時代を読む

ジャーナリスト嶌信彦のコラムやお知らせを掲載しています。皆様よろしくお願いいたします。

独裁者好みのトランプ大統領 

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 最近、国際社会でまた独裁的政権が目立ってきた。カンボジアでは7月29日の総選挙でフンセン首相が率いる与党・人民党が全議席を獲得したと発表、完全な一党独裁国家となった。カンボジアは自国民を虐殺したポルポト派の長い支配の末、1993年に国連の下で総選挙を実施して、民主化の道を歩み始めていた。

 しかしライバル不在のまま33年間、首相の座にいたフンセン氏は「あと10年は首相を続ける」と公言、欧米からは「今回の選挙は自由でも公正でもなかった」と批判された。日本は河野太郎外相(※)が遺憾の意を表明したものの、自民党は祝辞を送るなどチグハグな対応をみせている。

 拘束されたアメリカ人牧師の解放問題でもめているのがトルコのエルドアン大統領とアメリカのトランプ大統領だ。両国は経済制裁を応酬し合い、トルコ・リラは13日に一時過去最安値を更新した。この対立を受けて新興国の通貨も動揺し安値に陥っている。

 このほかドゥテルテ大統領の率いるフィリピン、ロシアのプーチン政権、東欧諸国なども独裁化が進んでいる。そして何より“アメリカ第一”を唱えるトランプ政権は多国間の貿易協定や人権協定を無視し、トランプ氏が得意とする“ディール(取引)”で相手国に有無を言わせない譲歩を狙う手法を多用化している。

 一方で国力をつけてきた中国も習近平政権が独裁的傾向を強め、アメリカとの貿易、ハイテク争いを巡って一歩も引かず米中貿易戦争の様相までみせてきた。中国は、この10年で実質2倍以上に増えた軍事費で、いまや世界第2位の軍事大国となった。これにつれてロシア、中東各国、東南アジア諸国も軍事費を増やし続けている。多い軍事費を持った政権は独裁化しやすいのだ。

 独裁化は右派政権でも左派政権でも起こり得る。当初は汚職の撲滅や低所得者層への生活支援、治安の改善など大衆受けするポピュリズム政策の実現を訴えるのが常套手段だが、政権が力を持ってくると、結局汚職が横行したり、貧困と格差が目立ってくる。

 2018年は中南米で選挙が相次いだ。ベネズエラ、コロンビア、メキシコでは資源価格の高騰などで汚職が横行して争点になったが、10月のブラジル大統領選挙でも左派のルラ前大統領は人気は高いものの汚職で収監された。代わって元軍人のボルソナロ氏が有力とされるが“ブラジルのトランプ”と呼ばれる人物だ。

 中南米は地理的にアメリカの裏庭にあたり、中国やロシアが関心を持つ。しかもトランプ大統領は4月の米州首脳会議に米大統領として初めて欠席するなど微妙な関係にある。その隙を縫って中国は経済協力をテコにパナマと国交を樹立したほかアルゼンチンの大型プロジェクトに協力。カリブ海のドミニカにも手を延ばし、台湾と断絶させて中国との国交を樹立させている。

 独裁化は国民を抑圧するだけでなく、時として国家関係さえも危うくしてしまう力を持つことがしばしばあるのだ。トランプ大統領は、金正恩朝鮮労働党委員長を「好人物だ。我々のケミストリーは素晴らしく合う」「プーチン大統領を尊敬している。彼はG8にいるべきだ」と強権的指導者に親しみを込めた賛辞を送り、同盟国を戸惑わせている。安倍首相は強権的指導者とケミストリーは合うのだろうか? 
【電気新聞 2018年9月20日

(※)本記事は10月2日の新組閣前の9月20日に掲載されたものです。