中国の強国路線に厳しい目
2008年のリーマン・ショックで世界経済が沈んだ時、救世主のような役割を担ったのは中国だった。
当時の中国のGDP成長率は7・1%で鉱工業生産8・2%増、小売り売上高が22・0%増と、まさに新興国の高度成長期の勢いを失っていなかった。しかもV字回復を目指して約60兆円の景気刺激投資を行なったことで、中国ばかりか世界景気の持ち直しにも一役買った。
しかし今回のコロナ不況では「感染拡大による経済への影響は一時的だ」と強気の姿勢を崩していないものの、中国の1~3月期の成長率はマイナス6・8%、鉱工業生産もマイナス8・4%と大きく、小売り売上高はマイナス19・0%と異常な落ち込み方なのである。
この結果、20年1~3月期のGDP成長率は前年同期比でマイナス9・8%と初のマイナスを記録した。さらに新型コロナの影響で2カ月半遅れた全国人民代表大会で今年のGDP目標について李克強首相は「いくつかの予測困難な要因に直面しているので具体的な年間目標は提示しない」と、これまた異例の報告を行なった。
中国は今年のGDPを2010年比で2倍にする倍増目標を世界に公言しており、そのためには5・6%程度の成長が必要とみられている。今年の全人代の会場では約3千人の地方代表が全員マスクをして参加した光景から見ても、中国のコロナは、まだ終息していないのが実情だ。
こうした中、アメリカとの関係も一向に改善しない。アメリカの上院は中国を念頭に置いた「外国企業説明責任法」を5月に可決した。アメリカに上場する外国企業に経営の透明性を求め、会計監査を義務付ける内容だ。アメリカ市場には電子商取引大手のアリババなどが数多く上場したり、上場を予定している。しかし、中国企業の発表数字は信用し難いとみる向きもあり、市場から締め出されるようなことになると今後の資金調達や信用にも関わる。
中国には2000年代から世界の先進的企業が投資し、いまや中国は世界の工場となっており、2019年の輸出総額は2兆5千億㌦(約270兆円)と、2001年の10倍近くに達している。また世界の企業が中国に進出することで成長や、技術移転も容易に進んできている。これがソ連など他の社会主義圏の近代化過程と大きく違うところだ。しかし最近の中国は軍事費をこの20年で10倍以上に増やし、対香港政策などで強硬強国路線を取り、アメリカに対抗している。また今回のコロナ禍の経緯から先進国企業の中国離れも出ている。中国はこのまま強国・強硬路線で進もうとするのか、世界は厳しく見つめ始めたといえる。
【財界 夏季特大号 第521回】
■参考資料
・米中関係、コロナで「ひどく損なわれた」 トランプ氏 2020年7月11日AFP
ドナルド・トランプ米大統領は10日、フロリダ州に向かう大統領専用機エアフォースワン(Air Force One)の機内で記者団に対し、中国政府による新型コロナウイルスの対応により米中関係が「ひどく損なわれた」と発言。対中貿易交渉の第2段階については考えていないことを明らかにした。
さらに中国について、「流行を止めることはできたはずだ。止めることはできた。止めなかった」と述べた。
・GDP統計の修正で浮かび上がった中国の南北問題 2020年07月10日 NEWSWEEK
<沿海部が発展しているが内陸部は貧しい、という従来の常識は過去のもの。豊かな南部と貧しい北部の南北格差が広がっている>
新型コロナウイルスの思いがけない流行のため、すっかり影に隠れてしまったが、実は今年2月に公表された2019年の中国各省のGDPは驚くべきものであった。
・中国経済の回復、新興市場通貨の追い風になる見通し-今週の新興市場 2020年7月13日 Bloomberg
新興市場では現在、懸念される新型コロナウイルスの感染拡大は別にして、新興国投資家にとって良い状況が続いている。今週の新興市場は、16日発表の中国の4-6月(第2四半期)国内総生産(GDP)が前年同期比2.2%増と、前期の6.8%減からの改善が予想されており、世界のリスクセンチメントのバロメーターになっている人民元は週間ベースで2019年1月以来最大の上げとなった後、さらに上昇する見込み。
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