大国インドを忘れてないか
大国・インドの存在感がこのところ国際社会でじわじわと高まってきている。大きなきっかけは、中国が大経済圏構想”一帯一路”を着々と進め、海のシルクロードと呼ぶ西アフリカから東南アジアに至る海路にも地歩を固めつつあるからだろう。インド洋を”わが海”と考えていたインドからすればじっと黙視しているわけにはいかずインド外交を活発化させてきたのだ。
中国は海のシルクロードを構想、強化するため、インド周辺のバングラデシュ、パキスタンなどに港湾整備の経済協力を進め租借権を結んできた。またネパールに親中政権が発足、さらにインド洋でもスリランカ、モルディブ、アラビア半島とアフリカに挟まれた紅海の出口に位置するジブチなどに触手を伸ばしシーレーンの強化に努めている。
こうした中国のインド洋進出の進行や覇権掌握の動きに危機感を持ったインドが本格的に動き出してきたのだ。9月に行なわれたインド洋要衝の島・人口43万人のモルディブの大統領選挙では親中国派だった与党・進歩党の現職を親インド・欧米派候補が破り、圧勝で巻き返しに成功した。
また11月末の20カ国・地域(G20)首脳会議に合わせ日本とアメリカはインドと3カ国首脳会議を開き、アメリカはインド太平洋地域へ今後600億ドルの経済支援を行なうことを約束した。さらに今後インドとアメリカは外務・防衛閣僚会合(2プラス2)を行ない米・印間の安全保障分野での協力強化を約束する共同声明を発表。また日本も安倍首相とモディ首相との間で、アメリカ、豪州を含めた”自由で開かれたインド太平洋”の実現を目指す関係強化で一致した。
しかしインドは、中国やロシアとの関係にも配慮しており、今春以降中国と3回の首脳会談を行なっているし、ロシアから最新鋭の防空ミサイルを購入する方針だ。実はインドは1947年の独立以来、独自の外交路線を続けてきた。60年代までは非同盟路線を歩み、その後中国と国境やチベット問題などで中印紛争が起きると旧ソ連と手を結んだが、ソ連がアフガニスタンに侵攻すると、距離をおいていた。冷戦崩壊後は自主独立外交路線を模索。中国との関係も改善してきた。
米中は「太平洋」を巡り争っていたが最近は中国のインド洋への進出に警戒し、日米とともに「インド太平洋問題」としてウイングを広げている。中国は高齢化が進行しているが、インドは労働人口の平均はまだ20歳台でまもなく中国を抜いて人口で世界一になる。身分制度は残っているものの、中間層が次第に増加し市場としても注目を集めている。親日国であり今後、超大国インドとのアジア外交は中国と共に極めて重要になろう。
【財界 2019年1月29日号 487回】