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テレワークはスマート・ライフか ~3日で飽きた人が多い~

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 西村康稔・経済再生担当大臣は、大型連休中の会見で「コロナ対策で悩む国民の皆さんにスマート・ライフのあり方をお示ししたい」とする提案を行った。スマート・ライフなどとしゃれた言い方をするから、新型コロナウイルス感染拡大による家の中の“巣ごもり生活”にストレスを感じている人が多いので、何か新しい生活様式を提案するのかと思い耳をそばだてて聞いた。しかし、内容を聞いてあきれた。

 「新しい生活様式」の具体例として発表した内容は
①人との間隔はできるだけ2m、症状がなくてもマスクは着用、帰宅したらまず手や顔を洗う
②毎朝体温測定と健康チェック、3密(密集、密接、密閉)の回避
③買い物は電子決済を利用、サンプルなど展示品への接触は控え目に
④ジョギングは少人数で。歌や応援は十分な距離かオンライン
⑤公共交通機関では会話を控え目に。混んでいる時間帯は避ける
⑥食事は大皿を避け料理は個々に。対面でなく横並びで座ろう
⑦冠婚葬祭など多人数での会食は避けて、発熱やかぜの症状がある場合は参加しない
⑧働き方はテレワークやローテーション勤務。会議や名刺交換はオンラインで

 どれもこれも毎日のように放送されたり新聞に書かれていることばかりだ。これらをわざわざ“スマート・ライフ”と呼ぶ感性に驚いてしまう。大体、家族の食事を横並びでとる家庭があると思っているのだろうか。

 5月の連休前に「出勤をやめ、できるだけ自宅でパソコンなどを使ったテレワークを」という呼びかけがあり、実行した人も多かった。

 その感想を聞いてみると、「『2、3日は便利で楽だな』と思ったが、3日もすると誰とも喋らず仕事をするなんて何とつまらないのだろうと思った。テレワーク時代が来るなんてはやしていたが、たぶん多くの人はテレワークなんて嫌だと思ったんじゃないか」という。皆が集まり、人に触れ、一緒に食事をしたり、喋りながら仕事をするから面白いし、そのおしゃべりの中からいろんなアイデアが出てくるもので企業の仕事は孤独な作業からは生まれにくいと口をそろえていた。テレワークの時は、朝の9時や10時に始業のボタンを押して会社に知らせるが、机の前にじっと座っていることはなく、すぐ余計なことを考えたり、ぶらぶらしてしまう。特に日本人は集団で仕事をするのに慣れており、そこから規律も生まれているのだろう。

 政府がスマート・ライフの指針を出すなら、もう少し人間的な営みを交えたものにした方がよい。会社の行き帰りに街の空気と雰囲気を肌で知ることや、友人達と人間的な接触があるからこそ人生は面白いし、互いに刺激しあって新しいアイデアや構想が生まれてくるのだ。

 政府のスマート・ライフ指針はあまりにも新味がなく常識的だったし、解除への数値目標がなく、拍子抜けした。大阪府など自治体は独自に緊急事態宣言解除の基準を作り始めた。ただ、それも経済活動再開への指針のようで、やはり日本は経済から抜け出せないのだなと感じさせた。コロナ時代後は生活そのものが変わるというなら、“楽しい生活”の指針、アイデアを並べたほうが人々は成程と思い、元気が出てスマートさを感じたのではなかろうか。
TSR情報 2020年5月25日】

・参考情報
 「緊急事態を全面解除 経済再開に軸足、6月に移動解禁」25日付日経新聞
 政府は25日、東京など5都道県への緊急事態宣言を解除した。4月7日に発令した宣言は約7週間ぶりに全面解除となった。新型コロナウイルスの感染拡大防止と社会経済活動の両立をめざす基本的対処方針も決めた。全国の移動解禁は6月19日から認める。第2波を警戒しつつ経済活動を再開させる新たな段階に移る。 

画像:首相官邸ホームページより

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