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米中摩擦激化に困惑する日本

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 アメリカと中国がアジア・太平洋、とりわけインド洋の港湾確保をめぐって本格的にぶつかりあう様相をみせてきた。中国の巨大経済圏構想「一帯一路」に対抗してアメリカは「戦略港湾イニシアチブ」構想を打ち出し、アジアを中心とした約30ヵ所の重要港湾にインフラ建設支援を行ない海上交通の要所を抑えたい計画だ。この構想では日本の協力を求めているが、日本は中国排除の方針に困惑している。

 中国は2013年に現代版シルクロード経済圏構想を打ち出してから東南アジア、インド洋の関係国に数十兆円に上るといわれる道路、港湾、通信などのインフラ支援を続けてきた。特にスリランカのハンバントタ港やパキスタンのグワダル港などでは中国に借りた建設資金の返済が難しくなったり、整備資金の大半を中国側が負担したりしたためハンバントタ港では99年間、グワダル港では43年間にわたり中国が運営権を握ったとされる。

 またこの両港以外でもインド洋のジブチアラブ首長国連邦UAE)、ミャンマーのチャウピュー港などでも影響力を強めつつあり、最近では太平洋・バヌアツのルーガンビル港、オーストラリアのダーウィン港、パナママルガリータ島港、ペルーのチャンカイ港などにも支援し影響力の強化を狙っているとされる。

 これまでアメリカと中国は太平洋の覇権争いで目立っていたが、いまや太平洋だけでなくインド洋にまで勢力争いが飛び火しているのだ。このためアメリカもジブチパキスタンスリランカなどで巻き返しを図るとともに、ケニア東ティモールなどで主導権を握っている。

 中国、アメリカとも港湾などのインフラ、整備事業に資金、技術を供与することで影響力を強め、今のところ経済的結びつきを強めることに主眼を置いている。しかし背景には軍事的利用や安全保障上の狙いがあることも明白で、放置しておくと太平洋の軍事拠点になる状況を互いに警戒しているのである。

 こうした米・中のアジア太平洋、インド洋を巡るさや当てに苦慮しているのが日本である。基本的にはアメリカとの同盟に重きを置いているものの、中国の“一帯一路”経済圏構想が本格化してくるとその影響力は無視できないからだ。このため日本としては、安全で透明性、開放性の高いインフラ整備を求める一方で、世界銀行など既存の国際的な枠組に基づいた資金の活用を求めている。日本はインフラ作りの国際的基準を一段と高める努力をし、米中の覇権争いに巻き込まれない協力の提案を積極的に発進してゆくべきではないか。
【財界 2020年5月13日号 第517回】

■参考情報

・中国全人代、香港「国家安全法」制定方針を採択-日米台は懸念(Bloomberg News 2020年5月28日)
 中国の全国人民代表大会全人代、国会に相当)は28日、香港の「国家安全法」を制定する方針を採択した。香港の基本的自由を制限すると民主派が主張しているこの措置を巡り、トランプ米大統領は導入をやめるよう中国に求めていた。

・トランプ、香港の優遇措置撤廃を指示 中国の国家安全法制定めぐり(ニューズウィーク日本版 2020年5月30日)
 トランプ米大統領は29日、香港に対する優遇措置を撤廃するよう政権に指示したと明らかにした。香港の統制強化に向けた中国政府の「国家安全法」制定計画に対抗する。

 トランプ大統領ホワイトハウスで行った記者会見で、中国が香港の高度な自治に関する約束を破ったとし、香港国家安全法制定は香港や中国、世界にとって悲劇だと批判。「香港に対する優遇策を撤廃する措置を取る」とし、香港の自治の阻害に関与していると見なす人物に対し制裁措置を導入すると表明した。 

画像:Wikimedia commons(One Belt, One Road)

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