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英国のEU離脱は成功するか

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 イギリスの欧州連合EU)からの離脱交渉は、昨年末(2020年12月)にようやくまとまった。一応“円満な別れ”とされるが、イギリスは再び世界をリードする独創的な国家を構築できるのか。またイギリスが抜けた後のEUは仏・独主導でかつてのようなヨーロッパの存在感を持ち続けられるのか。“合意なき離脱”は、何とか回避されたものの、かつてはアメリカに対応して“一極”を形成していたヨーロッパの前途は決して手放しで喜べる未来を切り開いたとは言い難い。

 イギリスは2016年6月、保守党のキャメロン政権の時、EUに残留するか、離脱するかを国民投票にかけた結果、離脱派が僅差(51.9%対48.1%)で勝利した。以来、BritainとExitを掛け合わせた造語「ブレグジット」(欧州連合からの離脱)の条件などを巡ってEUとの間で4年半にわたって交渉を続けていた。この間、離脱案に対しイギリス国内で反対が強まり、英下院がEUとの合意案を大差で否決したり、メイ首相が離脱協議行き詰まりの責任をとり、与党・保守党党首を辞任したこともあった。その後、19年7月にジョンソン首相が、EUとの間で最大の問題だったFTA(自由貿易協定)の合意にこぎつけ、ブレグジットが正式に決まった。

 イギリスは20世紀の二つの大戦が終わるまで世界の中心的存在だった。15世紀以降、スペインの無敵艦隊を破り、世界の海へ飛び出した。アフリカ、中近東、アジア・太平洋、そしてアメリカ大陸、カナダまで足を伸ばし、そのジョンブル魂は世界を一手に治めた。産業革命を起こし、科学や化学など学問の世界、文学の分野でも世界をリードしていた。第二次大戦に際してはド・ゴール亡命政権を擁護し、アメリカを口説いて味方に引き入れナチスドイツを打ち破った。自由貿易や国際化など新しい思想を広めることにも大きな役割を果たした。

 そのイギリスは、EU統合以後、影が薄くなっていた。ユーロに参加せず金融の世界では独自色を出していたが、大陸ヨーロッパは、フランスとドイツが主導権を握り、すっかりお株を奪われてしまった。ドイツにすり寄ったフランスをなじり「靴までなめるのか」と毒づいたこともあった。それだけにイギリス国民のEUからの離脱には深い思い入れがあったのだろう。

 フォンデアライエン欧州委員長は「ついに私たちはブレグジットから離れ、統合深化の未来に目を向けて欧州が前進できる」と語ったが、イギリスなきEUにも懸念が残ろう。イギリスあってのアメリカとの親密さが薄まり、財政的に豊かな北欧と公的債務に悩む南欧や、最近の東欧の右寄りの動きなどの橋渡し役にイギリス人は一定の役割を果たしていたからだ。一方イギリスもEUと離れて自立し、かつての栄光を取り戻せるのか、グローバル・ブリテンの行く末も決して安泰ではないだろう。

TSR情報 2021年1月22日】

 

■参考情報

・イギリス、TPP加入を正式申請へ 発足メンバー以外で初 2021年1月31日BBC
イギリス政府は31日、日本などアジア太平洋地域の11カ国で構成される自由貿易圏への加入に向け、2月1日に正式に申請する方針を明らかにした。CPTPP発足メンバー以外の国が加入申請をするのは初めてで、実現すれば日本に次いで2番目の経済大国として参加することとなる。

 https://www.bbc.com/japanese/55875724

 

画像:イギリス議会

ukparliament.seetickets.com

 

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