経った。3月末、EU離脱を決めたイギリスを除く27加盟国がローマに集結。結束を誓い「異なる速度と強さで行動を共にする」との宣言を採択した。統合速度を多様化させる方針は、一見すると欧州の格差に見合った統合を進めるように見えながらもEUを一級国と二級国に分ける差別ともとられ、東欧諸国の反発もありEUは新たな曲がり角に立っているようだ。

 EUは1952年に西独、仏など6カ国が石炭鉄鋼共同体を創設したことからスタートした。その後欧州経済共同体を設立し、東西冷戦が終結した93年に人、モノ、資本、サービスの移動の自由化を内容とするEUが発足。現在は旧ソ連圏の東欧も入れた27カ国で構成している。

 一時は、"ヨーロッパ合衆国"として経済、単一通貨(ユーロ)、安全保障、文化などで大きな存在感を示した。

 しかしギリシャなど財政難の国が次々と出現したことよりほころびが目立ち、特に中東から難民が押し寄せてきたことから各国でテロや社会暴動が頻発。さらに2016年にイギリスがEU離脱を決めたこともあって反移民、反EUエリート、自国第一主義ポピュリズム大衆迎合)と右派勢力が結びついてEUの分断化が深刻となってきた。

 EUはもともと国民国家の壁を無くし、ヨーロッパ内で人や資本などの移動の自由を掲げて出来上がった壮大な実験だった。その結果、5億人の共通市場と新しい欧州文化を作りつつあるかに見えた。しかし21世紀に入って急速に進んだグローバリズムによる富裕層と貧困層の二極化や中東の内戦から流入した数百万人に上る難民や移民によってEUの理想は一挙に危機に瀕しているのが実情だ。

 ヨーロッパは、近代以前では封建国家同士が数百年にわたって争いを続けたし、近代国家に生まれ変わってからも二度の大戦を経験している。「三度目の大戦は、絶対に起こさない」という誓いからドイツとフランスなどが数十年かけて建設してきたのがEUだ。このうちイギリスは反EUの考えから今年3月末に離脱した。

 3月末のEU首脳会議では統合の深化を目指して「ローマ宣言」が採択された。しかしその過程で、東欧と西欧の経済格差などもあり、"深化"へと向かうには程遠かった。

 ただ先月に行われたオランダの総選挙では反EUや移民排斥を訴えた自由党は第一党になれず、ドイツの地方選挙でもメルケル首相率いる与党が圧勝した。EUはナショナリズムポピュリズムに揺さぶられつつも、何とか理念を守る位置に踏みとどまっているように見える。
【財界 春季特大号 第446回】
画像:EUサイトEU各国首脳の非公式会合

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