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チキンレースの中の日本

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 世界中がチキンゲームの様相を呈しはじめてきた。チキンゲームは対立する双方が我を張って相手が降りるまで戦い脅し続ける戦法だ。互いに面子にこだわって降りないと悲劇的な戦争になって大きな傷を残す。世界中の各国がチキンゲームを始め、全体の調停者がいないとなれば、いずれ大乱につながる可能性が強い。

 第二次世界大戦は、日本がアジアの資源を巡って各所で戦争を起こし、ヨーロッパではドイツが周辺国に侵略、人種差別主義も手伝って欧州大戦を引き起こした。このため、時の超大国として実力をつけてきたアメリカが戦争に割って入り、日本とドイツ、イタリアの枢軸国を下して決着した。しかしその大戦の結果、アジア、ヨーロッパ、旧ソ連などに膨大な被害をもたらした。

 チキンゲームがのっぴきならなくなると戦は悲劇に行きつくのだ。現代の国際情勢をみると、チキンゲームがゲームの(則)を越えようとしているように感じられる。そのきっかけを作ったのはアメリカのトランプ大統領による"アメリカ・ファースト"主義だ。自国の利益を最優先にすると宣言。TPPや環境協定から離脱の意向を示し、違法移民の追い出しや北朝鮮、ロシアなどへ圧力をジワジワとかけている。特に北朝鮮に空母など一連艦隊を派遣して緊張を高め、突然シリアへの空爆も実施した。北朝鮮はこれに対し、史上最大の軍事パレードを誇示し、アメリカには屈しないと叫んでいる。

 欧州ではイギリスがEU離脱を賭けた国民投票を実施し、フランス大統領選、ドイツ総選挙でも自国第一主義・EU分断が大きな争点で、中東からの難民、移民の急増で緊張が高まっている。さらにロシアはウクライナ侵略でEUと対立、北方領土をエサに日本をシベリア開発へ引っ張り込もうとしている。これまで陸軍大国だった中国も海のチキンゲームに参加するため、航空母艦など一連の海の艦隊作りに乗り出し始めた。

 その上、トランプ大統領の外交政策は必ずしも一貫しているようには見えない。有利か不利かのディール(駆引き)で動くので一貫した軸が感じられない。こうした自国第一主義が蔓延すれば、世界は偶発事件から戦争へと発展する懸念も大きい。

 欧州が近代化へ踏み出してから約300年。この間、民主化、自由化、経済の成長、グローバル化などへと人類は発展してきた。しかし最近は、現代化への歴史が逆回転し始めてきたようにも見える。そんな歴史の狭間で日本はアメリカに寄り添うだけに見える。歴史の転換期でチキンゲームに巻き込まれるような愚行は避けてもらいたいものだ。
【財界 2017年6月6日号 第448回】
画像:Wikimedia commons 

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