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ジャーナリスト嶌信彦のコラムやお知らせを掲載しています。皆様よろしくお願いいたします。

混乱アフガン、バイデン米大統領苦境

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 アフガニスタンの旧支配政権タリバンが、20年ぶりに米英などの後方支援を受けていたガニ大統領率いるアフガン政権を崩壊させてから1週間経った。しかしタリバン新政権も15日に勝利宣言をしたものの統治と新方針が定まらず混乱を極めている。欧米の支援国は次々と自力で自国民の脱出救援に力を入れているが、日本だけは飛行機の手当てなどが遅れもたついているし、日本政府の救援の動きも感じられない。

 カブールの国際空港は脱出したい外国人や外国に逃げたいアフガン人で混乱し、多数の人が飛行機に乗り込もうとして危機的状況を呈しているという。米政府は4000人と言われる職員らを大使館からヘリコプターで国際空港に移動させて国外脱出に力を入れている。フランスやドイツ、カナダも自国機をカブールに派遣し自力脱出を目指している。このほか韓国は米政府の協力を得て17日までに韓国人と現地の大使館員の退避を終えたといい、インド、トルコ、フィリピンなども空軍機や民間チャーター便などで退避させたという。また、中国とロシアもタリバンとは裏で密かな接触を続けてきたため、政権が代わっても信頼関係を持てると自信をみせている。

 日本は国際赤十字関係者など出国希望者が約500人滞在しており、在アフガン日本大使館は「在留邦人の国外退避の段取りをつけたいが自前で航空機を派遣していない日本は一斉に帰国させるのは難しく各国と連携した対応策を考えている。」と説明しているが、欧米のように自力脱出のメドは立っていないようだ。日本は2001年の同時多発テロ以降もアフガニスタンを自立させ、テロの温床とならないことを目標に農業、インフラ、医療などの支援を続けてきた。アフガニスタンとパイプを持っていることを自認し、19年に医師の中村哲氏が武装集団によって殺害された後も支援を続けていた。これまでの支援実績は68億ドル(約7500億円)に上り、20年にも茂木敏允外相が24年まで1億8000万ドル(約200億円)の支援を続けると約束してきた。こうした特別な関係を維持してきただけに、日本が特別扱いされることも期待していたが、今のところ何のシグナルもアフガニスタン側から発せられていない。外務省は今後タリバン政権を承認するかどうかも決まっていないとしている。

 アフガニスタンユーラシア大陸内陸国シルクロードが枝分かれする場所に位置する。古代にはギリシャアレクサンダー大王が東方遠征した土地であり、その後もペルシャ、インドの王朝がやってきて交易が盛んだった。19世紀にはインドを植民地化した英国と南下を目指す帝政ロシアの覇権争いの場ともなっている。地政学的に重要な場所だったので紛争が多く大国に振り回されることが多かった。宗教はイスラム。14の民族と8つの言語があるといわれる。

 面積は日本の1.7倍で人口は約4000万人弱。14の民族がいる多民族国家だ。1979年にソ連が侵攻し、アメリカの支援するイスラム戦士・ムジャヒディンがゲリラ戦で対応。10年後にソ連が撤退し、アメリカも手を引くと内戦が始まった。その中で力を持って政権を作ったのがタリバンだった。

 アフガニスタンアメリカの決定的な対立は2001年9月11日の国際テロ組織アルカイダによるアメリ同時多発テロの発生からだった。当時、アフガニスタンを統治していたタリバンが国際テロ組織アルカイダの指導者ビンラディン容疑者引き渡しを拒否したため、米英軍が空爆を開始して2001年12月にタリバン政権を崩壊させ、2011年5月米軍はビンラディンを殺害した。アメリカはその後、アフガニスタンに駐留していたが2014年に米軍のアフガニスタン駐留撤収を発表し、ガリ大統領らのアフガン政権が樹立される。しかしアフガニスタンは旧政権のタリバンガリ大統領らの政府軍との内戦が続き混乱を極める。特に政府軍は汚職や作戦能力の弱さからタリバン軍に次々と敗北。

 2018年になるとトランプ政権がタリバンと協議を開始し2020年に米軍の撤収を柱とする和平合意を締結した。トランプ政権を引き継いだバイデン新大統領は2021年9月11日(アメリ同時多発テロが行われた日)までに米軍を完全撤収するという和平合意を、ガニ政権を追い出したタリバンと締結した。しかし、9月を待たずにタリバンは首都カブールを制圧して勝利宣言を行なった。ガニ大統領は現金を持ってアラブ首長国連邦UAE)に逃亡してしまう。以後、旧タリバン政権の幹部が次々と首都カブールに舞い戻ってきているが、タリバン政権が、かつて行なってきた女性の教育の機会を制限、言論の統制や民主主義の抑圧なども行なうようになると再び旧タリバン政権時代の強権政治に戻ることになる。米英など多国籍軍タリバン新政権の新しい国づくりを軌道に乗せられるか、あるいは新タリバン政権が再び強権政治に逆戻りしてしまうのか――バイデン米新政権にとってもアフガニスタンの再建は賭けに出たような心境だろう。
【Japan In-depth 2021年8月21日】

■参考情報
・アフガンの邦人など退避へ 自衛隊機2機が物資積み基地を離陸
2021年8月24日 NHK 

・アフガン退避で政府専用機派遣へ 自衛隊員や物資を輸送
2021年8月25日 NHK 


15日(日) TBSラジオ『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』21:30 ゲスト:クラフトコーラ発祥人のコーラ小林(小林隆英)氏(世界初のクラフトコーラ専門店「伊良コーラ」代表)一夜目音源掲載

15日のTBSラジオ『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』(21:30~)はクラフトコーラ発祥人のコーラ小林(小林隆英)氏(世界初のクラフトコーラ専門店「伊良(いよし)コーラ」代表)をお招きした一夜目をお届けしました。

 

コーラ小林氏が作るクラフトコーラは口の中にスパイスの香りが広がり、上等なコーラで病みつきになります。食通の方々が発信するSNSや口コミなどで評判が広がり、誕生から3年で延べ10万人以上が飲んだ世界初のクラフトコーラです。今回、クラフトコーラ作りの舞台裏について伺いました。音源はradikoにて日曜までお聞きいただけます。


今回、コーラ小林氏にお越しいただいたスタジオと事務所をオンラインでつないでの収録でした。小林氏にご指導頂きながら、実際に伊良コーラ様の定番のクラフトコーラ『魔法のシロップ』(自宅などでクラフトコーラを作るための原液)を強炭酸(※)で希釈しました。

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魔法のシロップ1:炭酸水3の割合で割り、輪切りのレモンを入れその上からミルで挽いた黒コショウをかけるとお店で飲む味とほぼ同じ味になります。
(※)小林氏によると、より伊良コーラを堪能するには強炭酸の炭酸水で割るのがポイントのようです

左が定番の『魔法のシロップ』、右が限定の『THE JAPAN EDITION』

左が定番の『魔法のシロップ』、右が限定の『THE JAPAN EDITION』

今回、限定の『THE JAPAN EDITION』(画像右)も作ってみました。シロップ1:炭酸水3の割合で割り、輪切りのレモンを入れ、こちらには和山椒を少々振りかけます。ジャパンエディションはマイルドな味わいでそれぞれに個性があり、スパイス好きな方にはたまらない逸品です。

シロップはホットケーキやパンケーキ、かき氷などにかけてもおいしいです。


今回の放送内でお話があったコーラの語源となる西アフリカ原産の植物「コラの木」の果実『コーラナッツ(コーラの実)』は、トップの画像でコーラ小林氏の掌の上に載せている茶色い実です。小林氏が実際にガーナを訪れた際の画像をご提供頂きましたので合わせてご紹介いたします。

コーラナッツ(コーラの実):伊良コーラ様提供画像

放送では、コーラの実は現地で『神様からの贈り物』と言われ結婚式などにも用いられる神聖な果実とご紹介いただきました。現在はコカ・コーラペプシコーラにコーラの実を使用していないそうです。

次週も引き続きコーラ小林氏をゲストにお招きし、アメリカに伝わる約100年前のコーラのレシピをもとに、試行錯誤しながらも趣味で始めたコーラ作りが、後輩のある一言で人生の転機を迎えることに。脱サラし、なぜクラフトコーラ作りにこだわるのか、その人生観についてお伺いする予定です。

 

伊良コーラ様のお店は下落合と渋谷にありますが、なかなかお店に行けないという方はオンラインショップでの購入も可能です。詳しくは以下リンクを参照ください。


また、伊良コーラ様に関する情報はオフィシャルサイトを参照ください。

 

お店では手軽に持ち運びもできるパウチにてクラフトコーラが販売されています。

伊良コーラ 渋谷店にて撮影

 

石炭、石油から水素へ 覇権を握るのはどの国か

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ENEOS社一号店:Dr. Drive セルフ海老名中央店

 脱炭素時代に“夢の燃料”と期待されているのは水素だ。水素(H)は全宇宙の元素の9割以上を占める最もありふれた元素で地球上にも多く存在している。ただ水素そのままでなく水(H2O)の状態であることがほとんどだ。自然界では、このほか炭素(C)と結びついた炭化水素としても存在し、燃料として使われているメタンも炭化水素の一種である。メタンを燃やすと、メタンの中にある炭素と水素が同時に燃えていることになる。いわば、水素と炭素は燃料としてライバル同士の関係でもある。

 

 

続きは、本日配信のメールマガジンまぐまぐ」”虫の目、鳥の目、歴史の目”にてご覧ください。(初月無料)

 

画像:ENEOS社ホームページ内、水素事業案内ページ

穏やかだった仏教徒の国 軍政に抵抗するミャンマー市民

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 2月1日のミャンマー国軍によるクーデターに対する市民の抵抗が続いている。最大都市ヤンゴンだけでなく、各地で抗議デモが発生。すでに150人以上が治安部隊の発砲などで死亡した。若者たちは、外出禁止令が出ている夜間にも街頭に出て犠牲者を追悼しているという。

 デモでは民族衣装のロンジーを旗のように振ったり、ミンアウンフライン最高司令官の顔写真を道路に敷き詰め治安部隊に踏み絵を迫る戦術まで出ているようだ。権力を握った国軍側は、政権を握っていたアウンサンスーチー氏が率いる国民民主連盟(NLD)を弾圧。幹部を次々に拘束し、批判的なメディアへの検閲を始めている。またスーチー氏が実質的な国家代表となっていた国家顧問の役職などを廃止し、軍政権側が新たに外相などの閣僚を任命している。

 ミャンマーは1948年にイギリスから独立したが、62年のクーデターで軍が政治を支配し始めた。88年の大規模な民主化運動が起きた時、建国の父といわれたアウンサン将軍の長女スーチー氏がNLDを結成して「この運動は第二の独立闘争だ」と演説し、民主化闘争の先頭に立った。スーチー氏はイギリスで教育を受け、弁も立ち国民の熱狂的支持を得たため、影響力を恐れた軍部は89年から約15年間にわたり拘束と自宅軟禁を続けた。しかし、その間もスーチー氏は民主化運動のシンボルとして先頭に立ち、91年にはノーベル平和賞を受賞している。2010年に3度目の自宅軟禁から解放され、その後2度の総選挙でNLDが勝利したため再び軍部は民主化運動の弾圧に乗り出していた。

 ミャンマーは度重なる政争で、東南アジアの中でも最も遅れた国となっていった。しかし、人口約5400万人、東南アジアで二番目に広い国土面積を持ち、豊かな鉱物資源と農業で知られ、仏教国として穏やかな民族の国だった。ただ、中国とインドに挟まれ、中国の〝一帯一路〟構想と近年アメリカ、オーストラリア、インド、日本が進めようとしている「自由で開かれたインド太平洋構想(FOIP)」が交わる要衝の地域となり、大国の関心の的となってきた。

 アメリカはミャンマー国軍の出方によっては制裁措置をとると表明しているが、ASEAN各国は内政問題として積極的な関りを避けている。国軍とNLD双方につながりを持っているのは中国と日本で、特に日本は先進国では最大の援助国だ。第二次大戦中は、植民地にしていたが、今や400以上の日本企業が進出し、重要な貿易相手国となっている。今後、日本はアメリカ、中国、インド、ASEANなどの動乱の目となってきたミャンマーの軍政側と市民側のどちらに寄り添うかその外交が問われている。
【2021年4月21日号、第540回 財界】

■補足情報
スー・チー氏のNLD、近く解党の恐れ=国連ミャンマー特使  2021年8月11日 ロイター 
 国連でミャンマーを担当するブルゲナー事務総長特使は10日、2月のクーデターで実権を握ったミャンマー国軍の指導部が権限を強化する決意を固めている様子がうかがえ、アウン・サン・スー・チー氏率いる国民民主連盟(NLD)は近く解党となる恐れがあると述べた。
 https://jp.reuters.com/article/myanmar-politics-un-idJPKBN2FC0MR

・中国、ミャンマーの開発事業に資金供与へ 軍政下で協力再開  2021年8月11日 ロイター 
 ミャンマー外務省は、国内の21の開発事業向けに中国から600万ドル超の資金供与を受ける見通しであることを明らかにした。
 https://jp.reuters.com/article/myanmar-politics-china-idJPKBN2FC0IZ

・茂木氏、ブルネイ外相に「最大限支援」 ミャンマーでの特使活動 2021年8月12日 毎日新聞
 茂木敏充外相は12日、東南アジア諸国連合ASEAN)議長国を務めるブルネイのエルワン第2外相と約30分間電話で協議した。エルワン氏は、国軍がクーデターで実権を握ったミャンマーASEANが派遣する特使に任命されており、茂木氏は「日本として(特使の活動を)最大限支援していく」と伝え、両外相は緊密に連携する方針で一致した。
 https://mainichi.jp/articles/20210812/k00/00m/030/134000c

・サッカー ミャンマー代表選手の難民認定を決定 2021年8月12日 NHK
 サッカーのミャンマー代表として来日し、軍への抗議の意思を示したあと日本で難民認定を申請している選手について、出入国在留管理庁が、帰国すれば迫害を受けるおそれがあるとして、難民と認める決定をした。
 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210812/k10013197251000.html

画像:wikimedia commons アウンサンスーチー氏が幼少期に撮影したご一家の写真

8日 TBSラジオ『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』21:30 ゲスト:遠藤展子氏(エッセイスト・藤沢周平氏の長女)二夜目音源掲載

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8日(日)のTBSラジオ『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』(21:30~)は遠藤展子氏(エッセイスト・藤沢周平氏の長女)をお招きした二夜目をお届けしました。

6歳の時に育ての母が家に来てからの暮らしの変化や、親子喧嘩して家出した時のエピソード、都内の百貨店に勤務し結婚、専業主婦から藤沢作品の継承に携わることになった転機についてお伺いしました。

ゲストの方に定期的にお伺いしている『おもわずほほえんだ話』では、映画『小川の辺(ほとり)』の題字をご子息が担当され書いた字が、祖父の藤沢周平氏の原稿の字と瓜二つで、思わず微笑んでしまったとのエピソードをご紹介くださいました。

今回の放送内でお話がありましたが、藤沢周平氏は「いろいろつらい時期があったものの晩年はお孫さんと穏やかな時間を過ごすことが出来たことで、少し親孝行ができたかな」という話も非常に印象的でした。以下の画像は、遠藤氏がお持ち下さった藤沢氏の直筆原稿と映画のチラシです。

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音源はradikoにて日曜までお聞きいただけます。

 

また本放送では、菊池雄星投手(現:シアトルマリナーズ)が西武ライオンズ時代に担当の記者の方から薦められ虜になった『蝉しぐれ』に関するエピソードのお話もありました。読書家として知られる菊池投手は、この縁で作品の魅力を「藤沢周平記念館 開館十周年特別企画展『蝉しぐれ』の魅力」の図録に寄稿されています。日刊スポーツで内容が紹介されていましたので、合わせてご紹介します。

 一夜目は藤沢周平氏の長女として生まれ、その8カ月後には母が病死。当時の父との暮らしや、父が抱えた「人に言えない鬱屈」の正体、自分の知らなかった父の姿を紐解くことを目的に、エッセイを書くまでの経緯などについて伺いました。

遠藤氏が上梓された書籍や、監修された書籍の一部をご紹介いたしますので、合わせて参照ください。

 

次週は、世界初のクラフトコーラ専門店「伊良コーラ」代表のコーラ小林氏をお迎えする予定です。

昨日 TBSラジオ『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』21:30 ゲスト:遠藤展子氏(エッセイスト・藤沢周平氏の長女)一夜目音源掲載

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昨日のTBSラジオ『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』(21:30~)は遠藤展子氏(エッセイスト・藤沢周平氏の長女)をお招きした一夜目をお届けしました。

藤沢周平氏の長女として生まれ、その8カ月後には母が病死。当時の父との暮らしや、父が抱えた「人に言えない鬱屈」の正体、自分の知らなかった父の姿を紐解くことを目的に、エッセイを書くまでの経緯などについて伺いました。

音源はradikoにて日曜までお聞きいただけます。

 

次週も引き続き遠藤氏をお迎えし、6歳の時に育ての母が家に来てからの暮らしの変化や、親子喧嘩して家出した時のエピソード、都内の百貨店に勤務し結婚、専業主婦から藤沢作品の継承に携わることになった転機について伺う予定です。ご家族の心温まるお話もご披露頂いております。

遠藤氏が上梓された書籍や、監修された書籍の一部をご紹介いたしますので、合わせて参照ください。

脱炭素時代へ大競争 米・欧・中が先行

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 バイデン米新大統領は、就任直後の今年1月、「4月に気候サミットを開いて“脱炭素元年”とし、35年までに電力の脱炭素化、電気自動車やエコ住宅の普及などに4年間で2兆ドル(約209兆円)を投ずる」と表明した。EUは30年の削減目標を55%に引き上げ約76兆円をグリーン復興に投入、日本は50年に実質ゼロとすることを約束した。いまや世界は「気候変動は地球存亡の脅威だ」として各国は脱炭素化の具体化に走り出している。

 国際エネルギー機関(IEA)は、20年10月の報告書で2050年に世界のCO2排出を実質ゼロにするための30年までの必要な道筋を示した。それによると
(1)CO2は10年比で45%減
(2)電力部門からの排出を19年から60%減
(3)電力供給に占める再生エネの割合を19年の27%から60%%に上げる
(4)30年の乗用車販売の半分以上を電気自動車(EV)に変える──などを打ち出すととも個人の行動についても言及している。
 その内容は(1)労働者の2割が週3回以上在宅勤務、(2)運転速度を時速7キロ遅くする、(3)冷暖房の設定を3℃弱める、(4)3キロ以内の移動は自転車または徒歩に変更する──などだ。
 
 また30年までは再生エネや省エネの普及が主となるが、30年以降は新技術を開発し、その中心は「水素」とする。EUは50年の世界エネルギー需要の24%を水素が担うように仕向け、7月に「欧州クリーン水素連合」を創設し官民で研究開発やインフラ整備を進めるとしている。

 一方、中国は、60年までにCO2排出量を実質ゼロにすると習近平国家主席は表明した。中国のCO2排出量は世界の3割弱を占める世界最大の排出国だが、再生エネの導入にも力を入れてきた。中国はEVの世界最大の市場で19年の販売台数は世界全体の54%に達し、中国の太陽光発電力量は32%で、日本のシェアの約3倍。さらに水素エネルギーのインフラ、技術力の高度化にも熱心だ。

 このほか脱炭素社会で競争力の源になるのは再生可能エネルギーと蓄電池技術である。特に無尽蔵の太陽光を電力に変える太陽電池と再生エネの復旧を支える蓄電池が注目されている。次世代電池では1回の充電で2倍以上の走行距離1千キロを走行できるようになる。

 こうした技術開発による脱炭素社会への転換で、いまや世界の大競争時代に入ってきた。脱炭素の競争で先行しているのは、EUと中国といわれている。再生可能エネルギー、省エネの拡充などこれまでの延長線上にある技術の向上と水素社会の実現、CO2の回収技術、蓄電池の次世代技術開発などが脱炭素社会実現へのカギとなってくるようだ。
【財界 2021年4月7日号 第539回】

■参考情報
・EU、グリーン水素推進し排出ゼロ実現へ 欧州委が戦略発表 
2020年7月9日 ロイター
 欧州連合EU欧州委員会は8日、再生可能エネルギーを使って水を電気分解して作る「グリーン水素」を推進する戦略を発表した。2050年までに最大4700億ユーロ(5307億20000万ドル)の投資を呼び込むと見込んでおり、温室効果ガス排出量を50年までに実質ゼロにする計画の柱となる。
https://jp.reuters.com/article/climate-change-eu-hydrogen-idJPKBN24A0BE

・脱炭素へ 地熱発電で製造した水素 工場などで活用へ トヨタ 2021年8月1日 NHK
 脱炭素社会の実現に向け、トヨタ自動車地熱発電を活用して九州で製造された水素を、地元の工場などで使用する取り組みを始める。
 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210801/k10013173551000.html

・中東、輸出視野にグリーン水素 脱炭素・資源温存狙う 2021年8月1日 日経
 中東の産油国再生可能エネルギーの電気で水を分解してつくる「グリーン水素」の投資を本格化する。オマーンが世界最大の製造拠点を整備するほか、サウジアラビアも欧米企業を誘致する。脱炭素時代の「輸出産業」に育てるほか、豊富な化石燃料資源を温存して残存者利益を総取りする思惑もありそうだ。
 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB224BN0S1A720C2000000/

 

画像:環境省 脱炭素ポータル

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