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日銀の新陣営は自信ありや?

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 人事配置は、政治と政策の最大のシグナルだ。政策を大きく変えたければ、これまでのトップと違う人物をもってくることで世間に政策変更を発信することになる。従来の路線を継承するなら前と同じ考えをもつ人物を登用することになるわけだ。

 難しい局面に立たされている金融政策で、安倍首相は黒田東彦日銀総裁を再任(任期5年)し、異次元緩和路線の実務を担ってきた雨宮正佳・日銀理事と一層の緩和強化を主張する若田部昌澄・早稲田大教授を副総裁に任命した。日本は今後も金融緩和路線で進むことを内外に表明したことになる。大きな転換を嫌う伝統的な日本らしい選択だったといえる。

 黒田総裁は、2013年の就任当時、マイナス0.5%だった消費者物価の上昇率目標を2%とし、このための政策手段として超金融緩和策をとってきた。しかし物価は目標値に達せず追加緩和を実施。さらに16年には異例のマイナス金利政策まで手をつけ、その後も追加緩和、長期金利操作にまで踏み切った。この間、株価は5年間で約1万円上昇、対ドル円相場は約10円安となり、景気はGDP成長率で1%前後、完全失業率もほぼ完全雇用に近い2.8%まで下がった。ただ肝心の消費者物価上昇率はマイナスは脱したものの、1%前後で低迷したままだった。2%達成の目標時期を6回も延期したが、相変わらずのデフレマインドは払拭できなかったのだ。

 この傾向は欧米も大きくは変わらなかったが、トランプ政権が登場したアメリカなどは金利引き上げの姿勢を示し始め、今後も3回利上げを行なうと宣言している。

 アメリカの転換はEUにも影響しつつあり、日本だけが取り残される状況を生んでいる。日本のドル高・円安傾向は対米貿易黒字を積み上げる結果をもたらしており、アメリカは日本批判を強めている。また日本は低金利政策をとり、金利が下がりすぎ国債の運用利回りが悪化して金融機関の経営を圧迫する兆候も出てきた。

 今回の総裁・副総裁人事は今後5年間の日銀の政策運営の責任をもつことになる。とすれば、まずこれまでの5年間の金融政策の総括を表明して欲しいものだ。物価目標達成時期が6回も延期になった背景、原因はどこにあったのか。そもそも今の国際的な景気、金融情勢などの中にあって〝物価2%目標〟は理にかなっているのか。また金融機関などの経営に悪影響を与えていたり、財政規律のゆるみなどの状況をどのように判断しているのか。そして何より物価上昇2%の目標は今後も達成するまで維持すべきものなのか、財政政策との協調をどう進めてゆこうとしているのか──懸念にズバリ答えて欲しい。
【2018年4月10日号 468号】

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