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脱炭素に出遅れた日本の苦悩

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国際的公益を目指す国際社会の動きに逆らったり、戸惑ったりしていると、後になってそのツケは大きくまわってくるものだ。日本が国際交易の流れを軽視していたため、いま苦しんでいるのが石炭火力発電所の休廃止問題である。

石炭火力発電の国際評価は2007年に一挙に変わった。この年にアメリカのアル・ゴア副大統領と国連で環境問題を検証・研究していた「気候変動に関する政府間パネル(IPPC)」がノーベル平和賞を受賞したため、CO2を多く輩出する石炭への風当たりが強まり、国際的な環境会議では、“脱石炭”が大きな焦点となってきたのだ。

1997年に日本が主導したCOP3(第3回気候変動枠組条約締約国会議)の京都会議では温室効果ガス(CO2)の国別削減目標を決めるなど、一時は日本が環境問題の旗振り役とみられることもあった。しかし、いまやCO2を多く輩出する石炭への風当たりが強くなってから、石炭火力発電に大きく依存する日本はむしろ環境後進国とみなされ始め、石炭火力発電の休廃止に追い込まれてきた。

■100基の石炭火力を休廃止へ
このため政府はCO2を多く輩出する低効率な石炭火力を2030年度までに段階的に休廃止せざるを得なくなった。国内には140基の石炭火力発電があるが、現在非効率とみなされているのは110基あり、何とうち約9割にあたる約100基を10年間でとりあえず休廃止することになる。日本はこれまで石炭火力を有力電源とみなし削減計画を示してこなかったが、国際的な石炭火力削減の流れに抗しきれず大転換することにしたわけだ。

その背景には2015年に開かれたCPO21で温室効果ガス排出削減の国際的枠組を採択したことがある。COP21では2020年から本格的取組みをスタートさせ、途上国を含む全ての国が5年毎に削減目標を提出・更新することが義務づけられている。日本の削減目標は今のところ「2030年度に13年度比で26%減」とされているが、上積みされる可能性も強い。

■日本に化石賞の皮肉
実は2019年12月に行なわれたCOP25では排出削減目標の引き上げが議論されたが、小泉進次郎環境大臣は、目標引上げを明言できなかった。このため国際NGOから「日本は温暖化対策に積極的でない」と批判され、小泉環境相に“化石賞”という不名誉な賞が与えられたのである。

日本の経済産業省や電力、エネルギー業界は「2030年度までに13年度比で26%減らす」と約束はしたものの、基本的立場としては「火力発電所は維持する」と明言しており、石炭火力廃止の方向には至っていないからだ。

それどころか、日本の電源構成比は、石炭火力発電が電力供給のうち27.8%を占め、天然ガス火力の36%に次ぐ規模となっている。しかも福島原発事故で全原発が停止したため、原発の供給割合の30%がほとんどなくなり、ますます石炭使用量が増えているのが実情なのである。また日本の石炭火力発電は世界一高効率といわれ、途上国への輸出にも熱心だった。現在もベトナムなどへの輸出案件がある。

これに対しグテーレス国連事務総長は、COP25で、2020年以降の石炭火力発電所の新設中止を各国に要請しており、フランスやかつての石炭王国だったドイツも石炭火力の廃止や削減の具体的目標を示している。いわば国際社会は脱石炭の方向へ転換しているのが実情なのだ。

日本はとりあえず低炭素化などの技術の進展が反映されていない老朽化施設から休廃止する方針だが、高効率の施設は引き続き維持・拡充するとしている。

政府の長期計画では30年度段階で石炭火力の比率は、なお全電源の26%を占めることになっている。また輸出への公的支援については条件の厳格化を図ることで国際的理解を得たい考えだ。

ただ石炭火力廃止が世界の流れになっている時、なお石炭火力を主要電源の一つとして位置付ける日本の考えに理解が得られるかどうか疑問が残る。太陽光や風力など再生可能エネルギーなどを高めることにもっと力を入れるべきだろう。

原子力発電所福島第一原発の事故後に全て停止されており再稼働は9基だけだし、原発建設には住民の根強い不安、反発があり原子力に置き換えることも簡単ではない。CO2を回収して地中で貯蔵する技術「CCUS(Carbon dioxide Capture,Utilization and Storage二酸化炭素回収・有効利用・貯留)」などの導入や水素エネルギーの利用などCO2の技術開発で脱炭素を目指す方策をもっと強く模索したいものだ。
【Japan In-depth 2020年7月15日】

参考:日本の全発電量に占める自然エネルギーの割合の推移(出所:電力調査統計などよりISEP作成)

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画像:小泉進次郎環境大臣 出典:小泉進次郎氏Facebook

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