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評判悪い首相の独断

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 新型コロナ対策に対する安倍首相“独断”による臨時休校措置の評判がすこぶる悪い。首相が指示した3月2日から春休みまでの全国小・中・高校の臨時休校措置は「先手、先手でやるべきだ」という思いと首相主導の強いメッセージにこだわって全国一斉の休校要請を強行したものだが、官邸内や文科省内でも反対が強かった上、学校現場や国民生活にも混乱をきたしているからだ。

 安倍首相が周囲の反対を押し切ってまで臨時休校を強行した背景にはWHO(世界保健機構)が新型コロナウイルスによる肺炎の危険性評価で、2月28日に世界全体を「高い」から「非常に高い」へと引き上げ世界的流行を認定したことがあるようだ。このため各国で対策を強化し、イタリアなどでは休校を実施したという。

指導力強調し警告無視
 しかし安倍首相が一斉臨時休校を指示した背景は、文科省や学校関係者とじっくり相談した結果決めたわけでなく首相個人の独断で指示したフシが強い。実際、萩生田文科相や藤原誠文科省事務次官らは、一斉休校にいくつかの懸念を示し翻意を促したという。首相は「懸念はわかった」としながらも4時間後の会合で「最後は政治が全責任をもって判断すべきものと考え、今回の決断を下した」としている。どうやら首相の指導力を強調する強いメッセージにこだわる姿勢が周囲の警告を上回ったようだ。

 当初、コロナウイルスに対し首相の関心は特に強いものと感じられなかった。発生から1週間位はほとんど発言がなく、先頭に立って説明していたのはもっぱら加藤勝信厚生労働相だった。それが問題になり出してから、突然安倍首相が前面に出てきて小・中・高の一斉休校という独断指示に及んだのである。

■当初はコロナに関心薄い?
 それまでコロナ問題が大きくなりつつあったのに、対策は厚労省任せで、国はほとんど関与している様子は見られなかった。安倍首相の関心は“桜の会”や東京高検検事長の定年延長問題、内閣支持率の低下など国会世論対策に集中していたようで、コロナ問題についてはダイヤモンドプリンセス号などが発端になって大騒ぎとなっている時も際立った発言はなかったのである。

■コロナへの後手から焦り?
 それがコロナ問題の広がりが大きくなり死者が出たり、景気にまで影響が出始めてきた2月下旬になり、厚労省だけで手に負える問題でなくなってきたことがわかり官邸や他の省庁も事の重大性に気付き始めただ。こうして2月25日に政府が基本方針をまとめ「イベントの開催の必要性は再検討するように」「全国一律の要請はしない」「学校の臨時休校などの適切な実施を都道府県から実施者に要請する」などを決めた。

■周囲は独断に反対
 ところが2月26日になって、安倍首相が「スポーツ、文化などの大規模イベントは感染リスクがあるので今後2週間は中止、延期または規模縮小を要請する」と発表。さらに2月27日には「全国の小・中・高、特別支援学校について来週3月2日から春休みまで臨時休校するよう要請する」と1ヵ月の一斉休校を指示した。この指示にあたって菅官房長官に伝えられたのは直前だったし、萩生田文科相、加藤厚労相らとも事前に綿密に調整した形跡はなく、自治体を統轄する総務省には連絡もなかったという。まさに安倍首相が自身のリーダーシップにこだわり独断的に判断したとみられた。

 しかし、この決断は学校現場や保護者などから大きな批判が噴出した。学校は学期末試験や卒業式、終業式、成績の通知など最も忙しい時期にあたるし、突然学校が休みになると共稼ぎ夫婦やシングルマザーなどが子供の面倒をどうするかでも大混乱になるからだ。安倍首相は“保護者の休業補償などは予算の予備費で対策を打つ”“他の様々な課題も政府が責任を持つ”“情報発信は私も含めて適切に対応する”などと後始末の対応に次々と言及したが、いかにも唐突な発表で準備不足の感が否めずその場しのぎの後手後手発言に聞こえてしまったのだ。

 一斉休校が功を奏しコロナ騒ぎが治まれば事なきを得るかもしれないが、二週間経っても治まらずオリンピックにまで影響するようなことになると安倍政権は一挙にピンチに立たされることになろう。
【財界 2020年3月19日】

※本コラムは、3月上旬に入稿しております。

 

参考情報
・「新たな出発本部」発足 東京オリンピック延期で組織委(毎日新聞
 新型コロナウイルスの感染拡大による東京オリンピックパラリンピックの1年程度の延期を受け、大会組織委員会は26日、開催準備を練り直すための「新たな出発 東京2020大会実施本部」を発足 

・チケットは有効…組織委方針、払い戻しOK(読売新聞)
 東京五輪パラリンピックの延期決定を受け、大会組織委員会は、すでに販売したチケットについて、延期された大会で使用できるようにする方針を固めた。不要になった人も不利益を被らないよう、払い戻しなどを検討している。 

 

画像:木造校舎の階段 himawariinさんによる写真ACからの写真

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