時代を読む

ジャーナリスト嶌信彦のコラムやお知らせを掲載しています。皆様よろしくお願いいたします。

右傾化の渦巻く世界~オランダの選挙から考える~

3月21日の「森本毅郎・スタンバイ」の「日本全国8時です」の放送内容をお届けします。
放送日当日の内容のため、文末の補足情報と併せて参照ください。

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テーマ:オランダ選挙で、ポピュリズムに歯止めはかかったのか

本日はオランダで行われた選挙(3月15日実施)を受け、ヨーロッパの今後を少し占いたい。オランダはそんなに大きい国ではないが日本の我々までも選挙の行方に注目している。それは、極右政党が躍進するのではないかという危機感から大きな関心を呼んでいるわけだが、結果として極右政党は第一党にならなかった。しかしながら、極右政党の議席は増加し、与党の議席は減少した。ほっとしている反面、ヨーロッパのポピュリズムに歯止めがかかったというわけではなく、ますます今後行われるフランス大統領選(4月23日に第1回投票が終了※)、ドイツでの選挙などに注目が集まっている。

【リベラルから右に傾斜も・・・】
オランダの極右政党自由党の党首であるウィルダース氏は、徹底した「反移民」「反EU」「反イスラム教」主義者だ。世界の主要宗教の1つ「イスラム教」の「コーラン」をヒットラーの「我が闘争」と同一視し、「オランダ国内で発禁処分にするべき」という主張をしてきた。さらに、イスラム教の国からの移民流入を停止し、新たなモスクの建設も禁止すべきだと訴えるなど右派の典型のような激しい主張をしている。

今回の選挙結果は、当初の予想に反して自由党が第1党にはならず、33議席を獲得した自由民主党が前回同様に第1党になった。自由党は前回より5議席増やし20議席を獲得。これには主に以下の二つの要因があると思われる。
自由党が掲げた政策が本当にその通りに実施されるのかという疑問が持たれ、口先だけではないかと思われた
自由民主党が右寄りに政策を転換した

今、ヨーロッパ全体が右に舵を取っている。そのため、自由民主党は少し右寄り路線をとったことで従前どおり投票した人がいたという現われだと思う。そういうことから、右傾化に「NO」と示したわけではない。そのため、今後のフランス大統領選やドイツの選挙に注目が集まっているのだ。

【反移民で辛勝・・・】
自由民主党・党首のルッテ氏は元々リベラルだ。しかしながら、今回の選挙では右派勢力の台頭に対する不安から、新聞広告一面に反移民に関する意見広告を掲載。「自由を求めてオランダにやってきたにもかかわらず、我々の価値観を拒絶する者は、この国にとどまるべきではない」として、右派寄りの反移民を鮮明にし、オランダ国民をなだめた。EU離脱に関しては、経済的な観点から従前どおり反対しているが、反移民を打ち出さなかったら果たして勝てたかどうか・・・とも言われている。

今回、極右は負けたものの惨敗したわけではなく、議席数を伸長している。ヨーロッパ諸国の政策的な立場を分析する「マニュフェストプロジェクト」の政治思想の誘導を図る計測によると、自由民主党は2000年以降に10%も右寄りになっている。

【右派が渦巻くヨーロッパ諸国】
今回の選挙でオランダは極右にはならなかったが、右傾化傾向をたどっている。これから先の展望を考えてみると、来月にはフランスの大統領選(※)があり、ルペン氏の台頭している。ルペン氏は極端な右傾化路線だと勝ち目がないと温和な路線に切り替えているが、オランダ等の結果を見てさらにその動きを強めている。「反グローバル主義」「フランス第一」「反テロ」「反移民」などを従前どおり掲げているが、「妊娠中絶の問題はある程度許容」を表明。しかしながら、本質は変わっていない。

右傾化を少し薄めることで投票する人の幅が拡がる可能性があるので、余計にルペン氏の動きは気になる。現在、フランス大統領選の予想1位はルペン氏であるから、そういう意味でも気になる(※)。また、ハンガリーのオルバン首相は「反難民」の急先鋒で、国境に有刺鉄線や催涙ガス、放水で難民を追い払っている。さらに、ドイツの右派政党「ドイツのための選択肢」の党首ペトリ―女史は、「ユーロ離脱」「反移民」を掲げている。各国の抱えている事情によって主要テーマは異なるが、「反移民」など、各国が共通して抱える問題を軸に訴える「右傾化」の動きがある。今年1月にはフランス、ドイツ、オランダの右派党首は過激派右派集会で結集し、トランプ思想への共鳴を叫んでいる。

【不満をすくい上げ、扇動し危機へ突入か!?】
この現象に象徴されるようにトランプ氏の出現による影響は本当に大きい。ポピュリズムというのは一般的に「大衆迎合」で、ポピュリズムそのものに思想があるわけではない。しかしながら、そのポピュリズムをすくい上げることによる扇動主義があるのだ。例えばドイツは「ナチズム」で国民の不満を演説でうまくすくい上げ、排外主義で他国を侵略、扇動したことで第二次大戦に導いた歴史がある。こういったことを放置すると、再び三度目の戦争を招くのではという危機感がヨーロッパの中にある。

かつて日本にも同様な流れがあったわけで、右傾化の道を辿ることでドンドン戦争への道を突き進んでいくのではないかという懸念もある、日本ではまだ猛烈に感じられるほど表面化していないが、ヨーロッパではより強くその空気感が感じられている。そして、日本も右傾化していることは間違いない。そういう意味からも世界全体が右傾化し、国民の願望を激しい扇動主義の言葉ですくい上げ、右寄りにドンドン誘導している。そこにポピュリズムの危険性があるように思う。

【中道の右傾化による危機】
極右政党というのはある意味では極端なので非常にわかりやすいが、中道といわれている人たちの右傾化が強まっていることが怖い。近年、日本では極端な右傾化傾向は見受けられなかったが、全体として右寄りになっていることは間違いない。

ヨーロッパにおける右傾化の背景には若者の労働、移民の流入と移民によるテロの発生などの問題により、それを批判する勢力が登場した。そして、そのことによって右傾化が促進された。このような流れが、フランス、ドイツ、オランダで起こっているのだろう。排斥された若者たちが、過激派組織などで洗脳され、そこに邁進するということも起きている。4月にフランスの大統領選挙(※)、9月にはドイツの議会選挙を控えている。中でもこのフランスの大統領選挙は山場だ。そして、メルケル首相が現在微妙な立場にあるので、ドイツの議会選挙がどのようなカタチで進んでいくかにも注目が集まっている。非常に大きな影響力を与えるだけに気になる。

補足情報:
※4月23日にフランス大統領選挙第1回投票が行われ、マクロン氏が1位(得票率24.01%、8,657,326票)、ルペン氏が2位(同21.3%、7,679,493票)となり、5月7日の決戦投票に駒を進めた。
NHKのニュースによると最新の世論調査では、「投票に行く」と答えた人のうち59%がマクロン氏、41%がルペン氏を支持しているが、投票率が低下した場合ルペン氏に有利だという見方もあり有権者の動向が注目されている。

■お知らせ
嶌は1990年4月から27年間本番組に出演しておりましたが、3月28日をもって出演を終了いたしました。長きにわたって聞いてくださった皆様には感謝申し上げます。今回お届けする3月7日以降の番組の放送内容のまとめは3月28日放送分まで引き続きオフィシャルサイトやSNS、メルマガ等にてお届けいたします。
また、4月15日から新たに有料メルマガ「鳥の目、虫の目、歴史の目」を開始いたしました。初月は無料となっておりますので、ぜひこの機会に合わせて登録いただけると幸いです。何卒よろしくお願いいたします。

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 画像:Flickr Fin de meeting Marseille / Jeanne Menjoulet

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