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統一ドイツ西欧の盟主に ―統一から30年―

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 東西ドイツが統一して10月3日で30年となった。依然、経済格差はあるが、その差は大きく縮まっている。2020年の旧東ドイツの一人当たり国内総生産(GDP)は、西ドイツの約8割に達し、世帯収入は全国平均に比べ88%にまで増えた。失業率は2000年代初めに18%台だったが、6%にまで下がり、西ドイツの5%弱と変わらなくなってきた。

 その統一ドイツを2005年から牽引してきたのは、ドイツの“お母さん”と呼ばれる66歳のアンゲラ・メルケル首相だ。ドイツ初の女性首相だが、いまやドイツだけでなくヨーロッパの主要リーダーといわれる存在である。1954年7月17日にハンブルグで生まれたが、生後まもなく東ドイツへ移住し、カール・マルクス大学(現ライプツィヒ大学)で物理学を専攻、卒業後は東ベルリンの科学アカデミーに就職し、理論物理学を研究した。

 学生時代に物理学者だったウルリッヒメルケル氏と結婚し、81年に離婚したが姓はそのまま使っている。98年に科学アカデミーの同僚だった量子科学者・ヨアヒム・ザウアー氏と再婚同士で結婚している。サッカーとオペラのファンだが、大の犬嫌いとしても知られる。

 1989年、メルケル氏は友人と一緒に西ドイツ側のベルリンに足を踏み入れ、壁の崩壊を直に見て政治に関心を抱く。当初は小政党に属していたが、1990年にヘルムート・コール首相と出会いキリスト教民主同盟(CDU)に36歳で入党した。同年、国政に出馬し当選すると、第四次コール政権で連邦女性・青少年大臣に任命され、1994年からは連邦環境・自然保護・原子力安全大臣となるなどコール首相に引き立てられてきた。東西ドイツ統一と経済のグローバル化で輸出に強いドイツが欧州一の経済強国になった。さらにEU統合に旧共産圏の東欧やオーストリアなどの中立国が参加し文化・歴史、地政学的にもドイツに近い国々が増え、英仏中心の欧州からいつの間にか欧州の盟主的存在になってしまった。

 ただ“強いドイツ”は、欧州諸国から警戒される立場でもある。戦後、ナチス・ドイツへの反省を様々な形で示してきたが、英国がEUから離脱し、ますますドイツの“一強”が目立ってきた。この時期に科学系の女性首相だったメルケル氏が果たした存在は大きい。物理学者で、特別なイデオロギー、思想の持ち主ではなかった点やこれまで難民を積極的に受け入れてきた政治姿勢が欧州へ自然に溶け込んできた背景にもなっていよう。さらに2011年に徴兵制を中止し、脱原発にカジを切ったことも大国・ドイツへの脅威を薄めることに役立っていただろう。

 ただ2017年の総選挙で移民・難民の排斥を訴える新興右翼政党・ADF(ドイツのための選択肢)が12.6%の得票(94議席)を得て国政に進出してきた。ADFは特に東ドイツ出身者の支持が多かったといわれる。ドイツはこの30年で順調に成長してきたが、コロナ問題などで東西の格差がまた浮き彫りになり、新たな岐路に立たされているともいえる。メルケル首相は来年秋の任期を迎えた際に政界を引退すると表明しているがメルケル後のドイツの行方は再び世界の注目の的だろう。
TSR情報 2020年10月22日】

■参考情報
・ドイツの医療態勢逼迫、「劇的な状況」とメルケル首相-コロナ拡大で 10月29日 Bloomberg
ドイツのメルケル首相は29日、新型コロナウイルス感染の急拡大で医療態勢が限界状態となっており、ドイツは劇的な状況に向かっていると述べた。


メルケル独首相の与党、12月4日の次期党首選を延期 10月27日 Newsweek
メルケル独首相の保守与党、キリスト教民主同盟(CDU)の執行委員会は、12月4日に予定されていた次期党首を選出する党大会を延期することを決めた。新型コロナウイルス感染が拡大しているため。ツィーミアク幹事長が26日、明らかにした。次期党首選の新たな日程は示されなかった。

メルケル首相は2021年10月までに実施される総選挙で再選を目指さない意向を表明しており、党首選の勝者が次期首相の座に最も近い候補になる。

画像:ドイツ連邦政府サイトより

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